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偽・魔術師『空間支配』を打倒し、敵の本拠地?を特定した僕達は、惣一郎の錬成したランドクルーザーで目標の都市部を目指していた―――のだが、
「おいおいおいおい!!この中進むって正気か!?」
車体全体を妖力で護りながらとは言え、銃と魔法が飛び交う中を進むのは正気の沙汰では無い。それに100人以上、いやそれよりもっと多い人数の敵が行く手を阻んでくる。
「仕方ないだろう!?ここしか進める道は―――無いんだからっ!あぁもう邪魔だこの人達!!」
錬金術で錬成した銃を片手にハンドルを操作する男、惣一郎。おかげで運転は荒く、車内に居る僕と謎の男は揺れに揺られながら車体の強化に専念する。
「こ……この先を右です!その先の信号を直進してください!」
ガイド役を務めるのは謎の男。偽・魔術師『空間支配』と共に行動していた一味の中の一人。拘束して尋問(対話)した結果、何故かついてくることになった男。でもまぁ、役に立ってるから良し。
「仕方ない…!!オラオラオラァ!勇者様御一行のお通りだ!道を開けな!」
相変わらず元気が有り余りすぎている惣一郎は軽快に銃を乱射している。数十発が敵に命中しているがキリがない。ここで妖術を使用して一掃するのも手だが、車体の強化を中断した瞬間、この車は爆発して僕達は即死だろう。
「そう言えばお前の名前聞いてなかったな!?これから多分少しの間だが手を組むんだ!教えろ!」
「えぇ!?急すぎませんか!あ、その道を左です!で、名前でしたっけ?!正智です、三宅正智!」
「オーケー正智!!お前一応魔術使えるんだろ!?惣一郎の援護と同時に車体の強化手伝ってくれ!それと、尋問してた時に『20人くらい』って言ったよな!?全然100人以上は居るぞ!」
僕の妖力もそろそろ限界点に近づいている。
刹那、車体が大きく角度を変えて勢いよく車体が回転する。あまりの勢いに一瞬だけ強化する手が止まりそうになったがなんとか踏ん張る。僕は例え天地がひっくり返ろうと車体が回転しようと強化する手を止めない。
テンションがおかしくなってしまっている惣一郎が車のドアをぶち破り、偽・魔術師達を銃で全員撃ち殺して行く。その銃声を聞き流しつつ、正智が偽・魔術『身体上限突破』の魔法を使用して車を元の向きに戻す。
次から次へと絶え間なく敵が増えていく。惣一郎が一掃しているとは言え、流石にこれは追い詰められている状態だ。
「このままじゃマズイ!正智、強化代われ!僕が妖術で薙ぎ払う!」
正智の”身体上限突破”のサブ効果である『全体増強』を車に使用しつつ、僕は影から『太刀 鑢』を取り出して抜刀する。一気に辺りの空気が変わり、不穏な空気が流れ込む。それと同時に惣一郎から大事な知らせが届く。
「政府と警察からの都市部専用術使用許可が降りた!妖術用の許可証をそっちに投げるからキャッチしてくれ!私の錬金術と同時に畳み掛ける!」
都市部専用術。政府、警察から正式に許可された都市部でのみ扱える術の事。許可証には刻印があり、そこから術師専用の妖力や魔力、錬力が確保出来る。
そして、都市部専用術の内容妖術は『鑢・魔獣』。
周囲一帯の敵を切り裂く使い魔を無制限に呼び出す。継続時間は”許可証の刻印”の中にある妖力が無くなるまでの間、一本踏み出すごとに影から無数の使い魔が姿を現す術。
飛んで来た許可証を受け取り、刻印が描かれている部分に指を押し付ける。身体の中に妖力が流れ込む、何度やってもこの感覚は最高で、
「まるで世界最強になった気分だ」
溜まりに溜まった妖力を一気に”解放”する。周囲一帯の地面が黒く染まり、夥しい数の獣が地面から顔を出す。通常範囲は精々15mが限界だが、都市部専用術の場合はなんと約1kmまで広げる事が可能。
だが、下手すれば一般市民を巻き込んでしまう。それを考慮した上で僕は―――
「勿論、フルスロットルで行く」
漆黒の地面を駆け抜け、一番近場に居た敵の心臓を穿つ。心臓を一度突いただけでは死なない事は既に学習済み、突き刺した刀を180°回転させ、心臓部から頭部目掛けて斬り上げる。切り裂かれた身体と頭部からは大量の血と脳漿が飛び散る。
