コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それから三日。十五番街での戦いも小康状態となっていた。
先の倉庫襲撃で伏兵が潜んでいたことを重視したレイミは、作戦行動に慎重さを求めたためだ。更に二人も諜報員に犠牲者を出したため、破壊工作を取り止めていた。
対する『血塗られた戦旗』も罠を張り巡らせたまま不気味な沈黙を保っていた。ただ、カサンドラ率いる傭兵団が秘密兵器と一緒にシェルドハーフェンから姿を消した。
『血塗られた戦旗』が『ライデン社』から強奪した兵器の内、FT-17戦車二両のみを運用する予定であり、機動力を損なうことを嫌ったカサンドラは、砲兵装備であるM1917C 155mm榴弾砲は用いずに残していた。
何よりも機動力を重視するカサンドラの傭兵団は、迅速さが何よりも求められる依頼で重宝され、傭兵団は全員騎兵で成り立っていた。
彼らは強奪した戦車の慣熟も兼ねて目立たないように『ラドン平原』に出ていたのだ。
先のスタンピード以来『ラドン平原』の魔物は激減しているため、安全性が増して身を潜めるには最適な場所となりつつあった。
もちろんリナ率いる『猟兵』が広範囲を偵察しているが、人員の半分を『黄昏』警備に回しているためカサンドラ傭兵団を早期に発見することが出来なかった。
一方『暁』も『血塗られた戦旗』の襲撃がないことを警戒しながら次なる攻撃に備えていた。
「軽傷者を最優先だ!一人でも動ける奴を確保するんだからな!」
ロメオを中心とした医療班は、重傷者の手当てが一段落したため比較的軽傷な退院の復帰を最優先として手当てを行っていた。
それにより、十人の人員が任務に復帰することが出来た。その報を聞いてシャーリィはマクベスを伴って黄昏病院へ赴いた。
「流石はロメオくんです。マクベスさん、復帰した人員は適切な部署に配置を。内容はお任せします」
「承知いたしました、お嬢様」
「ロメオくんは引き続き手当てをお願いします」
「薬草を山ほど使わせてもらったけど、大丈夫か?ボス。それに、最近は回復薬も作れてないぜ?」
「その辺りは心配しないでください、ロメオくん。隊員の人命を何よりも優先してください。それに、抗争が終わるまで密輸は行えませんから」
「姉貴達が居るのはそのせいか。派手に暴れてるみたいだな?」
「エレノアさん達には随分と助けられていますよ。ああ、そうだ。例の件、考えていただけましたか?」
「俺に『暁』の専属医をやれって話か」
ロメオが『暁』に合流して二年。まだ彼の立場は協力者であり、『暁』の構成員ではなかった。
「ええ、お姉さん共々随分とお世話になっています。なにより、ロメオくんは医療班を取りまとめている立場。うちの幹部になった方が色々と便利ですよ?」
「でもなぁ……姉貴が許してくれるかな」
『暁』の人間になると言うことは、協力者ではなく本格的に裏社会の人間になる事を意味する。
姉であるエレノアはその事に難色を示していた。
「エレノアさんが許してくれたら、私の大切なものになってくれますか?」
「いい加減俺も腹くくるべきかなぁ……わかったよ、姉貴が許してくれたらな」
シャーリィの言葉にロメオは頭を掻きながら笑みを浮かべる。
黄昏病院を後にしたシャーリィは、そのまま黄昏警備の任に就いているエレノアと会う。
「シャーリィちゃん、護衛も付けないで何してんだい?ベルモンドからお小言を貰うよ?」
「これは内密と言うことで」
しれっと返したシャーリィにエレノアは苦笑いを浮かべる。
「全く……それで、何かあったのかい?」
「ロメオくんに関してお話がありまして」
「なんだい?ロメオが何か下手をやらかしたかい?」
「そうではありません。ロメオくんを私の大切なものにしたいので、許可を貰いに来ました」
シャーリィの言葉を聞いて、エレノアは深い溜め息を吐く。
「そっちの話かい……もう二年になるねぇ」
「そろそろ彼にも相応しい立場をと考えまして。なによりロメオくんは『暁』にとって無くてはならない存在ですから」
「だよねぇ。シャーリィちゃんが気に入るのも仕方無いかぁ……あいつには、堅気になって欲しかったんだけどねぇ」
「別にうちは犯罪者集団ではありませんよ?売られた喧嘩は買っていますが、犯罪には手を染めていませんし」
「アルカディアとの密輸は?」
「それはシークレット扱いでお願いしますね。それで、許可していただけますか?」
「んー……まあ、ロメオが選んだ道なんだ。ここで私がとやかく言うのも違うか。それに、シャーリィちゃんなら無体はしないだろうしねぇ」
「しませんよ、大切なものなんですから」
「もう大切なものになってるなら、文句は言わないよ。これからも弟を宜しく頼むよ」
「もちろんです。幹部待遇として、次からは幹部会に出て貰うつもりです。時間に余裕があれば、ですが」
「これから病院に顔を出すんだ。私が代わりに伝えとくよ」
「分かりました。引き続きエレノアさん達には負担を掛けてしまいますが、宜しくお願いします」
同じ頃、シェルドハーフェン六番街駅に辿り着いたマーガレットは、『ライデン社』の事務所が用意した馬車に乗らず駿馬に跨がると職員達の制止を振り切って疾走。
幸い六番街と十六番街は道も広く整備されていたので、混雑に巻き込まれることもなく一気にシェルドハーフェン郊外へと抜ける。
そのまま南下して郊外にある『黄昏』を目指した。
シェルドハーフェンと黄昏を繋ぐ街道は広く石畳が整備され、魔物の襲撃を警戒して有刺鉄線の鉄条網と深い空堀が左右に備えられていた。また等間隔で小さな詰め所があり、利用者の安全を第一に考えた設計となっている。
その街道を行商人を始め大勢の人々が行き交い、彼らを目当てに小さな出店が点在し、活気を増していた。
その街道を馬で疾走するマーガレットは非常に目立つため、詰め所の警備員は信号弾を打ち上げて黄昏に警戒を促した。
「止まれーっ!お急ぎの様子だが、どうされたのだ!高貴な身分の方とお見受けするが!」
北部陣地入り口でマクベス自らが塀を率いてマーガレットを止めた。
「私の名はマーガレット!マーガレット=ライデンですわ!大至急『暁』代表との面会を求めます!」
ドレスではなくひんのある青いブラウスとスカートを身に纏ったマーガレットは、馬上から名乗り用件を伝える。
「なんと!?『ライデン社』のご令嬢が!?畏まりました!直ぐにお嬢様へ取り次ぎましょう!さあ、此方へ!」
マクベスは驚きながらも自ら馬に跨がり先導する。
マーガレットは間一髪間に合った形となった。