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イディアゼッター紹介からしばらくして、なんとか落ち着きを取り戻した一同は、テーブルを囲んで静かに座っていた。アリエッタ以外の大人は全員顔を赤くし、イディアゼッターは何やら怯えて隅っこに座っている。


「まだ痛いのよ……」

「はぁはぁ……パフィが興奮するのがすっごい分かった気がする」

「これが噂に聞く聖母の抱擁……くうっ、何かが内側から込み上げてくるリム」

「総長もうちょっと手加減してくださいよ~」

「し、しるか。わちをみるなっ」


ミューゼの一言を皮切りに各々が喋り始めたが、内容は興奮と羞恥と苦痛に別れていた。原因は平然としているアリエッタと、その膝に乗せられて羞恥に震えるピアーニャである。

パフィとムームーはピアーニャの雲に頭を掴まれ、強制的に大人しくさせられた。涙目になりながら頭が変形していないか確認している。

ミューゼとラッチはアリエッタに抱き着かれ、強引にアリエッタの目線まで引っ張られ、顔を抱きしめられた。顔に直接当たる少し柔らかな感触と、後頭部を撫でる小さな手の感触を思い出し、ちょっと照れてしまって気持ちを静める為に大人しくなっているのだ。

ピアーニャが大人しいのは、いつも通りアリエッタに抱っこされている為ではあるが、今回はアリエッタがちょっと頑張ったせいもある。


「総長だけアリエッタにチューされて、羨ましいのよ」

「いうなっ!」


2人を締め上げたピアーニャを見て、ただ事ではないと思ったアリエッタは、『照れ屋さんの妹分』を全力で抱きしめ、落ち着くまで頬にキスをしたのだ。


(ぴあーにゃはちょっとツンデレ気味だからな。あれくらい強引じゃないと素直にならないんだよね)


普段から絵や折り紙でピアーニャからも褒められている事が分かっているので、自身はピアーニャに好かれていると信じている。そんな状態でさらに『頼りになるお姉ちゃん』として、ピアーニャをリードしようとする。


「思うんだけど、言葉が通じたとして、総長が大人だって信じてもらえるんですかね?」

『………………』


ムームーの意見によって、笑顔で「あはは、まさかそんな事ないよー」とか言われてしまう未来を想像してしまった一同は、黙り込んでしまった。ピアーニャにとっては絶望の未来である。


「そっそんなコトはゆるさん……」

「まぁ総長が頑張って説得するのよ」

「あたしはアリエッタを応援しますね」

「てつだえよ!」


叫んでしまったせいで、ピアーニャはアリエッタにぎゅっと抱きしめられキスをされ、諦めて大人しくなるまで撫でられまくるのだった。


「やっぱり、ちっちゃい子のワガママとか反抗心くらいにしか思われてないですね」

「コトバを、はやくコトバを……」

(面白いからこのまま突き進むのよ)

(お姉ちゃんでいてもらった方が楽しそうだしね)


ピアーニャが望む未来は、もうダメかもしれない。




「で、ゼッちゃんはどうするのよ」

『あ、忘れてた』


いきなり忘れられてしまったイディアゼッターことゼッちゃん。しかし、震えながらブツブツと呟いていて、何も反応しない。


「ここは何か知ってる総長の出番なんだけど……」

「アリエッタ。ピアーニャちゃんは大丈夫なのよ、こっちおいでなのよー」

「う?」(大丈夫? よく分からないけど、確かに大人に任せるのが普通か)


パフィに呼ばれたアリエッタは、少しの間ピアーニャと、膝をぽんぽん叩いて呼ぶパフィを見比べていたが、あまりワガママを言うのは良くないと判断したようだ。ピアーニャを抱えたまま立ち上がり、ムームーの膝に座らせた。


「え……」

「ぴあーにゃ、いいこ」(いい子だからむーむーの言う事を聞くんだよー)


頭の中が「?」でいっぱいのピアーニャとムームーを置いて、アリエッタはパフィの元へ向かって、一瞬膝を見つめた後、パフィに持ち上げられて膝に乗せられた。恥ずかしかったが保護者命令に対して拒否権など無いのだ。

そしてそのままコックリコックリと、体を揺らし始める。


「まぁあれだけ暴れた後なら疲れるよね」

「おやすみなのよ」

「ふぁ……すぅ……」


そのままパフィの柔らかい枕に包まれ、夢の中へと旅立った。ミューゼの絵を描いてずっとテンションが高かったので、落ち着いた瞬間に眠気でいっぱいになったのだ。


「っしゃ、これでジユウだ」

「嬉しいのは分かりましたけど、あまり興奮するとアリエッタちゃんが起きますよ」


すぐさまピアーニャは、ムームーの膝から降りた。子供扱いされるのが嫌いなので、抱っこなどもってのほかである。


「総長」

「なんだ?」(ゼッちゃんのコトでもききたいのか?)

