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「妖怪」と「動物」の混血
下から2番目という身分の低さに産まれた俺は産まれて間もなくして,社会の厳しさを知った
残る限りの記憶を辿っても,「人」の街で暮らした記憶は見つからない
10歳頃に2歳程年上の青に出会ってから森の奥深くで自由奔放に暮らしていたが,ある日を境にその暮らしは一時的に終わりを遂げた
「人」の令により,強制労働を課せられたのだ
とある「人」の宮殿地下にて_
「まろ,お腹すいた…何時までここ居なきゃいけないの?」
「人」の令で強制労働を課せられてから2ヶ月程度が経過した
空腹で倒れそうになり,涙が溢れそうになりながら, ぼろぼろになった彼の服の裾を切り傷でいっぱいの手で掴む
お腹がすいているのは彼も同じだと分かってはいたし,彼が誰よりもここから出たがっているのも分かっていた
それでも,この環境に耐えられない程,苦しさは限界に達していた
「おん…腹減ったな,ごめんな…ぁ…そうや,これ…あげる」
そう言って彼はりうらの掌に3つの向日葵の種を置いた
この向日葵の種はりうら達がこっそり,森から持ってきたものだ
基本的に「人」の令に沿って動いている間は,「人」が与えてくれたもの以外は身に付けたり,口にしてはならないという決まりがある
バレた最悪の場合,殺される
軽く済んでも「人」の性奴隷になったり,鞭打ち等の拷問を受けたりする必要がある
「絶対バレん様に持っときよ?後7日耐えれば出られるから,一緒に頑張れる?」
綺麗だった彼の微笑む顔は,もう今では全くの別者のようになっている
頬は痩け,目の下には隈ができ,髪も伸びっぱなしで艶を失っている
綺麗だった声も,今は喉の奥がくっついているように掠れている
「…がんばる」
彼がこんなになるまで頑張っているんだ,自分だけ甘える訳にはいかない
彼と同じような乾き切った掠れる声でそう口にした
森の奥,朧月湖の周辺にて_
足元には雪が積もり, 吐く息は白く染まる
誰も知らない霧のかかった森の奥深くにある『朧月湖』は今日もその名の通りに朧気に月光を映していた
風に揺れる水面に足先が触れるとぱきぱきと音を鳴らして結晶化していく
周りの空気だけが冷たく,不調和感を放っている
昔から「白」であり,「雪氷」という力をもった僕は今でも制御がままならない
「妖怪」という最低身分であり,「白」として産まれた僕は幼い頃から独りで生活してきたため,力の制御の仕方も,言葉も殆ど分からない
5歳頃に1度,仲良くしてくれた「動物」が居たが「人」の令で連れて行かれてしまってから見ることは無くなった
恐らく,戦場に行かされ死んだか,現状に耐えきれず自害したのだろう
「白」であることから同じ位の「妖怪」にも結界を張ってしまい,避けられていた
だから制御の仕方や言葉を教えてくれる者は誰もいなかった
「…あと2年しかないのに」
今年で16になる「白」の僕には生きる時間があまり残されていない
森から出れば「人」に令を食らうのは勿論,「動物」から暴力を受ける可能性もある
言葉も殆ど話せず,森からも出られない
そんな状況に置かれた僕は,八割型,死んだも同然だった
「…僕…このまま独りで死ぬのかな」
そう呟く震えた声はざわざわと響めく森と3つの鼓動に混ざり合った
「っ…!?ゃッ゛だれっ!?」
独り言を発した数秒後
骨が折れてしまうのでは無いかと疑う程,強い力で腕を掴まれた
きっと背後の茂みや木陰に隠れて機会を伺っていたのだろう
「白」は触れられると分かれば結界を出せる が,触れられることを知らなければ結界を出すことは出来なくなる
けれど都合の良いことにこの場合は「色に触れられた」という判断にはならないらしい
今回は気づくことができなかった
「ゃだっ!!ゃめてっ゛!!!」
恐怖で泣きそうになりながら必死に懇願する
「おい怨花!準備が悪いぞ!紐はまだか!?逃げられたらどうする!?」
