しばらくして窓を覗くと、血吸蝶が数匹町を飛んでいた。まだ外にいる人が急いで屋内に入る。パーカーさんは大丈夫だろうか。
血吸蝶の数が増えていくたび、私達の不安も強くなる。お願いだから、もう誰も死なないでほしい。 血吸蝶の大群が通り過ぎ、家を出たら町中死体まみれ、なんて事になっていたらどうしよう。
きっとこの街も近いうちに滅んでしまう、ヴェリアのように。
気がつけば日が沈み、空は暗く星が輝いていた。
私は疲れて眠ってしまっていたらしく、ソファで寝ていた。起きたら毛布が掛かっていたので、おそらくアルゴちゃんが掛けてくれたのだろう。
「優しいな……」
私はソファから身を起こし、アルゴちゃんの部屋へ行く。扉を静かに開け、アルゴちゃんの様子を確認した。彼女はベッドで眠っていた。
ドゴォンッ
私が再び眠ろうと自分の部屋へ向かった時だった。外から爆発音が聞こえ、数秒後に女性の甲高い悲鳴が聞こえた。
先ほどまで眠っていたアルゴちゃんが、自分の部屋から勢いよく出てきた。
「ティファニちゃん!何、さっきの音…何が起きてるの」
「わ、わからない…爆発?」
私達は窓に駆け寄り外の様子を確認する。
赤く燃える近所の家、爆発に巻き込まれ血をな倒れている人、驚いて外に出てきた人の周りを飛び交う血吸蝶。
「なに…これ……」
アルゴちゃんが小さく呟く。私はうまく状況を把握出来ておらず、言葉が出なかった。私が黙って窓の外を眺めていると、外で男が怒鳴りながら何かを投げていた。
「も、もううんざりだっ!国の奴らは何をしている、外壁をもっと高くしていれば蝶はこの町に入ってこれなかったはずだ!蝶を殺せる毒でも作っていれば、俺達が苦しむ事はなかったんだ!それなのに、奴らは安全な屋内でずっと引きこもって、一体何をしているんだっ!!」
男の怒鳴り声と同時に、また爆発音がした。よく見てみると、男の手には小さな爆弾らしき物が抱えられている。男を止めようと数人の兵士が駆け寄る。
「何をやっているんだ!今すぐ爆弾を捨てろ!」
「うるさい…うるさいうるさいっ!俺の家族は蝶に殺された、あんな小さな虫に!殺されたんだぞっ!俺の家族が死んでる間、お前らは何してた?何もしてねぇよなぁ!」
家が燃えていく。この町は現在進行形で滅んでいるのかもしれない。
「アルゴちゃん、逃げよ」
私はアルゴちゃんの手を引っ張り、必要な物を全て持ち家を出る。あの家にずっといたら、私達まで灰になる。
「え、でもっ、逃げるってどこに…」
「わからない、でも、逃げないと」
私はアルゴちゃんの腕を引き、逃げ場を探すために走った。