雨が、すきだった。
乾いた匂いと、水滴で鮮やかになった植物と、萎れたきみ。
小さいときから一緒、これからもずっと。
雨だ、なんか、気分下がるなぁ、なんて、やっぱりきみは可愛い。
わたしは、ふふ、とわらって、そうかなーわたしはそんなことないんだけどなーと、いたずらっぽく言ってみた。
きみはおろおろして、わ、私もそんな気がしてきたなぁーと誤魔化す。
やっぱり可愛い。
こんな日なら雨でもいいね、と顔を見合わせて笑いあう。
そんな日々を愛している。
愛している。
今でも。
ずっと。
小学生のとき、先生が雑学として教えてくれた。
あの、雨の特有の匂いは、地中の微生物の死骸らしい。
先生は、なんだか、雨のイメージが変わりますね、とわらった。
中学生のとき、きみが言った。
ねぇ、明日晴れたら、お花見行こう。
お花見って、どこに行くのと聞くと、となりの市の公園に、綺麗な桜が咲いたそうだった。
いいね、それ、と言って、密かに楽しみにしていた。
中学生のとき、きみが
きみが?
きみが、
しんだ。
しんだ。
お花見に行く日だった。
雨が降った。
物凄い大雨で、ニュースになって、わたしはいつもの雨とは違って、なんか、いや、だった。
いやな雨だったんだ。
きみは、お花見に行けなくなったから、ショッピングモールに行かないかと言った。
わたしは、行こう、と言った。
行こう、と言ったんだ。
危ないから、きみの家の前で待っててね、って。
きみは、わかった、まってる、って。
でも、わたしが着いた頃には、そこにはきみはいなかった。
きみのかわりに、きみの血の跡と、群衆と、救急車がいた。
よく分からなかった。
何もわからなくて、その場に崩れ落ちたとき、その辺にいた警察官が、大丈夫?と声をかけた。
大丈夫なわけがあるか。
しんだんだぞ。
もう、正気を保っていなかった。
大丈夫です、と笑顔で答えて、フラフラと家に帰った。
わたしはびしょびしょに濡れて、とても不快だった。
そのつぎの、つぎの日、きみの近所のひとの会話を聞いた。
大雨で車がスリップしたそうよ、て。
そうなんだ、って思って、晴れを待った。
晴れろ、晴れろ、と。
翌日、晴れた。
だからわたしは約束の公園に行った。
桜は咲いていなかった。
昨日の雨で八割ほど落ちてしまったと、ニュースに書いていたが、八割というより、すべて、というかんじだ。
もう。ほら。
桜は脆いなぁ。
きみが、桜が連れてきてくれようとしたのだと、そう考えただけで涙が溢れた。
涙を拭って、空を仰ぐ。
あれ、晴れも案外、わるくないか。
なぁ
桜。
雨がすきだった。
微生物の死骸の匂いと、雨で散ったきみと桜。
きみも、皮肉だよな。
桜って。名前通りに桜と散るなんて。
わたしは、きみが散らなければならない結末に追い込んだ雨を、永遠に許さない。
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