コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あにゃあああっ!?」
小屋に入るなり、アリエッタは悲鳴を上げた。
どごろバキぐしゃっドタドタッ
「どうしたのよ!?」
「いやいや、パフィがどうした!?」
悲鳴に反応して慌てて出てきたパフィの頭には、包丁が!……刺さったキュロゼーラが2体くっついていた。体中には飛び散ったと思われる料理のソースや汁が付き、手には葉野菜型のキュロゼーラの一部が握られている。小屋の裏で料理中だったが、アリエッタの悲鳴で慌てて顔を出したのだ。
さらに、パフィの足元だけでなく、頭や肩などから、キュロゼーラ達が次々に顔を出す。
「パフィ、ずいぶん懐かれたね……」
「殺れば殺るほど懐いてくるのよ。ムームーも殺るのよ?」
「ゴメン、遠慮するわ」
アリエッタを見ている目はいつも通りだったが、キュロゼーラの話をしたときに一瞬濁ったのを、ムームーは見逃さなかった。ここでパフィに料理の話題を振るのは良くないと判断し、アリエッタに視線を向ける。
そのアリエッタは、顔を真っ赤にして、手で顔を覆っている。
「何があったのよ?」
「いや、ミューゼオラのパンツがとれた」
「は?」
「だいたいパフィのせい!」
「え?」
ミューゼは小屋に入るなり、スカートの中の違和感を取ろうとしたのだ。
他のシーカーもこの場にはいないので、躊躇なくスカートをたくし上げたが、覗き防止も兼ねて固い布で作られたパニエも入っているので、どうやって両手で生地を取ろうか、その為にどうやってスカートを固定するか考えた。脱いでも良かったが、面倒だと思ったのだ。その結果、アリエッタにスカートを持つよう頼んだのである。当然アリエッタは内心大慌て。
身長の低いアリエッタの小さな手でパニエ入りのスカートを押さえるには、がっつり上に捲り、両側で抑える必要がある。そしてミューゼはちょっとしたイタズラ心で正面にアリエッタを立たせ、スカートを押さえてもらった。
こうしてアリエッタの目の前に広がるスカートの中身。小麦粉生地の塊しか見えないが、その行動の背徳感から挙動がおかしくなり始める。
アリエッタの表情を少しだけ楽しんだミューゼは、下半身を包み込む生地を脱ごうと手をかけた。しかし、座っている間にモゾモゾしていたせいで、しっかりとくっついてしまい、それでも強引に外そうとした結果、アリエッタの目の前で全部脱げてしまったのだった。
それでアリエッタが驚き、悲鳴を上げてしまったのである。前にも似たような事はあったし、よく風呂に連れ込まれているが、幼くなった情緒にはいつまで経っても刺激が強いようだ。
すっかりおとなしくなってしまったアリエッタの面倒をムームーに任せ、ミューゼはパフィに物申す。
「パンツが生地に埋まっちゃってるんだけど」
「それは知らないのよ。生地をお尻でこねたから、パンツまで生地になったんじゃないのよ?」
「なるかっ!」
違和感のせいで座ったままモゾモゾと動いていたせいで、パンツを練りこんでしまったらしい。手に持った生地にくっついてしまっている。
「おーよしよし、ビックリしたねー」(何やってんの。聞いてるこっちが恥ずかしいよ……はやく履いてくんないかな)
ミューゼ達に背を向け、真っ赤になって俯いているアリエッタを抱きしめてあやしているムームーだが、こちらも少し赤くなっている。
「パンツ入りパンでも焼くのよ?」
「やめて!? キタナイから!」
(……そとのヤツらにみせたら、センソウがおこるヨカンがするのは、なんでだろうな)
会話内容が過激なせいで、ピアーニャも呆れ顔。ラッチも、服の概念はパルミラからしっかり教え込まれたので、子供の教育によくない会話をしているのは理解している。今その子供に、人の話を聞く余裕は無さそうなので、放置しているが。
小麦粉生地をミューゼが持っていても仕方がないので、操ることが出来るパフィへと手渡した。生地だけを操るので、細かい不純物でなければ、簡単に外せるのだ。
「とにかく、帰ったら洗うから、せめて生地は全部外してくんない?」
「仕方ないのよ。……これはこれで高値で売れそうなのよ」
「売るなっ」
ミューゼとパフィの漫才が続く中、ピアーニャが突然、不穏な気配を感じ、辺りを見渡した。
「……げ」
小屋の奥、何事も無く残っていたドアの絵。そこから、唖然とした顔でパフィとミューゼのやり取りを見つめる、王女の顔が浮き出ていた。
ピアーニャは無言で自分の横に浮かんでいる『雲塊』を掴む。そしてその時、ネフテリアの顔が掻き消えた。
『うぇひぃ!?』
今度の悲鳴はミューゼとパフィのものだった。ネフテリアは魔法を使って身体を限界まで強化し、ミューゼとパフィの間に一瞬で移動していたのである。
ピアーニャが一瞬見失ってしまう程の超人的な動きを見せた王女は、これまでにないくらい優雅さを全身から漂わせ、戦場で指揮を取るかのような真面目な顔でパフィに言い放つ。
「言い値で買おう」
「アホかあああああ!!」
ゴスッ
すかさずピアーニャが『雲塊』を投げつけていた。
ここにいる筈のないネフテリアには、シーカー達にバレないうちに早々に退場してもらい、ミューゼは替えの下着を身に着けた。
アリエッタはまだ照れた状態で、よりによって少しむくれたミューゼに抱っこされている。
