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帰宅準備を終え外に出る。おそらく、もうこの家に戻ってくることはないだろう。
もうすぐ日が沈む時間だ。空を見上げると、一面赤く染まっていた。
「はやく帰ろう、蝶が増えてきた」
パーカーさんは焦っているのか、少し早歩きになっていた。死体を避けながら、私も早歩きで彼を追う。どうして来た時よりも蝶が増えているのだろう。
「あの、パーカーさん…来た時よりも蝶の数増えてませんか?」
「あぁ、この時間は血吸蝶が活発に動き始めるんだ。それにしても今日は多すぎる…一体何が起きているんだ」
彼は辺りを見渡しながら答えた。早歩きのせいなのか、焦っているのか、私は心拍数が少しずつ上がっているのを感じた。私達は無事にエボリュに帰れるのだろうか。
心を落ち着かせようと空を見上げた。さっきよりも空が赤くなっている。赤というより、赤黒いと言う方が正しいのだろうか。 空にノイズが入っているように動いて見える。どうして空にノイズが?
私は立ち止まり、目を凝らして見る。
「…パーカーさん、これって」
パーカーさんが歩みを止め振り返り、空を見上げる。
「血吸蝶ですか?………全て」
沈黙が流れる。お互い信じられず、空を見上げたまま動かない。
「……走るぞ」
私の視線が彼に移る。
「走るぞティファニ、殺される前に」
彼の言葉を合図に私達は全速力で走った。青火草の花畑を踏みつけて、本を落とさないようにエボリュまで走った。
体力が持つ限り走り続けると、やがてエボリュの外壁が見えた。
門に辿り着く、パーカーさんが門を何度か叩いた。
「ライト・パーカーだ、早くこの門を開けろ、血吸蝶の大群が来ている…!」
血吸蝶、その単語を聞くと、門番がすぐに門を開けてくれた。私達は急いで中に入る。
「あんたも早く屋内に隠れたほうがいい、いくら外壁が高いからと言って安心していたら死ぬぞ。蝶はこの外壁を超えてくる…」
パーカーさんが門番の人に、脅しているかのように言う。
「ティファニ、君はもう帰ってろ。僕は国の連中に報告しなければならない」
彼にそう言われて、私は小走りでアルゴちゃんの家へ向かう。向かう途中、パーカーさんが報告したのか、血吸蝶の大群の噂が兵から市民へ、町中の人に伝わっていた。
皆急いで屋内に入る。混沌に包まれた中、私は先程よりも早く走りアルゴちゃんの元へ向かった。
アルゴちゃんの家に着き、急いでドアを開け中に入る。慌てた様子で帰ってきた私に、アルゴちゃんが駆け寄ってきた。
「大丈夫?ティファニちゃん…」
「大丈夫だよ、走って帰ってきたから疲れちゃった」
アルゴちゃんは一瞬安堵の表情に変わったが、すぐに不安で顔を歪めた。
「今、血吸蝶がたくさん来ているんでしょ?私達、大丈夫なのかな…」
「心配だよね、でも家の中にいたら大丈夫だから、そんなに心配しなくていいよ」
私はアルゴちゃんを安心させるように優しく声をかけたが、それでも彼女の不安は消えない様子だった。仕方がない事だ。
血吸蝶の群れが通り過ぎるまで、私がアルゴちゃんを守らなきゃ。