「律さん……それは本気でおっしゃっているのですか?」
「本気です!」
俺の飲んでいた酒の入ったロックグラスを彼女にひったくられた。空色はそのまま原液を自らの体内へと流し込む。無茶な飲み方をしたために目がとろんとして完全におかしな雰囲気になっている。今ので再び酔ったか?
「ねえ新藤さん。私を元気づけたかったら白斗に連絡を取って、彼を目の前に連れてきてくださいよ。元スタッフだったら、白斗の連絡先くらい知っていますよね?」
「律さん。目が座っていますよ」
「ちゃんと立てまぁす!」
しゃきっとソファーから直立姿勢でぴんと背筋を伸ばし、俺のすぐ傍に置いてあったボトルからウィスキーをグラスへ注いでもう一度その液体をそのまま体内へ流し込む。
「うぅ……」
「律さん!!」
倒れそうになった空色をそのまま抱き留めた。
「白斗に逢わせて……どうしても逢いたいです」まるでうわ言だ。
「律さん。私にもできることとできないことがあります」
逢いたいって言うけどさ、もうお前の目の前にいるんやけど。
これ、どう言えばいい?
「そうですか。どうしたら元気になるかって聞いてくれたから言ったのに、もういいです。どうせ白斗にはもう一生会えませんから。わかってます。白斗を連れてくるなんてできませんよねっ。もういいでぇーす!」
その言い方にカチンときた。
誰のために俺は一触即発であふれそうなこの気持ちを押さえて、白斗だったことを黙っていると思ってんだっ!!
「誰も『できない』とは言っていませんが」
酔っ払い相手になにをムキになっているんやと思いながらも、気持ちが止められない。
「じゃあ、白斗を今すぐここに連れて来てください!!」
売り言葉に買い言葉。彼女もムキになっている。俺もさらに腹が立ってきた。
「わかりました。ひとつ忠告しておきますが、後悔しても知りませんからね?」
「しませんよっ! 白斗に逢えるならなんでもします。それで、逢ったら白斗に説教しまぁす! 勝手にRB解散して、ずっとずっと好きだった――いや、今でも大好きです。もう追っかけできないなんて辛すぎます。だから理由聞きたいでぇす。解散した納得のいく理由を!!」
「そこまで言うなら結構。いいでしょう。彼に逢わせてあげますよ」
まさかこんな風に正体伝える日が来るとは思わなかった。
しかもそれが今日なんて。
「でも、条件があります。『白斗に逢えるならなんでもします』というお言葉、絶対、撤回しませんね? 地獄へ堕ちても構いませんか?」
「撤回なんかしませぇん!! 地獄でもドコへでも連れて行ってくださぁい。どうせ私は地獄行きです。詩音を助けられませんでした……いろんな人を傷つけてしまって……罪は重いでぇす」
今のひとことで俺の中で頼りなく、でも唯一大切にしたいと思い守ってきた理性へと繋がる糸がぷつりと音を立てて切れた。
空色。お前が言ったんやで。
もう知らん。どうにでもなれ。
……でも、俺はこういうきっかけを探していたように思う。
いつかお前に胸の内を、熱いこの情熱に焼けつくされそうな思いのたけを知って欲しいと願っていたから。心のどこかで常に望んでいた。
こんな日が来ることを――
「――その言葉忘れんなよ、空色。いや、吉井律」
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