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「ねえ、あなたのために生きてもいいかな」
寝起きの掠れた声で、彼女は言った。あえて言葉を重ねるその癖は、誓いをより重く、呪いのように響かせる。
窓から差し込む朝の光は残酷なほどに明るく、 部屋の隅に溜まった私たちの怠惰を暴き出していく。彼女は曖昧な別れを濁す準備をするように、ゆっくりとベッドから這い出しその背中には、夜の間に私たちが交わした名付けようのない淡い未練の残骸が、赤い痕となって浮かんでいる。
彼女にとって、私は救いなのだろうか。それとも、埋められない心の穴を愛でるために必要な、身代わりに過ぎないのだろうか。
彼女が振り返る。その瞳は、深い沼のように私を溶けて、飲み込んでいく。
「君のドレス」
私は、椅子の背にかけられた彼女の白いワンピースを指差した。
私の中にあるのは、彼女を独占したいという真っ黒な感情だ。彼女のすべてを汚し、私以外には何も見えないようにしたいという歪んだ支配欲。けれど、彼女の汚れなき白は、私の毒を一切受け付けない――。
私は彼女を傷つけたいわけじゃない。ただ、その清廉さすらも私の色に染めてしまいたいだけなのだ。
鏡に向かって紅を引く彼女が、反射越しに私を射抜く。それは誘惑ではなく、命令だった。私はそのアリキタリな感情で、あなたを縛っておきたいという彼女の罠に、喜んで足を踏み入れる。
眠りを誘う接吻をもって、幕開けの合図に彼女は夜の名残を断ち切るように、私の頬に唇を寄せた。
それは愛という名の、終わりのない共依存の始まり。
私たちは今日という一日を、放心状態のままやり過ごすだろう。そしてまた夜が来れば、この狭い部屋で、互いの境界線がなくなるまで混ざり合うのだ。