🌧⛓と💉の話。💉視点🌧は出てこないしあんま要素ない
🌧(→)←⛓
ほっ、と独りでにため息を零す。小さく儚い安心はこの海の底で泡のようになって消えていった。長いこと手に持っていた医療器具を静かに机に置き、ぐーっと両手を高くあげて背伸びをする。固まっていた体に血液が回っていくようでぽかぽかと温まっていく。今日はいつにもまして忙しかった。なんせ、囚人達による闘技大会があったものだから。いくら、あの厳格の象徴とも言えよう公爵が注意をしても、やはり久しぶりの運動は色々な意味で熱くなってしまうようで、何人もの怪我人が運ばれてきていた。さっきの囚人で最後だったようで、誰も入ってくる気配がしなかったため自分の席に座り込み、机へ肘を着く。数分。うとうと、と船を漕いでいれば、聞き知った声が耳に届く。
「おや、看護婦長。お疲れかな?」
「…公爵!いらっしゃい、あなたもどこか怪我をしたの?」
怪訝そうに目を潜め、目の前の彼を見据える。怪我はないようだが、なんだか……いつもより心拍数が多いような気がする。体温も少し上昇しているし。なんなら顔が赤い。もしかして…これは
「……公爵。あなた、誰かの事が好きなの?」
「は?」
「なんだかあなた、いつもより体に異常が多いのよ。でも、病気の痕跡は見えないし、病気でないとするとその症状に当てはまるのは…恋、だわ。」
違うかしら、と首を傾げて目の前の彼に問いかける。そうすれば彼は頭を抱えて、参ったな、と零した。その時の彼の顔が迷っているのか、困っているのか、もしくは嬉しいのか。そんな複雑な表情だった。これは、きっと当たりなんだろうし、本気なんだろう。
「その顔から見るに…あの新しい囚人かしら?」
「…それはないな。俺は囚人に特別な好意は抱かない。」
「確かに、そうよね。なら…クロリンデさん?」
「彼女は………どうだろうな?答えを言っても面白くないだろう?」
突然、にやーっと彼は口角をあげ悪い笑みを浮かべる。この返答はあまり彼を知らない人から見れば、その答えは当たりで、照れ隠しのように感じるのかもしれないが、案外長い付き合いであるシグウィンは分かっていた。(彼女が人よりも特別勘が鋭い、というのもあるが)
「ふぅん……なら、ヌヴィレットさん?」
「ハッ、なんであの人の名前が?あんな高貴なお方にそんな不純な思いを抱けるわけが無いだろ?」
あ、当たりね。
ヌヴィレットさん、という単語を聞いた時、公爵の心拍数が不自然に上がった。それに瞳を閉じて、にこり、と笑うのは嘘をついている時の彼の癖。
「あらあら…なるほどね。まあ、相手が誰なのかは分からないけど…。あなたがちゃんとした感情を抱くのは何年ぶりかしらね?うふふ、あなたがその感情を思い出してくれてウチも、とっても嬉しいのよ!!」
それに、恋してる時のあなたはとってもかわいいものね!!と最後に付け足すと、公爵はお手上げだ、とでもいうように両手をあげ、「そりゃどうも」とかすかに笑いながら吐き捨てた。
「なぁ、看護婦長」
「なぁに、公爵?」
名前を呼んだ彼に目線を向ける。不安そうに口を一度きゅっと結んで、彼は躊躇いながらも、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「…応援、してくれるか?」
「まぁ…!勿論よ!あなたがどんな人を好きになろうがあなたの自由だわ!どんな人でも応援してあげる!なんだったら協力だってしてあげるわよ!」
「ハハッ、心強いな」
そう笑った彼の顔はとても楽しそうで、嬉しそうで。本当に可愛かったわ
公爵、またその顔を見せてよね!!
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