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ウッドゴーレムから跳んだケインは、その鍛えまくった跳躍力とエテナ=ネプト人としての能力を使い、地面に降り立っては大ジャンプして、長距離を滑空するように高速移動していた。
「そろそろ聞い──」
「ぴいいいいいやああああああああああああああああ!!」
その腕の中で、パフィはひたすら悲鳴を上げていた。ケインが話しかけたところで、何も聞こえてはいない。
「君達の服はやは──」
「たすけてたすけてこわいのよおおおおおおありえったあああああああ!!」
「あー、おちつ──」
「きゃああああああきゃあああああああひあああああああ!!」
エテナ=ネプトでも、パフィは星間移動で毎回絶叫していた。同じ事をやれば当然こうなる。乗り物の無い高速飛行は、パフィにとって禁忌なのだ。
これでは話が通じないと思い知ったケインは、まずは目的地に向かう事にした。その場所は既に目視出来ている。そして超至近距離から聞こえる大絶叫を聞き流しながら、後ろから追ってくる存在に淡い期待を寄せるのだった。
一方ケインを追うピアーニャは、元いたコロニーであるトランザ・クトゥンの方向に向かっている事に気が付いていた。つい先程、ウッドゴーレムと一緒に移動したので覚えていたのだ。
ケインの飛行速度程ではないが、『雲塊』の最高速度もかなりのものである。ピアーニャの後ろにいるクォンは、ベルト状に飛び出している雲に押さえつけられているにも関わらず、あまりの速度に怖くなって必死にしがみついている。
「おのれ! ドコカにかくれるキか」
「もうやだたすけてムームーさまあああああ!!」
パフィ程ではないが、こちらも絶叫中だった。
「む?」
もう少しでトランザ・クトゥンに着地するという所で、ケインが進路を少しずらした。その方向に見えているのは……
「なるほど、にがさんっ」
「ひゃあああおちいいいいいいい!!」
目的地が分かったところで、ピアーニャはその速度のまま高度を下げ始めた。
すっかり大人しくなったミューゼが、ウッドゴーレムの肩上でアリエッタを押し倒していた。その顔は完全に蕩け切っている。
腕の中にいるアリエッタはというと、顔を真っ赤にして小さくなって目を回していた。
「うふふ、アリエッタったら、ダ・イ・タ・ン♡」
(なんでなんでてりああああああ~~)
(純情弄ばれて可哀想に、アリエッタちゃん……)
ドルナ・ケインをどうにかして消そうとするミューゼを、ネフテリアが強引に止めたのだ。ネフテリアから見ても、ケインが増えるのは精神衛生上よろしくない。しかし、ピアーニャとやり合えるかもしれない善意溢れる実力者を失うのは、為政者としては勿体なかった。
離れた場所から冷静に考えた結果、味方に引き込む事にしたのである。ただしファナリアには居てほしくないという前提で。最強の変態を他人に丸投げする気満々だ。
ミューゼに嫌われ過ぎて微妙に落ち込んでいるケインを説得すると決めた後は、すぐにミューゼを止める行動に移った。ミューゼを止めるのは簡単である。なにしろミューゼに対して無敵を誇る最強の武器が手元にあったのだ。
ネフテリアはアリエッタを抱え、ミューゼの目の前に躍り出た。アリエッタを盾にすればミューゼからは手を出せない。そして揺さぶる。
「ミューゼ。アリエッタちゃんからの気持ちを受け取って」
「えっ」
動揺。そしてアリエッタをぶつける。
むちゅっ
そう、アリエッタの唇をミューゼの唇に優しくぶつけたのだ。
途端に爆発し、フニャフニャになる武器。すぐにミューゼがその武器を奪い取り、押し倒した。そのまま頬擦りとナデナデを繰り返している。どさくさに紛れてたまに変な所を触っているが、その場の全員がスルーを決め込んでいた。
突然の事ですっかり我を忘れている2人をそのまま放置し、ネフテリアはケインと真面目に話を進めるのだった。
「……俺様がその『ドルナ』って事は、未来の俺様から聞いたが」
「ああ、お互い把握はしていたのね。まぁ迷惑かけるとかじゃなければ好きにしていいわ。前例もいるし。それでね──」
変態性を前面に押し出していなければ、至極真面目な警備隊長。ネフテリアもその状態であれば話しやすいようだ。筋肉と服装のセットには意識を向けないようにしているが。
こうなると退屈なのはムームー。クォンがいなくなってしまったので、1人周囲の戦闘行為を眺めてまったりしている。今はソルジャーギアの援軍が駆けつけてきて、ツインテール派とツーサイドアップ派の争いを鎮圧している所だ。
ちなみにフーリエは、エンディアが落ちた時点で追いかけていったので、この場にはいない。
「クォン、今頃どうしてるかなぁ。総長がいるから無事だとは思うけど……」
自分の恋人が、総長によって守られている姿を想像し、微笑ましいと思いながらも、その役目は自分がやってあげたかったと、少し嫉妬するのだった。
