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* * * *
あれから一年。結婚は先だって言ってたくせに──苛立ちを隠せず、萌音は日本庭園の中にある竹のベンチに腰掛けていた。
まぁでも確かに結婚とは言ってなかった。両家の初の顔合わせ。だから私は名前も知らない婚約者と、今日初めて対面することになるのだ。
今日のためにと用意された淡いピンクの可愛らしい着物は、萌音をどん底へと突き落とす。
あぁどうしよう……。なんの情報もないから怖くなる。何歳の人なのかな。年が近いと良いんだけど……とんでもないおじさんとかが現れたら正気でいられるかしら。清潔感のある人かな……まぁパパが受け入れてるくらいだし、変な人は来ないとは思うけど……でも……すごく悲しいよ。
ふと空を見上げてると、眩しいくらいの青空が広がっている。
六年前のあの日から、萌音は空を見上げるたびにロミオのことを思い出していた。
『お互いやりたいことがやれている未来だったら幸せだね』
彼はそう言った。今の私、そしてこれからの私は、やりたいことをやれているのかな?
その時だった。誰かがそばに立っているような気配を感じて顔を上げる。するとそこにはスーツ姿の背の高い男性が立っていた。
「あの……大丈夫ですか? 具合が悪いのなら、お店の人を呼んで来ますが」
男性は心配そうに萌音を見ていた。あぁ、空を見ながら額に触っていたから、具合が悪いって誤解させちゃったんだ。
萌音は姿勢を正すと、その人に笑顔を向けた。
「ありがとうございます。でも具合が悪いわけじゃないので気にしないでください」
「……何かあったんですか?」
その人は穏やかな笑みを浮かべると、萌音の隣に静かに座る。
「実はこれから婚約者との顔合わせなんです。でも私、結婚なんてまだしたくないのに……もっといろいろなことを勉強したいんです」
泣きそうになりながら話す萌音の足を、男性が人差し指で小突く。顔を上げると、男性は今度は空を指差す。そこには白い雲が流れていた。
「逃げちゃえばどうです? あの雲みたいに」
この人はなんてことを言うのだろう……そう思う反面、どうしてその事実に気づかなかったのだろうとも思う。
「……出来るかしら、そんな大それたこと」
「大丈夫。人間やれば出来ますよ」
その時、遠くの方から萌音の名前を呼ぶ父親の声が聞こえた。それが萌音に『逃げろ』と決意させる。
「ありがとうございます! 私、逃げてみます!」
「はい、気をつけて~」
男性に背中を押され、萌音は全速力でその場から走り去る。その後ろ姿を見ながら、男性は楽しそうに笑っていた。