テラーノベル
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佐久間はタオルで頭を拭きながら、ソファーの端に腰を下ろす。
阿部は横になって、天井を見上げていた。
会話がなくても、気まずくはない。それが彼らの関係だった。
佐久間「……ふっか、たぶん泣いてるね、あれ」
阿部は何も言わない。
ただ、まばたきすらせず、無表情で天井を見ている。
佐久間「あーあ、どーすんの?」
阿部「別に。あいつが勝手に期待してただけでしょ」
佐久間「へぇ……冷たいじゃん、阿部ちゃん。
でも俺との時より“優しく”抱いてたの、見てたけどなあ」
佐久間の声はからかってるようで、探るようでもあった。
佐久間「もしかして、ちょっとは情あった?それとも……」
阿部「……知らない。ねぇ、髪乾かしたら帰ってよ?佐久間」
佐久間「はいよ。わかってるよ。ねぇ……阿部ちゃんさ、またしよーね! 」
落ち着いた低い阿部の声と元気いっぱいな佐久間の声。
噛み合ってるのか、噛み合ってないのか、傍から見ると読めない空気感だが、2人の間には確かな信頼があった。
タオルで髪を拭きながら、深澤はリビングに戻った。 部屋の空気はもう、何もなかったみたいに静まっていて、
佐久間の姿も、騒がしさも、跡形もなかった。
「……おかえり」
小さく、でも確かに阿部が言った。
その一言が、深澤の心を掻き乱す。
(やっぱり、優しいじゃん……)
阿部は、それ以上は喋らず、入れ替わりでシャワーを浴びに行った。
阿部がシャワーから戻った時には、もう、深澤の姿はなかった。
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