コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第四桟橋付近にて待ち構えていた海賊衆に撃退された三者連合。特に直接海賊衆と交戦したリンドバーグ・ファミリーは、多数の負傷者を抱えた状態で夜の港湾エリアをバラバラになりながら後退していた。
これは海賊衆が手加減を加えた結果であり、その為死者はわずかなものであった。
とあるグループもまた暗闇の中撤退しつつあった。そこへ荷車を引いた男が近寄る。
「おーい!アンタ達リンドバーグ・ファミリーだよな!?」
「誰だてめえ!」
「荒波の歌声の者だ!アンタ達に強奪品を届けるように言われたんだ!預かってくれないか!?」
「なんだ、気前が良いな。良いぜ、俺達が預かる!」
「助かった!こいつ全部だ!今回は酒みたいだぞ!」
荷車に満載された樽を指しながら笑みを浮かべる男は、そのまま荷車を引き渡す。
「へぇ、酒か。こりゃいい」
「ボスに良い土産が出来たな。持って帰るぞ」
「まあ待てよ、その前に味見をしても良いだろ?」
「確かにな、これくらい役得がなきゃやってられねぇよ」
ここで彼らに油断が生じた。これまで『暁』からの強奪品によって良い思いをしてきた彼らは、警戒心が薄れていたのだ。そして疑いもせずに樽の蓋を開き。
中に仕掛けられていた火打石が作動。充満されていた石油と爆薬に着火した。
次の瞬間、凄まじい轟音と共に火柱が上がり、爆炎に飲まれた彼らは一瞬にしてこの世から姿を消した。そして偶然にもそれを遠目に見ていた他のグループが存在した。
「なんだ!?何が起きた!?」
「奴等だ!荒波の歌声の奴等が持ってきた品が爆発したんだ!」
「なんだと!?あいつら!裏切りやがったか!みんなに知らせろ!裏切り者を始末してやれ!」
「いつも俺達を前に出しやがって!もう許さねぇ!」
一連の事件を見ていたリンドバーグ・ファミリーの構成員達は荒波の歌声の構成員に対して攻撃を開始する。
「これは……予想外だったわね。まさか同士討ちを始めるなんて」
観察していたマナミアとリナはその状況を見て少なからず衝撃を覚えた。
「どうします?マナミアさん」
「そうねぇ……荒波の歌声は思ったより恨みを買ってたみたいだし、これを利用しない手は無いわね」
「その言葉を待ってました!」
マナミアとリナは状況を最大限に活かすため双方を煽るために行動を開始する。
「奴等、俺達の手柄を横取りするつもりだぞ!」
「なんだと!?これだからチンピラは!」
荒波の歌声、リンドバーグ・ファミリー双方に対立を促すよう偽の情報を流す。暗闇で敗走中であることもあり、情報は錯綜して混乱を激化させる。
「いかん!直ぐに双方を諌めよ!これは策略だ!」
知らせを聞いたリンドバーグは事態の収拾に動くが、通信機の存在しない帝国では伝達に時間が掛かり、結果事態は最悪の結末を向かえる。
「死ねぇぇ!!」
「ぎゃあああっ!」
あちらこちらでリンドバーグ・ファミリーの構成員が荒波の歌声の構成員を襲撃。矢面に立たず手柄だけを奪っていく荒波の歌声に対する鬱憤は末端構成員ほど強く、最早状況の沈静化は不可能となった。
荒波の歌声の構成員達は右往左往して逃げ惑い、それを追撃することでリンドバーグ・ファミリーもさらにバラけてしまう。
「一気に畳み掛けるよ!野郎共!狩りの時間だぁ!」
「「「おおーっっ!!」」」
『猟兵』から連絡を受けたエレノアは、予定に無かったが海賊衆による追撃を開始。分散された三者連合の構成員達を各個撃破していく。
その混乱の最中、逃げ惑うヤンは偶然にもベルモンドと再会を果たす。
「ああ、ベルモンドさん!良かった!」
「よぉ、随分と賑やかになってるな」
「何がなんだか分かりません!リンドバーグ・ファミリーが急に我々を!やはりマフィアは信用ならない!私達は堅気なのですよ!?」
「旦那、それは無理な話だ。アンタがどんなに言っても、周りはアンタを堅気だとは思わねぇ。そもそも、この街に全うな人間なんて居ないんだからな」
「そっ、それは!ですが!我々は少しだけ夢を見ただけです!こんなことをされる謂れはありません!」
「相手にとっては、アンタの事情なんてどうでも良いのさ。シダ・ファミリーが潰れた時に抜けてればこんなことには成らなかっただろうな」
ゆっくりと近寄りながら語り掛けるベルモンド。それに気圧されて後ろへ下がるヤン。
「べっ、ベルモンドさん?」
「身の程知らずって言葉を知ってるか?旦那。アンタはやり過ぎたんだ。小悪党をやってれば長生きできたのに、アンタは迂闊にもお嬢の敵になっちまった。そしてお嬢は自分の敵に対して容赦はしない」
「なにを……うぐっ!?」
戸惑うヤンの腹部に拳を叩き込む。
「少し眠ってな。お嬢に会わせてやるからさ」
倒れ伏すヤンを見下ろし、素早く持ち歩いている手錠で拘束する。
「ベルモンドさん!」
そこへエルフが一人駆け寄る。
「お嬢へ直ぐに知らせてくれ、ヤンを捕まえたとな。それとこいつの拘束も頼む」
「分かりました!」
彼女は懐から小さな笛を取り出して、間隔を明けながら吹き始めた。短い音、長い音を組み合わせたそれは、シャーリィが長距離の連絡手段として導入した“モールス信号”である。
これは音を符号として組み合わせたものであり、電信などで使われるものである。
電信については『ライデン社』が開発中であるが実用化にはまだ時間が掛かるため、概要を学んだシャーリィがリナ達『猟兵』に教え込んだものである。
彼女達は森で暮らす中で笛を用いた簡単な連絡手段を利用していたため、概要を教えると素早くマスターし、情報伝達速度の飛躍的な向上を果たした。そして伝達専用の人員を各地に配置したのである。
今も数人が中継して片道一時間は掛かる道を数分で『黄昏』まで伝達できた。
黄昏に待機していたエルフの一人が一目も憚らずに館へ駆け込み、立ち入りを禁じられている二階へと駆け上がり、ドアを叩く。
「失礼します!たった今港湾エリアから連絡がありました!」
その報を聞いたシャーリィもまた、寝巻き姿のままだが慌ててドアを開けた。
「詳細は!?」
「作戦成功!要人を捕縛せりとのことです!」
「分かりました!直ぐに向かうと伝えてください!引きこもるのは終わりです!」
「はい!みんなに知らせます!」
走っていくエルフを見送り、シャーリィも室内へ戻り素早くネグリジェを脱ぎ去る。
「ルイ!急いで着替えてください!いきますよ!」
「ああ!流石はベルさん達だな!」
この瞬間を以て『暁』は偽装を解除。伝達を受けた各部署は活発に動き始めた。着替えて館の外に出たシャーリィとルイスを警備隊が取り囲んで護衛。
「……シャーリィ」
「ふふっ、久しぶりですね、アスカ。一緒に行きますか?」
「……いく」
シャーリィは飛び付いてきたアスカを抱きしめて頭を撫で、護衛と共に港湾エリアへ急ぐ。
抗争の終結は目前に迫っていた。