これで術師を殺す方法の確認は出来た。しかし、心臓突き刺した後に刀を回転させるとなると、時間が掛かるかつその隙に返り討ちに遭う可能性がある。
そこから導き出した最速にして最短で仕留める方法。
“蹂躙喰者”(黒龍が片手に憑依し、翳した先に居る敵を喰らう術)を展開させ、敵の心臓がある位置を抉り取り、頭部を刀で一刀両断する。
黒龍を左手、刀を右手にする事で1、2回の動作で敵を確実に殺せる。
「惣一郎さん、車の修理が終わるまで時間稼ぎます。修理完了と同時に合図下さい」
僕の台詞を聞いた惣一郎は頷いて肯定する。
「さぁさぁさぁさぁさぁさぁ!!纏めて掛かって来いよ魔術師共がァ!!」
左手に宿る黒龍が僕と共鳴し合って怒号をあげる。それに驚いて逃げ出した人物が数人居たが、そいつらは放っておいて目の前に居る、約60人の敵軍を相手する。
束になって殴りかかってくる輩を黒龍で一気に喰らい尽くし、一体ずつ確実にトドメを刺す。だが、次から次へと流れるように敵が攻めてくる。あっという間に周辺一帯は大量の死体と赤色の液体が散乱している状態になった。10人、20人、30人、40人と刀を振るって敵の命を根こそぎ刈り取る。
その光景を見た敵は後にその場面を「正に地獄と言う言葉が良く似合う光景だった」と語っている。
「ガハハハハハハハハッ!!全員ぶっ殺したらァ!!」
妖力をいつもより大量に摂取した挙句、一瞬にして全てを使い切っている為、脳の処理が追いついていない。何も考えられず、ただ本能の儘に敵を皆殺しにする。
57体倒した所ら辺で違和感を感じる。時間が経ち、少しづつ脳が回転し始めた頃にやっと気付く。
「おぉ〜い!!修理終わったよ〜!!早く乗ってくれ〜!!」
惣一郎の声と共に、再錬成された車が音を立てて此方に近づいて来る。”肉体強化”の術を展開しつつ車と同等の速度で疾走する。車の扉が豪快に開けられ、中から正智の手が現れ、僕はそれを掴んで勢い良く乗り込む。
「惣一郎さん、これ以上”蹂躙喰者”の術を使用したら僕の体が持ちません!一度ここは戦力確保の為に撤退を!」
「それもそうだね、この車の耐久力もそろそろ限界を迎えて来ているから一旦離脱するしか―――」
――――――逃がさない。
決して”声”が聞こえた訳でも、脳内に直接語りかけられた訳でもない。なのに、体全身が『ソレ』に怯え、震えている。今までに無い程の悪寒、本能が「今すぐ逃げろ」と言っている。
その理由は明々白々、車から約50m離れた位置に”二人の女性が立ち尽くしている”。
“それ”は一般市民でもそこらじゅうに佇む偽・魔術師等の領域では無い。”桁違い”、”異常”と言う言葉が適切だろう。
一人は、黒髪ロングヘアの女性。太陽を一度も浴びた事が無いと思える程に肌が白く、足元に赤い彼岸花が描かれた和服を来ている。片手には扇子、もう片方の手は和服で見えない。
そしてもう一人は、茶髪ショートの女性。裏葉色の着物の腕部分に緑の市松模様が描かれている。両手に何も持っておらず、無防備に近い。
「や……やばいっすよ。多分あの二人が本物の魔術師ですよ…!」
正智が震えた声で二人を指差しながら言う。正常を取り戻した惣一郎は慌ててブレーキを強く踏み込み、車は急停止する。
『本物の魔術師』と正智は言った。それが本当なら、目の前に居る女は東京大規模魔法事件の実行犯。そして、2年後に再び惨劇を起こそうとしている人物。
勿論、この後に起こす行動は一つのみ。
「惣一郎さん、この場を離脱して協力者を集めてください。正智の魔法と僕の妖術でどうにか時間を稼ぎます。それに―――あいつは絶対に僕が殺さなきゃいけないんです」
惣一郎の回答を聞くよりも先に、扉を開けて外に出る。正智も同じように少し震えながらも降りる。
女との距離は凡そ40m。肉体強化を展開して斬り掛かったら確実に殺せる距離。だが、相手の魔法や強さが分からない儘突撃するのは自殺行為。ならばいっその事話し掛け、相手の魔法を自らの口から吐き出させる。
「お前達が本物の魔術師、で良いんだな?その気迫、並の人間が出せるモノじゃない」
女は僕の第一声に少々驚いた表情をする。しかし、直ぐに気味の悪い笑顔に変わり、
