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本当に、我が主ながら、馬鹿だな。
 コツコツと刻みの良い革靴の音が聞こえる。
 一歩、又一歩と、主に近づく。
 主の目の前まで来た時、俺は、勢い良く主に平手打ちをかました。
 主は呆然としている。だが、そんなの今は関係ない。
 「お前は馬鹿か!」
 気が付いたら怒鳴りだしていた。
 奥に置いている全身鏡に映る自分は、海のような深いブルーではなく、血のような赤の瞳で、正装も、いつもの紺色のスーツではなく、白のシャツに赤茶のベスト、青のネクタイと、ジーパンという、炎吉の正装ではなく、昔の、英厳の正装に変わっていた。
 正装については、何処か別の所で話しているだろうから、省こうか。何故こんな事を俺が知っているのかは分からんが。
 「いつまでそんな子供のような馬鹿な頭してるつもりだ!最悪の状況を考えて行動しろとあれだけ言いつけたはずだ!まだ分からんのか!?!あれだけ最悪の事態を想定して動いていたお前が、何故こんな阿呆な事をやっている!?アメリカは今ではもう覇権国だ!昔のお前と同じだな。で?さっきの言葉をなんて説明するつもりだ」
 久し振りにこんなに怒った気がする。
 「理由は?言え」
 俺の主はあの、小さな幼子のような馬鹿なことを言うわけがない。理由を聞かねばならん。此奴は、覇権国にあんな事を言って、主様に影響が出る等とは考えなかったのか。
 「あ、えっと、」
 そう言葉を必死に選んでいる主は、俺よりも随分と小さく、後ろをうろちょろしているあの頃のようだ。
 俺が、この人達を育てたようなものなのだ。叱るのも俺の責任で、義務だ。
 「言い訳は思いついたか?」
 いつもよりも声が低い自覚がある。こんなにも怒っているというのに、以外と頭は冷静だ。昔のかんが大分戻ってきたというわけか。まぁ、今でも、あの頃の感は鈍っていないが。
 「まぁ、まぁ、お説教はそのぐらいにしましょう。ね?英厳」
 いつも通りを装ったイングランド様がこちらに寄ってきた。
 「はぁ~、分かった。主、後世にまで迷惑を掛けるな。ただでさえ、面倒臭い世の中なんだ」
 大きな溜め息と共に主にそう言うと、「分かった」と弱々しく主は返事をした。
 「俺はもう帰る」
 そう一言残してリビングを後にしようとすると、後ろから炎利の声が聞こえた。
 「英厳兄様、もう、帰るのですか」
 「嫌いな奴と共には居たくないだろう?」
 自分自身への皮肉をたっぷり含んで、俺は言った。
 「大嫌いですけど、大好きなんです!」
 「は?」
 思わず炎利の突然の告白に声が漏れた。何を言ってるんだ?此奴。
 「取り敢えず、炎利兄さん落ち着こう。ね?」
 あいも変わらずふんわりとした雰囲気を放った炎加が炎利に落ち着くように促す。
 「にしてもさ、炎吉兄さんはどこ行ったんだ?」
 ふと、颯太が口にした言葉を聞いて、なんて言い訳をしようかと咄嗟に思考する。