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「どうぞ」


城咲はドアを開けると振り返り、先に凌空を入れた。

そして躊躇している凌空を追い抜くように靴を脱いで框に上がると、すたすたとリビングに入っていった。


仕方なくついていくと、リビングの真ん中には大きなスーツケースが置いてあった。

どうやら留守にすると言うのは本当らしい。


城咲は寝室から出てくると、スーツ一式をハンガーのままリビングのソファにかけ、凌空の目の前で着替えだした。

健彦が持っているような背広ではない。

一目でそれとわかる上等なスーツだ。

城咲は慣れたしぐさでネクタイを巻くと、シンクに自分を映し軽くそれを直した。


「……花屋さんてネクタイを結ぶのも上手なの?」


嫌味をこめて聞いてみる。

すると、城咲は視線だけこちらに送った。


「花は趣味でやってるだけで、別に店員じゃないよ。本当はね」

「――――」

凌空はぱちくりと目を見開いた。

「じゃあ、あんたの仕事って……」

「県内に20個あるホームセンターの社長」

「………」

これには口を開けるしかなかった。

「父が築いた功績だから。俺はただ彼の遺言通りに継いだだけで、驕るつもりはないけどね」

彼はあっという間にこれまた上質なネクタイを巻き終えると、凌空にソファへの着座を促した。

「そこに座って」

有無を言わさぬ口調でそう言うと、城咲は襟を正しながら、寝室から何かを持ってきた。


ノートパソコン。

先日、自分に写真を見せてくれたパソコンだ。

彼はそれを起動すると、キッチンカウンターに無造作に置いてあったヘアワックスを手に取り、髪の毛を整え始めた。

「――それ見てちょっと待っててね。すぐ来るから」

そう言い残すと、城咲はスーツケースを引きずりながら廊下に出て行ってしまった。


玄関のドアが開き、閉じる。

外出してしまったのだろうか。


手持無沙汰になった凌空は仕方なくパソコンの画面を見つめた。


「―――?」

だんだん明るくなってきたディスプレイに初めに映ったものは、ダイニングテーブルだった。


見たことがある。


この色。

この質感。


これは―――。


「俺んち……?」

凌空は目を見開いた。


間違いない。


ダイニングテーブルの向こう側にサイドボードがあって、そこに幼い頃、輝馬と共に投げて遊んだスライムの油分がクロスについてしまったシミがある。


(ナニコレ。盗撮……?)


背筋が冷たくなった。


いつの間に家にそんなものを仕掛けたのだろう。

ずっとこうして見られていたのだろうか。

いつから?


「あ……!」


凌空は思わず声を出した。


あれだ。

城咲が紫音に渡したプリザーブドフラワー。


晴子が返すように言って、紫音が抵抗し、健彦が晴子を叱った黒薔薇。


そこにカメラが仕込まれていたとしたら……。


思わずタッチパッドを弄る。


このカメラにはあのドアも映っている。

南京錠をかけたあのドアも。


と、触った拍子に画面が切り替わった。


「……これは……」


これも見覚えがある。


自分たちが毎日通っている部屋の外の廊下。

視線位置から狙ったアングル。


これはどこにカメラが……?


「……表札!」


城咲が越してきてから数日でつけられたテラコッタ風の表札。

そこにカメラが付けられていたのか。


自分たちはずっと、

この男に監視されてきたのだ。


なぜ。

なんのために。


『おはよう。あら、旅行?』


パソコンから聞き慣れた声が響いてきた。


「母さん……!」


凌空は思わず画面をのぞき込んだ。


『いえ、ちょっと質のいい肥料が手に入ったので、実家の方の花壇をいじりに』


低い声。


凌空は画面に映し出された城咲を睨んだ。


(こいつ、何をするつもりなんだ……!)


何か変なことをしたら今すぐ飛び出して、晴子を助けなければ。


凌空は立ち上がった。

しかし、


『……なんだ。他に若い女でもいるのかと思った』


「!!」


凌空は食い入るようにディスプレイを見つめた。


なんだ、今の言葉。



若い女でもいるのかと思った?


他に?


誰の他に?



晴子が城咲を見つめる。


『まさか』


城咲が笑う。



『僕にはあなただけですよ』


凌空は、画面から身を離した。



―――何を言ってるんだ?



城咲は。


そして、


母は。



画面にアップになった2人の唇が、凌空の目の前で合わさる。


けして初めてではない、今までおそらく何度も何度も繰り返されたキスだということが、2人の慣れた様子でわかる。



カッと顔の表面が燃えるように熱くなる。


母の唇を味わうように吸っている城咲の顔を睨む。


……何をしてる。俺の母親に。


うっとりと城咲を見つめている晴子を睨む。


……何をしている。これから再出発しようとしているのに。


凌空が睨むその先で、2人の唇がやっと離れた。



『なんか、数日前とちょっと雰囲気が違うみたいだ。何かありましたか?』


城咲が晴子をのぞき込む。


『……戻ってきたら、教えてあげるわ』


晴子はなにやら得意気に微笑んだ。



『そうですか……』


城咲が少し身を引く。


『でも、今聞きたいな』


次の瞬間、城咲は右手を引き、拳を握ると、それを思い切り晴子の鳩尾に打ち込んだ。



「あっ!!」


思わず凌空は悲鳴を上げた。



ソファから立ち上がると、凌空は走り出した。


段ボールをよけながら廊下を抜け、ドアを開ける。



そこには、ぐったりと意識を失った晴子を抱える城咲が立っていた。


「母さんに何するんだよ!!!」

凌空は城咲を睨み上げた。


「ただ気を失ってるだけだよ」

城咲は表情一つ変えずに晴子を肩に担いだ。


イカれてる。

今すぐ母を助けなければ……!


「返せよ!母さんを今すぐ返せ!!」


尚も食って掛かる凌空を、城咲は小さいため息を吐きながら見下ろした。


「返すよ。こんなの俺はいらないからね。でもキミ、本当のことを知りたいんだろ?」


「―――!!」


凌空は城咲の不気味な笑みを見上げた。


「俺が教えてあげる。晴子さんは可愛くてわかりやすい人だけど……」


城咲はドアを開けながら言った。


「ちょっと、嘘つきだから」



―――今ならわかる。


いちばん初めに城咲が晴子を「晴子さん」と言ったときの不快感。


この男にとって晴子はあのときからすでに「お隣りの奥さん」ではなかったのだ。


凌空は唇を噛んだ。


「――――」


それ以上噛みついてこない凌空に微笑みながら、城咲が晴子を担いだまま部屋に入っていく。



本当のこと?


何が待ち失せている?



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