「な〜んだ、魔術師って事バレてるんだ。そう言う君こそ、妖術師で間違い無いわね。まさかこんな早く会えるなんて思ってもいなかったわぁ」
「あ、そうよね。先に名乗った方が礼儀正しいわね。御機嫌よう、私の名前は『沙夜乃』。名前だけでも覚えて逝ってください?」
会話の途中で突然、僕の隣に居た正智と”沙夜乃の隣に居た女”の位置が入れ替わる。一瞬すぎて僕は反応が遅れ、顔面に一発”強烈なパンチ”を喰らう。
この感じ、一度前にも体験している。
「―――『空間転移』の魔法か!?」
「正解っ!!それと、今貴方を殴り飛ばした彼女の名前は『羽枝』と言うわ。少々人見知りだけど、仲良くしてあげてね?」
少し距離を取って態勢を立て直す。だが、その一瞬を見計らって羽枝は間合いを詰めてくる。―――速い。
羽枝の拳が僕の右腕と接触し、骨が軋む音が聞こえる。まるで鉄の塊で殴られているかの様な感覚。それを羽枝は何発も僕の体に当ててくる。防御しようとしても、簡単に崩されて再び拳が顔面に炸裂する。
『太刀 鑢』を取り出して戦いたいのは山々だが、取り出す隙すら無い。数秒を縫って間合いを詰めてくる為、なにも出来ない。
こうなれば、僕も拳で応戦するしかない。
「”強制身体強化”。すいませんが、少しだけ痛みます―――よっ!!」
身体のリミッターが解除されて、羽枝の攻撃より速く打撃を繰り出す。所々躱され、受け流されているが何発か命中している。
この殴り合っている時間が凄く長く感じる。だがそれも一瞬で終わりを迎え、扇子の畳む音と同時に再び位置が入れ替わる。次は正智と羽枝、僕と沙夜乃の組み合わせだ。
沙夜乃は魔術師が故に接近戦が不向きだと予想し、距離を詰める。が、一瞬にしてそれが間違いだと気付く。”魔法の範囲内”に入った僕の真横から”大きなトラック”が重力の法則を無視して突撃してくる。寸前の所で回避したと思った矢先、再び別の車が正面から突っ込んでくる。
『空間転移』の魔法。偽・魔術師が使っていたのとは別次元で厄介だ。早急に対策したい所だが、今の僕の役目は”時間稼ぎ”。
「ほれほれ、どうしたどうした?妖術師とはこの程度か!?」
幸い、沙夜乃は僕達の真の目的に気付いていない。それに、正智の身体上限突破を利用すれば転移対策が可能になる筈だ。だから今真っ先にやる事は、正智と合流しつつ沙夜乃の相手をする事で―――………
「所で、あちらの男性は友人?それともただの仕事仲間なのかしら?」
沙夜乃の居る方向に向かって、強化された身体で疾走している僕の目に映った光景。それは受け入れ難い現実でもあり、一番恐れていた事だ。そこには、関節があらぬ方向に曲がっており、全身から血が吹き出している男―――正智が居た。
「―――っ正智!!」
沙夜乃ではなく、正智の倒れている場所に方向転換した僕を弄ぶ様に、僕と沙夜乃が入れ替わる。その先に居るのは勿論、羽枝。そしてこいつが恐らく正智を殺した張本人。
「あの男性、凄く弱いですね。逆に良くあそこまで生き延びれたのか知りたいぐらいですよ」
初めて羽枝が口を開く、だがその内容は正智に対する罵倒。それを、僕は許さない。
「正智は途中で知り合った特に縁のない奴だけど、一度は共に戦った戦友なんだ。それを侮辱するのはこの『俺』が絶対に許さねェ!!」
―――狂刀神ノ加護、発動。感情を受け取った狂刀神が僕に力を与えんと共鳴し合う。刀が黒く変色し、赤色の輝きを放つ。身体が少しづつ乗っ取られて行くが、僕は意識を手放さない。何がなんでも己の手で仕留める、その一心で。
「―――『何がなんでも全力で叩き斬る!』」
「―――やってみなさい!その程度の力で私達に勝てると思い込んでるその頭を破裂させてあげるわ!」
第一章 7 ②に続く
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『遡行禍殃』第一章 7 ① を読んで頂きありがとうございます。第一章 7 ① のタイトルは『vs魔術師戦:序』です。
投稿遅れてしまって申し訳ございません。最近体調を崩して執筆する手が止まってました。その為、今回の話(第一章 7 )は分割して投稿します。
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