守られて安全な筈の可愛い恋人は、元凶の行動によって最後の大絶叫を上げていた。
「ぎゃあああ速い速い速い速い落ちる落ちる落ちる落ちるうううううう!!」
目的地間近になって、ピアーニャは迷わず地面に向かって突っ込む。今はとにかくスピード勝負。安全面さえ確保していれば、少々怖いくらいでは止まらないのだ。
「にがさん!」
ケインより遅れること少々。ピアーニャは建設中の転移の塔へとやってきた。そこで見たものは……
「ん?」
「ひぃーっ。へひぃ~っ。げほっげほっ」
「……そ、総長?」
地面にへたり込んでいるパフィと、立ったまま微動だにしないケイン。そして、その目の前に立っているのはソルジャーギアでパフィと仲良くなり、料理をふるまってくれていたウベル。そして周囲ではエーテルガンを持ったサイロバクラム人とシーカー達が睨み合っていた。
「なんだこれは?」
「あああああこわかったよおおおおおお」
「うるさいぞクォンだまってろ!」
「んぐ……」(総長さんヒドイ……今度アリエッタちゃんけしかけてやる)
「総長! その男に気を付けてください!」
「ああ、わかっている」
クォンを無理矢理黙らせた所で周囲のシーカーに声をかけられ、ケインを警戒するピアーニャ。しかしその時想定外の事が起こった。
ぐら……バタッ
「は?」
ケインが倒れた。ウベルが不敵に笑みを浮かべている。
「なん……だ? なにがおこった?」
警戒を強め、『雲塊』を構えるピアーニャ。相手はあのケインをこの短時間で倒した者。しかも余裕の笑みを浮かべている。
「キサマ、なにものだ!」
「ククク……」
「ウベルさんはツインテール派なのよ」
「ん?」
「しかもレジスタンスだったのよ!」
「…………え?」
パフィから聞かされた衝撃の真実に、ピアーニャは驚愕した。
(いまさら、そんなヤツにでてこられても、どうしたらいいんだ? しかもイチバンえらいやつ、アッチでうごけなくなってたぞ)
リージョン全体での争い事の裏に、妙な楽しみのような雰囲気を感じ取っていたピアーニャ。ツインテール派自体には直接的な害意を感じなかったので、薄々どうでも良くなっていた所なのだ。
しかしレジスタンスとなれば話は別。一応危険なアーマメントを持っているのを確認したのと、転移の塔の爆破未遂の事もあって、注意していた。
サイロバクラムの戦力はまだ不明な部分は多いが、それは技術力が未知で溢れている為である。交流の少ない未知のリージョンでは、決して楽観してはいけないのだ。
「トランザのソルジャーギアにツインテールはが、はいりこんでいたんだな」
「当然です。ツインテールは世界で最も尊いのですから」
「仕事が終われば集まって崇拝してるからな」
「公私混同なんてしないわよ」
「そ、そうか……」
ピアーニャは確信した。派閥戦争はプライベートの趣味活動だと。おそらくこのリージョン全体で行っている半永久的なパーティーのようなモノだと。だからツインテール派とツーサイドアップ派が暴れても、大騒ぎになれど捕縛案件にはならなかったのだと。
これはもう、こういうリージョンだと思って諦めるしかない。せめてレジスタンスだけはどうにかしようと思ったのだった。
「おいパフィ……」
「総長は下がっているのよ。これは私にしか無理なのよ」
「どういうコトだ?」
話をしている間に、ケインは周囲のレジスタンスによって引きずられていった。そして何故かテーブルが2つ用意され、パフィとウベルが前に出た。
「ワタシがパフィさんに決闘を申し込んだのですよ」
「ケットウだと?」
「……逃げるわけにはいかないのよ」
(なんだ? なにかヨワミでも、にぎられたか?)
2人はテーブルに着き、横にある四角の野菜を手に取った。それを包丁で刻み始める。
「………………………………はい?」
「なにしてるの?」
その行動の意味が分からないピアーニャとクォン。レジスタンスやシーカー達は固唾を飲んで見守っている。
やがて2人はドレッシングを作り、食感を変える為のクルトンも作っていく。そして出来上がったのはサラダだった。
「出来たのよ」
「……流石にお早い。こちらも完成です」
料理に関してラスィーテ人の速度に対抗するのは難しい。しかし、ウベルはなんとか追随し、少しだけ遅れて完成させていた。ピアーニャからしてみれば、それでも驚異的な早さである。
しかし何故サラダを作ったのかが分からない。
「………………」
「………………」
2人は無言でサラダを交換。そして同時に口に運んだ。
「………………」
「………………」
2人とも無言のまま、完全に停止した。
「お、おい? どうし──」
どっ、バタッ
声をかけたところで、パフィが膝から崩れ落ち、そのまま倒れてしまった。
「パフィっ!?」
「ま、まさか毒!?」
「そんなハズは! ラスィーテじんにドクをたべさせるのは、ほぼフカノウなんだぞ!」
慌ててパフィに駆け寄る2人。パフィの顔を覗き込んだピアーニャが、キッとウベルを睨みつけた。すると、ウベルが白目を向いて、パフィと同じ様に崩れ落ちた。