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霊感は、第六感のようなものだと言われることがある。
真偽はさておき、私は霊感そのものは弱いくせに、理由のわからない違和感だけを先に覚えることが、昔から妙に多い。
学生時代、坂本と歩いていた時に、何の変哲もない公園を見て「何か嫌な感じがするな」と口にしたことがあった。
すると彼は、公園を一瞥しただけで平然と言う。
「ブランコに女の子の霊が座ってるからな」
私には女の子の霊など視えていなかったものの、それでも「何か嫌だ」とはっきり感じていた。
今回の話も、そんな妙な勘から始まる。
以前、私は建築関係の事務所でデザインの仕事をしていた。
普段は事務所にいることが多かったものの、時折、現場の片づけや掃除を手伝うこともある。
その日も、現場管理責任者から「急な打ち合わせが入った」と連絡を受け、代わりに作業後の片づけへ向かうことになった。
職人による資材の撤収が終わったあと、ホウキとチリトリを手に、お客様の家の周囲を掃いて回る。
すると、風呂場の裏手へ差しかかった時、不意に誰かからじっと見られているような視線を感じた。
作業の手を止めて顔を上げると、視線の先には開け放たれた風呂場の小窓がある。
家にいるのは年配の家主さん1人だけ。掃除が終われば声をかけると伝えておいたので、風呂へ入るとも思えなかった。
耳を澄ませてみたが、水音は聞こえてこない。
少し迷った末、申し訳ないと思いながら小窓越しに中を覗くと、1匹の白猫がこちらをじっと見つめている。
ふっくらとした身体に丸い目、ゆらりと曲がった鍵尻尾が印象的な、とても愛らしい猫だった。
猫好きの私は思わずしばらく見つめ合ってしまう。
けれど仕事中であることを思い出し、後ろ髪を引かれながら掃除へ戻る。
作業を終えて家主へ挨拶すると、彼女は笑顔で声をかけてくれた。
「暑い中ご苦労様でした。お茶を用意したので、よかったら飲んでいってください」
急ぐ用事もなかったので、ありがたくお言葉に甘えることにした。
家主は旦那さんと2人暮らしで、独立した息子達は盆や正月くらいしか帰ってこないらしい。
「足腰を悪くしてからは、必要な買い物くらいでしか外に出なくなってね。人と話すことも減っちゃったのよ」
少し寂しそうに笑いながら案内してくれたリビングで、思わず足を止める。
飾り棚に置かれていた写真に、白猫の姿が収められている。
ふっくらとした身体も、丸い目も、特徴的な鍵尻尾も、ついさきほど風呂場で見かけた猫と同じだ。
写真の周囲には小さな花や飾りが添えられており、単なる愛猫の写真ではないことはすぐにわかった。
「すみません。あの猫の写真って……」
私が尋ねると、家主は写真へ目をやり、懐かしそうに目を細める。
「うちで飼ってた子よ。去年の夏に死んじゃってね」
Doors好きな主
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一瞬、何と返せばいいのかわからなくなった。
けれど家主は私の動揺には気づかないまま、白猫との思い出をゆっくり話し始める。
「とても賢い子だったの。おやつの隠し場所を見つけて、餌の袋を自分で開けたりしてね。それで、こんなにふっくらしちゃって」
寂しさを滲ませながらも、写真を見つめる表情は穏やかだった。
きっと、かけがえのない時間を一緒に過ごしたのだろう。
そして、家主は何気ない調子で続ける。
「夏の暑い日はね、よくお風呂場にいたのよ。誰に教わったわけでもないのに、そこが涼しいってわかってたみたいでね。気持ちよさそうに鍵尻尾を揺らしながら、よく寝てたわ」
その言葉を聞いた瞬間、背中を冷たいものが這うような感覚に襲われた。
つい先ほど風呂場の小窓から私に視えていた白猫は、写真と同じ姿で、生前と同じお気に入りの場所にいたことになる。
遺影だと気づいた瞬間は、飛び上がりそうになるほど怖かった。
それでも、家主が幸せそうに思い出を語る姿を見ているうちに、徐々に恐怖は薄れていく。
あの白猫は、今もまだあの家にいるのだろうか。
これほど大切にされていたのなら、飼い主への恨みや未練があるとは思えない。
それでもなお、生前にお気に入りだった風呂場に現れるのだとしたら、きっと別の理由があるのだろう。
年老いた飼い主が心配で、鍵尻尾を揺らしながら今もそばで見守っている――そう考えると、あの日感じた視線を「怖いものだ」とは思えなかった。