コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その日のうちにハイネスブルクへレイミを派遣したシャーリィは、来るべき決戦に備えて陣地構築と戦力の拡充に力を入れていた。
同盟者である『オータムリゾート』、『海狼の牙』には事情を説明した上で戦いが終わるまで取引を中断することを通達。
双方共に理解を示し、必要ならば支援する用意があることを示唆した。
「では支援を受けるとしましょうか。それも可能な限りで」
「良いのか?お嬢。借りを作ることになるぞ?」
「大切なものを護るためならば何でも利用します。それに、抗争が始まってから沈黙していた彼女達が動きを見せたのです。この状況に思うところがあるのでしょう」
事実、『血塗られた戦旗』だけでなくガズウット男爵まで動き始めたと言う情報は『オータムリゾート』、『海狼の牙』を初めとした裏社会に少なからず衝撃を与えた。
万が一『黄昏』がガズウット男爵の手に落ちれば、シェルドハーフェン全体に大きな影響を与える事が予測されるためである。
裏社会の人間は程度の差があれど、貴族に対して良い感情を持ち合わせていない。
表の支配者である貴族と裏社会では相性が悪いのだ。付き合いがある組織はあるが、それも利害関係のみ。
そんな貴族が自分達の目と鼻の先に支配地を得るのだ。当然面白くはなく、裏で糸を引く『カイザーバンク』、『闇鴉』なども密かに危機感を抱いていた。
「まあ、貴族様の支配を受け入れるような奴は居ないだろうからな。『黄昏』が奪われるのは面白くないだろ」
「その流れに乗るだけですよ。上手くいけば、貸しにすることが出来るかもしれません」
「『オータムリゾート』と『海狼の牙』相手にか?相変わらずタダでは終わらないな」
シャーリィは直ぐ様支援を要請。これを受けて『オータムリゾート』は資金面での援助を申し出てきた。
「兵隊は動かせねぇが、金は腐るほどある。それに、私の個人的な金なら古参連中だって文句は言わねぇだろ?」
「屁理屈だな、ボス。だが、文句は言えねぇだろうなぁ」
リースリットは個人的な資金での援助を行い古参達を黙らせる。そして『海狼の牙』は。
「はっはっはっ!やあ!ミス・シャーリィ!」
スキンヘッド強面でボディービルダーのような肉体を持ちながら、爽やかな笑みを浮かべる紳士。
『海狼の牙』首領サリアの腹心、メッツである。
「これはメッツさん、ごきげんよう」
ベルモンドを伴い彼らを出迎えたシャーリィはカーテシーでメッツと挨拶を交わす。
「我らがボス、サリア様よりミス・シャーリィに加勢せよと命じられ馳せ参じました。もちろん私だけではありませんぞ?我が『海狼の牙』の誇る荒くれ者達二百名を引き連れて参りました!」
「うおおおーーっ!!!」
メッツの率いてきた海の荒くれ者達が各々の武器を片手に雄叫びを挙げる。
「なんだなんだ、港の奴等も来てくれたのかい?」
雄叫びを聞いて、町を巡回していたエレノアが顔を出す。
「ええ、『海狼の牙』から加勢に来てくれたんです」
「そうなのかい?なら、しっかり使い潰してやるんだよ?シャーリィちゃん。間違っても、安全な配置なんかにしちゃ駄目だからね?」
「何故ですか?」
シャーリィは首を傾げた。大事な援軍なのだ。『海狼の牙』との関係を壊さないためにも、被害を出さないような配置にしようと考えていた。
「これは『血の盟約』だよ、シャーリィちゃん」
「血の盟約?」
「どんな言葉や物でも手に入らない信頼関係さ。簡単に言えば、シャーリィちゃんは大切なものを護るために血を流してくれた連中を大事にするだろう?」
エレノアの言葉にシャーリィも言わんとしていることに気付いた。
「血を流すことで双方の信頼関係をより深く、強くするための作法ですか」
「義理人情なんてもんは犬に食わせるのが裏社会。じゃあ何を信用すれば良い?結局血なのさ」
「我々を使い潰すつもりで構わないぞ、ミス・シャーリィ。ボスはそれだけの価値があると考えている。まあ、難しく考えなくて良い。是非とも活躍の機会を戴きたい。なにもしないとボスに叱られてしまうからね」
目映い笑みを浮かべるメッツ。『暁』の抗争に『海狼の牙』が武力支援を行うのは初めてであり、これを機により関係を深めようと言うサリアの意思によるものである。
「サリアさんは『暁』のためならば血を流して良いと判断してくださったのですね」
「ただし、これを受けたら今後は私達が『海狼の牙』のために頑張らなきゃいけなくなるんだけど。シャーリィちゃんは構わないかい?」
「何か問題が?サリアさんが理不尽な要求をするとは思えません。だって、それだと楽しくないでしょう」
「はっはっはっ!正しくボスを理解しているようで何よりだよ、ミス・シャーリィ。これから戦いが終わるまで厄介になる」
「メッツさんが居なくて『海狼の牙』は大丈夫なのですか?」
シャーリィは笑みを浮かべるメッツに問いかける。
「ん?ああ、心配は無用さ!君達が三者連合を打ち破っただろう?弱小勢力は君達の容赦のなさに戦慄している。それに、主力は残しているからね。護りも万全さ。逆に大きなところはむしろ観客を気取っているよ。ミス・シャーリィ、君が考えているより周りは君達に注目しているよ」
「あまり世間に注目されたくはないのですが」
「こればっかりは仕方無いさ、お嬢。『血塗られた戦旗』を倒せば大物の仲間入りだ。『会合』入りも難しくないかもな」
「それは良い!ボスも時期が来たらきっと『暁』の『会合』参加を打診してくれる筈さ!」
「『会合』、ですか」
未だに実態が分からないシェルドハーフェンに存在する影の支配者達。
リースリット、サリアが『会合』のメンバーであることは知っているが、詳細は何も伝えられていない。
「うちや『オータムリゾート』のように、『会合』のメンバーだと公言する組織もあれば、ひた隠しにしている組織もある。そして、『会合』には特別な事情が無い限り他のメンバーを部外者に伝えることを禁じている。破れば袋叩きにあう仕組みになってるのさ」
爽やかな笑みを浮かべて説明するメッツ。真夏であることもあり、その暑苦しさにシャーリィも苦笑いを禁じ得なかった。
「炎天下でする話ではありませんね。皆さんのために宿舎を用意しましたので、そちらへご案内します」
「有難い、荷物を整理したら早速仕事の話をしようじゃないか!皆!間違っても町の人や『暁』に迷惑をかけるんじゃないぞ!彼らは大切な仲間なんだからな!」
「ウースッ!」
斯くして『海狼の牙』からの援軍二百名が加わる。だが『血塗られた戦旗』は既に八百名近い人員を集めつつあり、兵力差は広がる一方であった。