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荒波の歌声へと無事に潜入したベルモンドは、信頼を勝ち取るために行動を開始する。
翌日には第四桟橋を襲撃、海賊衆七名を打ち取り財宝を奪い取る大戦果を挙げて荒波の歌声からの信用を勝ち取ることに成功する。
尚、打ち取った七名は情報部が用意した『黄昏』内部に居た三者連合の協力者である。つまり、スパイを始末して信頼を勝ち取ったのである。
この大戦果に荒波の歌声は狂喜乱舞。自分達は手を汚さずに財宝が手に入ったのだから。
だが、ヤンはこの戦果を報告しながらも強奪品に関しては秘匿すると言う欲を出した。そしてそれは『暁』の予想通りの行動であり、好都合であった。
「そろそろ無駄なお金を使うのも限界があるわね」
「そうだな。ボスも暇してるみたいだし、ここらで畳み掛けるか」
「そうね、後始末はリンドバーグに任せましょう。けど、これで潜られたら厄介よ?」
「『血塗られた戦旗』の脅しはあるが、もう少し手を加えたいな」
「けれど、リンドバーグが正面から挑むとは思えないわよ。そう仕向けるのは難しいわ」
「ベルモンドの働きに期待するしかないさ。上手く隠れ家を特定できれば良いが」
「私達も土地勘がないからこれ以上の工作には時間が掛かるのよねぇ。人任せなのは気が引けるけど」
よう、ベルモンドだ。エレノアとの打ち合わせ通り暴れたら、ヤンに呼び出されたところだ。
「流石はベルモンドさん!大戦果ではありませんか!」
「いや、まだまだこんなもんじゃ信用して貰えねぇだろう?」
「まさか!昨日の手土産と合わせれば金貨千枚以上ですよ!こんな大金を策略に使うとは思えません!」
居るんだよなぁ、これが。どうやらこいつらは俺達がどれだけ稼いでるか知らねぇみたいだ。少しは喧嘩を売る相手の事を調べとけよ。
「そりゃ何よりだ。それで、次の仕事は?今なら『暁』に大打撃を与えられるだろう。今回の占拠だって海賊衆の独断だからな」
「ううむ、確かに好機かもしれませんが……出来るだけ危険は避けたいのです」
なるほど、あくまでも自分の手を汚したくはないってか。
……何が堅気だ。下衆野郎じゃねぇか。
「ならこのまま静観か?」
「いえ……話し合う必要がありますね。ベルモンドさんも同行をお願いします」
おいおい、本気かよ。裏切って二日目の奴を連れ歩くのか?正気とは思えねぇな。
「良いのか?あちらさんも警戒するだろ?」
「貴方の存在は、工作が上手くいったことの証明になります。及び腰のリンドバーグさんに行動を促す材料になるんですよ」
「なるほどな。まっ、今の雇い主はアンタだ。俺は従うだけさ」
こりゃ好都合だ。リンドバーグ・ファミリーの居場所を特定できるかもしれない。
次の日の夜、場所は十五番街にある寂れた酒場の地下室。ここに小さな部屋があって、そこで会談を開いていたみたいだ。しかも信頼できる部下を少しだけ引き連れて、だ。道理でラメルの旦那達が突き止めるのに苦労してるわけだな。
「ヤン、その青年には見覚えがあるが」
「ええ、新たな協力者です」
「ベルモンドだ。お見知りおきを、ミスター」
「正気かね?彼は『暁』代表のボディーガードだった筈だ」
「代表は亡くなったようで、今の暁に愛想を尽かせたのだとか。昨日の戦果も彼が挙げたものですよ」
「なに、亡くなった?破壊工作が上手くいったのか」
「アンタ達にはやられたよ。お嬢の悪癖を利用されたらどうしようもないからな。で、今の暁はゴタゴタしててな。うんざりして鞍替えしたって訳だ」
「俄には信じ難い話だが」
へぇ、警戒してやがる。長いこと裏社会で生きてきただけはあるな。
この爺さんが手綱をしっかり握ってたら危なかったかもしれない。
……お嬢にとって邪魔になる。この爺さんだけは確実に始末しねぇと。
「そりゃそうだろうさ。だから、信用を勝ち取るために頑張ってるところだ。なにか仕事をくれないか?」
「リンドバーグさん、暁は混乱しています。私達でも海賊を追い払うことが出来たんです。今こそ第四桟橋を完全に手に入れる好機です!もちろん私達も参加して、微力を尽くすつもりです!」
「その前に、ひとつ尋ねたい」
「なんだ?」
「数日前の深夜、第三桟橋で戦闘は行われたかね?」
シダ・ファミリーの件だな。
「ああ。けど、警備隊と少しやり合って直ぐに逃げ出したって話だ。暁に被害はない。それがどうした?」
「いや、ただ確認しただけだよ。やはり戦闘は行われていたか」
「暁に破れて、腹いせに十五番街で暴れたのでしょうか?」
「それは分からんが、辻褄は合うか。明日の夜襲撃を掛ける。ベルモンド君、君には先鋒を任せたいが、どうだね?」
「俺がスパイじゃないか確かめたいんだな?分かりやすい仕事は大歓迎だ。任せてくれ」
よし、エサに食いついたな。こいつらの隠れ家も分かった事だし、半分は達成できた。あとは明日ラメルの旦那達が上手くやってくれるのを祈るだけだな。
翌日の夜、三者連合は襲撃を決行した。リンドバーグ・ファミリーが五十人、荒波の歌声が五十人。合計百人が武装して馬車数台を引き連れて港湾エリアに入った。
「今回も働きに期待していますよ、ベルモンドさん」
「おう、任せとけ」
そして夜の第四桟橋に近付くと、打ち合わせ通り海賊衆が待ち構えていた。その先頭に居るのはエレノアだ。
「ベルモンドぉ!この裏切り者が!よくもまた姿を見せたね!覚悟はできてるんだろうねぇ!?」
「よぉ、今回はエレノア自らお出迎えか!上等だ!」
俺は大剣を引き抜きながら後ろに視線を向ける。
「ここは任せろ。アンタらは強奪を優先してくれ」
「わかった!武運を祈る!」
「やらせはしないよ!纏めてやっちまいなぁ!」
「来いエレノアぁ!」
リンドバーグ・ファミリーの五十人が海賊衆とやり合い始めた。
俺達も疑われないように剣を……俺の大剣をカトラスで受け止めやがった!?
ドルマンの旦那、どんな耐久力だよ。普通は折れるだろ!
「今のうちだ!速やかに運び出せ!」
で、こっちが命懸けで戦ってる後ろで荒波の歌声の連中は泥棒仕事に勤しむと。見下げ果てたな、こいつら。
俺はエレノアと何度か打ち合い、互いに視線を合わせて合図を交わした。
「今回は分が悪い!引き上げだ!荷物を忘れるなよ!」
「深追いするんじゃないよ!」
流石海賊衆、リンドバーグ・ファミリーの奴等を難なく撃退したな。
さて、俺の仕事はここまでだ。ここから先はラメルの旦那達の仕事。お手並み拝見といこうじゃないか。
「明日の朝には帰れそうだな」
「シャーリィちゃんが退屈すぎて変なことを始めようとしてるんだ。今夜終わらせるよ」
「おう、もちろんだ。お嬢に窮屈な思いをこれ以上させたくないからな」
ベルモンドは手を止めて、倉庫から品を奪い一目散に逃げていく荒波の歌声と敗走するリンドバーグ・ファミリーを見ながらエレノアと密かに言葉を交わし、ゆっくりと付いていくのだった。
三者連合最後の夜は、まだ始まったばかりである。