「大丈夫よ…骨笛こそ,そんなに大声出してバレたらどうするつもりなの?」
「まぁ…2人とも落ち着け。子奴は逃がさん。逃げたとて周りに罠もある。貴様らには落ち着きが足らんのじゃ…」
「煩いわね…もう歳で使い物にならないんだから冥鴉は口出さないで頂戴」
どうやら僕を掴んでいる者の他に2人,誰かがいるらしい
そんな会話を横耳に腕を振りほどこうと精一杯に動く
「…っ…面倒くさいわね…暴れないでよ」
動かした手が相手に当たったのだろう
少し怒りを感じる声と同時に腕と脚に紐が触れる
「ゃ゛っ…ん゛!?」
声を出そうとしたら猿轡を付けられてしまった
手脚の紐はきつく締められ,目にも布を被せられる
「ッ…ぅ゛っ、?」
首筋に強い衝撃を感じてから僕の意識は途絶えた
森の中心部にて_
強制労働を課せられてから約2ヶ月半頃
15日ほどの期間を伸ばして,やっと帰ることを許可された
労働期間の間は食事,睡眠共に殆ど摂ることが出来ず, 精神も身体も全てが限界に達していたりうら達は「人」にぎりぎり見つからないような森の中心部で1夜を過ごした
「…まろ,身体どぉ?」
「全然回復した。身体ってこんな軽かったんやな…」
そんな事を言う彼の顔は,確かに昨日よりも明るく,健康な肌色をしていた
安心とまた見つかってしまったらという心配から顔を下に向ける
「ぁのさ…」
『もう絶対見つかんないように,山頂に行こう?』そう口に出そうとした瞬間まろに口を抑えられる
彼の顔をもう一度見上げると「し〜…」と口に人差し指を当てて,近くの道を覗いていた
同じようにりうらも其方へ目を移すと,おそらく「妖怪」の3人が白髪の子供を攫いそうになっている場面を目撃した
白髪の子供は手脚を縛られ,目隠しと猿轡を付けられたあまりにも痛々しい姿をしている
…助けたい
何故かは分からないが名前も知らない白髪の彼を助けたいと思った
「…まろ,りうら…あの子の事…」
助けたい。そういう前にまろは分かったかのように微笑み
「じゃあ…今から俺の言う事やってな?」
と耳打ちをしてきた
『俺が3人に話し掛けてる間に後ろから襲いかかって。1人仕留めれくれればええ。他は俺がやる。』
「あの…お兄さん達ちょいとええですか?」
「ぁ゛?」
相手は鬼のような形相でまろの事を睨みつけている
他の2人もまろに夢中で此方には気付いていない
「ごめんなさい…山頂へ行きたいのですが…どちらに進めばええんか分からんくて…」
話を進めるまろが此方を見る
合図だ
「っ…ごめんなさいっ!」
目を瞑り,両手に力を入れて相手の若旦那の首裏を思い切り殴る
ぅ…と鈍い声を上げて倒れたと思えば他に居た女の「妖怪」に背後を取られた
避けられないと判断しぎゅっと目を瞑った刹那にどん,と鈍器で殴ったような音がした
まろの仕業だった
女の「妖怪」を殴っていた
いつの間に仕留めたのかは分からないが老人の「妖怪」も気を失って倒れていた
気を大きく使った事から激しく息をしていると
「怖かったな…よお頑張りました」
とまろが頭を撫でてくれた
「まろ…あの子は?」
ずっと疑問に思っていた事を聞いてみる
「大丈夫。ちゃんと茂みの所に居るよ。拘束具も外しといた。」
…良かった
守れたんだ,あの子の事を
助けた今なら分かる気がする
多分,りうらは…あの子に同じ思いをさせたくなかったんだ
りうらと同じ屈辱を味わって欲しくなかった
「…りうら。この子運んで山頂まで行こう。もう日が短いから熊とかが出てきても可笑しくない。この子が居るってことは小さい子屋くらいはある筈やから。」
「…分かった。急がなきゃね。」
そう言って,気持ち早足に小屋を探した
小屋は大分山頂近くにあって,見つけるのに多くの時間を要してしまった
見つけた時にはもう日が沈んで真っ暗になっていたから予め袖口に忍ばせていた木の実を齧り,眠りについた
腕の中には白髪の名前も知らない子供を守るように,そっと抱き締めて