「可愛かったです」

「うっさい!」


いらない感想に、思わずツッコミ。すぐにしまったという顔で、アリエッタを見るが、ぐっすり眠っていて安心するピアーニャ。


「と、とにかく、じーさまのこともあるから、いったんわちがハナシをきいてくる。

「はーい。がんばってくださいね」


ようやく解放されたピアーニャは、震えているイディアゼッターに近づいた。声をかけようとしたが、未だにブツブツと呟いているので、そのつぶやきに耳を傾けてみた。


「エルツァーレマイア怖いエルツァーレマイア怖いエルツァーレマイア怖いなんでアイツがまたココに……」

(やはり、なんかしってるな……アリエッタみてから、ずっとこうだしな)


先程挨拶を済ませたイディアゼッターは、ピアーニャに興味を持ち、そのまま同行しているメンバーを眺めていった。その時、アリエッタを見て固まり、悲鳴を上げながら飛び退いて動かなくなってしまったのである。

それを見て、ピアーニャはアリエッタの出自について何かを知っていると踏んだのだ。しかし、女神である事は隠しているので、他に誰もいない所で話を聞く事にした。

場所は小屋の上空、『雲塊シルキークレイ』の上である。これならば飛べないと近づけず、近づこうにも身を隠す場所は一切無い。


「おーいゼッちゃん。おちついてくれないか」

「ぶつぶつぶつ……はっ、ここは?」

「アリエッタもエルさんとやらもいないから、アンシンしてくれ」

「…………お、お気遣い感謝します」


会話が出来るまでに落ち着き、まずは普通の仕事の事を話す事にした。いきなりアリエッタの話題を振って、また錯乱されてしまったら話が進まないと考えたからである。


「トーラスじーさまからハナシはきいているが、あのゼッちゃんでまちがいないか?」

「やはりトーラスのご縁者ですか。あれから千年程ですかね」

「いまはインキョしてのんびりくらしているが」

「懐かしいですな。今度会いにいきましょうか」

「それはじーさまも、よろこぶとおもう」


1300年程前にリージョンシーカーを設立したピアーニャの曾祖父トーラス。いまだ存命だが、少しボケてきたと父ワッツが嘆いていたのを、ピアーニャは思い出していた。イディアゼッターの事は覚えているのだろうかと、心配になっている。


「アナタのつたえたテンイのトウで、ヒトはいろいろなリージョンにいけるようになったが、いったいアナタはなにものなのだ?」

「ん? トーラスから聞いていないのですか。世界間の歪みを管理する神です」

「なるほどカミ……はあああああ!?」


トーラスは語った。昔神々が世界を創造する時、この次元に多数の歪みが発生。世界が大きければ大きい程、多数の歪みに晒され、別の空間にある世界と繋がるという事故が発生してしまう事が判明した。イディアゼッターはそれらを感知し、歪みを解消する為に、世界を創る代わりに『世界に干渉出来る肉体』を創り、永劫の時を過ごしながら、不要な歪みを消して回っているのである。


「そんなカタとはつゆしらず、えらそうなコトバではなしかけて、もうしわけない」

「いやいや、そう畏怖されると悲しいですから。先程の話し方の方が有難いですよ」

「そういうものです……ものか?」

「ええ」

(だからそんなテイシセイなのか? わちとマギャクだな……。というか、カミってこんなにミジカだったのか?)


子供扱いが嫌いなピアーニャは、わざと高圧的な感じで話してナメられないようにしているが、イディアゼッターはむしろ上位の存在として見られて崇められたくないので、丁寧な対応を心掛けているのである。

アリエッタの例があるので、相手が神である事はあっさり信じる事が出来た。そもそもリージョン間移動など、人だけで出来るような技術ではないと、前々から思っていたからだ。そしてピアーニャは、その辺りの事をしっかり教えてくれなかった曾祖父を恨んだ。


(こんどかえったら、じーさまをなぐっとこう。しかしいいのだろうか)

「なにか聞きたそうですね。遠慮なくどうぞ」

「む、ではリージョンかんをテンイするギジュツは、ヒトにつたえてよかったのか?」

「ええ、せっかく作った世界なので、意思を持つ人種が発展したら転移を伝えて、色々な世界を見てもらいたかったのですよ。神々われわれの総意です」

「そ、そうなのか……」


神々にとって、自分の創った世界は自慢したい作品なのだろう。しかし見てくれる相手があまりいないので、成長した人類に期待したのだ。


「しかし転移する為に現地の物がなければ、人の手で行き先を捕捉出来ないのは不便でした。本来発生してはいけない歪み頼みになってしまいますからね。複雑な気分ではあります」

「ユガミがあると、まずいのか?」

「ええ、いつ発生するのかも、閉じるのかもわからない穴です。間違えて人が入ってから閉じてしまえば、二度と帰る事は出来ないでしょう。それだけではありません。逆に広がってしまえば、2つの世界が混ざり、壊れ、生物の住めない世界が出来上がる可能性があります」

「いままでそういうリージョンは……」

「今発見されている中では、ヨークスフィルンですね」

「なんと……」

「最初に行った時は大変でした。なにしろ陸上に人が生き残る場所が無かったのですから」


イディアゼッターによると、ヨークスフィルンは遥か昔、歪みの対処が追い付かずに複数の世界が融合してしまった世界だったようだ。

当時は、火山を利用した温泉が多数ある世界。氷に覆われた極寒の世界。そして海が大半を占める世界があった。前者2つは厳しい環境ながらも生物が生きる事は出来た。

しかし不意に歪みが発生、対処が遅れて広がってしまったのだ。その結果、3つの世界の構成まで変わってしまい、火山の世界は暴走して燃え続け、氷の世界はその低温を世界の外にまで振りまき、灼熱の太陽と極寒の太陽が出来てしまった。それが海の世界の周囲をぐるぐると回り、昼と夜の急激過ぎる温度差を発生させているのである。


「メモしておかねば……」

「ふふ、熱心ですねぇ」


予期せぬ所でヨークスフィルンの謎が解け、ピアーニャはレポートの為に今聞いた話を簡単にまとめていった。

一通りメモを取り終えた所で、ここにイディアゼッターがやってきた話を振る事にした。


「そのユガミが、ここにあるというのは、あのドアのことか?」

「ええ、ええ、そうなんですが……何故ここに…エルツァーレマイアがいるんですかああああ!!」

「おおおおおちつけ! ジジョウをセイリしよう! な!」


アリエッタの存在を思い出し、イディアゼッターは雲の上で再び取り乱すのだった。

からふるシーカーズ

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