「ひどいよねー、アリエッタ」
「ん」
「テリア様を大人しく返す為だからって、あの生地で小さいパン焼いてお土産に渡さなくてもいいのにね」
「ん」
何か話しかけられている事は理解しているアリエッタは、まだ照れている状態で相槌を打っている。
「……テリア様、すごく気持ち悪かったね」
「ん」
「言いたい放題ですね、フェリスクベル様」
「今のアリエッタちゃん、何言っても頷くだけって事は、同意され放題だね」
ミューゼの事は、しばらくそっとしておいた方が良いだろうとピアーニャに判断され、食事中も話しかけないようにしていた。その結果、ミューゼがアリエッタにくっついて話しかけるようになったのだが。
「あたしの事愛してる?」
「ん」
「お嫁さんに貰ってあげるね」
「ん」
「こらこら!」
「やっぱり言いたい放題だ」
悲しい事に、アリエッタも望んでいる事を言われたのに、反射で頷いている本人に意味は通じていない。アリエッタの気持ちは全員にバレバレなので、ツッコミはあるが止める者はいないので、ミューゼの自己満足な言質取りはしばらく続くのだった。
さて、一方アリエッタの事を異常なまでに溺愛しているパフィだが、ミューゼとの関係についてはまったく反応しない。というより、普通に容認している。
「はいアリエッタ、ミューゼ、おやつなのよ」
「ありがとー」
「ありがとなの」
その事に、ピアーニャ達はずっと疑問を抱いていた。パフィが嫁に貰いたいんじゃないのか?と。
「どういう事なの総長」
「しらんよ。ヒトリジメしたいワケではなさそうだが」
「あのお二方の血で血を洗う争いは見たくはないリムな」
「あんた等、なんでそんなコソコソしてるのよ……」
『うっ』
小声で相談していたが、パフィには丸聞こえだった。
バレてしまっては仕方がないと、ピアーニャは直接疑問をぶつけてみた。
「私はアリエッタを一生守り続けるって決めたのよ。だからミューゼと一緒にアリエッタを嫁にするのよ」
「いや、それもどうなんだ」
ツッコミはしたし、理解自体は及んでいないが、ピアーニャは一応納得した。
元々パフィはアリエッタを傷つけてしまった事を後悔しながら保護してきた。そのままアリエッタの可愛らしさに打ちのめされ続け、今のような超過保護になってしまったのだ。
(これは……もしアリエッタがカレシとかつくってしまったら……)
(相手の人は何万回死ぬかな?)
アリエッタが欲しければ、私を倒してみるのよ!と、殺意全開で襲い掛かる事が容易に想像出来てしまい、ピアーニャとムームーが視線だけで語り合っていた。
カップルとか異性とかの概念が薄い分裂体のラッチは、とりあえずアリエッタと仲良くなるには、パフィかミューゼから順番に仲良くならないと命に係わる…と判断したようで、真剣な顔で媚び方を考え始めていた。
「はい、アリエッタ。あーん」
「あーむ」
なんだか危険物を見るような目で見られている事はお構いなしに、ミューゼは先程の詫びも込めて、アリエッタを思いっきり甘やかす。
そこへ、突然乱入者が現れた!
ベリッバキバキッ
「ここかぁ! 不自然な空間の歪みはっ!」
「ん?」
「誰?」
なんと天井を引っ剥がし、小屋の中を見下ろしたのは、見た事の無い生き物だった。
少年のような顔に大きな2本の耳が上に向かって生え、ぼろ布を纏っているかのように見えた胴体部分は、首のあたりから黒いものが流れ続けて布がなびいているように見えただけで、そこに決まった形の体は無く宙に浮かんでいる。胴体に腕は生えていないが、周囲に人の手が2つと獣のような手が2つ、左右に対になって浮かんでいた。
「変わったカタチの人ですね」
「なのよ。どちら様なのよ?」
元々様々な形状の人を見ているので、変わった見た目の人が出てきてもあまり動じたりはしない。しかし、その中でもピアーニャだけは真剣な目でその人物を見ていた。
天井から小屋内を睨みつける人物は、気持ちを落ち着けるように息を吐き、手を合わせてピアーニャ達に語り掛けた。
「あ、突然申し訳ない。ワシはイディアゼッターと申します」
「急に低姿勢!?」
現れた時と違い、いきなりヘコヘコと謝る人物、イディアゼッター。
「少々長い名前なので、よろしければ『ゼッちゃん』とお呼びください」
「ゼッちゃん!?」
可愛い呼び名を指定するゼッちゃん。腰と地声がやたらと低い。
「やはり、あの『ゼッちゃん』か?」
「おや、ワシをご存じで?」
「うむ……ハナシではきいていたし、シリョウものこっている」
「光栄ですな。見たところ……ハウドラント人ですか。なるほど」
ピアーニャは相手の事を知っていた。ゼッちゃんも、ピアーニャの出身を察して、納得した様子である。
ピアーニャのすぐ隣にいたムームーが、聞いてみる事にした。
「……総長、どなたなんですか?」
「テンイのトウのせっけいしゃのひとりで、じーさまとイッショにリージョンシーカーをたちあげたジンブツだ」
「その通りです。どうぞよしなに……あ、これメネギットに行ったときのお土産です。よかったらお食べ下さい」
いつの間にか屋根から降りてきたゼッちゃんは、お近づきの印にと、木の実のお菓子をテーブルに乗せた。
その時、ようやく話の内容を少しだけ理解した全員が、一斉に叫んでいた。