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「にしてもさ、炎吉兄さんはどこ行ったんだ?」
ふと、颯太が口にした言葉を聞いて、なんて言い訳をしようかと咄嗟に思考する。
「それはな、」
「ちょっと黙っとこっか」
スコットランド様が口を開くと仏華が殺気のこもった声でそう言ったから、真実は言われないですんだ。
「彼奴とは犬猿の仲だと前も言っただろう?どうせ、気配かなんかで分かったんだろう」
今までずっと使ってきた言い訳。炎吉と英厳は犬猿の仲という嘘。まぁ、正直に言うと自分自身の事は嫌いだ。だが、こんな俺でも、西華は、仏華は、好いてくれた。そんな彼女には感謝している。
「流石に、今回はその言い訳では厳しいのでは?」
そう言ったのは、後継者(炎吉)の主様だった。
俺は少し挑発的な笑みを浮かべ、問い返した。
「ほぉ~、それはどういう事だ?後継者の主様」
「私は、さんざんそんな事を聞いてきましたが、何故、貴方も吉も、右目の視力だけが悪いのですか」
咄嗟に右目の視力を補強するために付けている、赤薔薇のピアスに手を当てた。
これは、俺が生まれた時から付けている物だ。それなりに愛着は有る。だから、片眼鏡では無く、これのままだった。それが仇になったか。
さらに畳み掛けるように後継者の主様は話を続ける。
「何より、先程、炎吉の姿から英厳、貴方の姿に変わるのを見ました。貴方はそれを知られたくないようですが、いいかげん、話して下さいよ」
後継者の主様は薄々勘付いていたのだろう。だが、俺の為、炎吉の為、と黙っていてくれたのだろうか。
「とうに昔から勘付いていたというわけか」
自嘲の笑みが溢れる。何とも馬鹿らしい。これまでに必死こいで隠し通してきていたというのに、とっくに見破られていた。
「こりゃ完敗だな。そうだろ?スコットランド様、イングランド様、主」
自然と笑い声が出る。
三人(国)は複雑そうな表情をしている。
「炎吉が開き直ったなら、仏華もいっその事開き直るか?」
笑いながら、フランス王国はそう言った。
「馬鹿を言うな。此奴は関係ないだろ」
思わず眉間にシワが寄る。仏華の事は、西華の事は守らねば。
「ううん、もう良いの。吉、いや、今は、英厳だったか」
「jeも、腹括るよ」
何処か吹っ切れたような、されど、優しい笑みを浮かべ、仏華は昔の頃の姿になった。
矢張り、西華の姿も美しい。
腰まである絹のような美しい青と赤、そして白のグラデーションの入った髪。黄金色に輝く瞳。フランス王国軍の軍服と純白のスカート。
矢張り、
「お前はいつも美しい」
思わず、心の声が漏れた。
最近見ていた、仏華の、赤と青のオッドアイでは無い瞳。可愛らしいズボンとラフな上着を着ていた仏華も良いが、キリッとしている西華も好きだ。
「おや、貴方からそんな言葉が聞けるなんて、嬉しいです。最近はずっと、炎吉でいたからですかね?」
あぁ、敬語の彼女も矢張り良い。腹の底が見えないその微笑みも好きだ。
「ハハッ、確かに“俺”はなかなかこういう言葉を本人に送った事は無かったな」
今更少し後悔している。弟達にも、西華にも、英厳としては言えた事が無かった。
「どうせこの後、俺と西華の過去やら、何故隠していたのか、なんて事を聞くんだろ?」
この感覚は久し振りだ。英厳の鋼鉄のような表情筋の感覚は。
「立ったままでは話しにくいですから、座って下さいな」
そっと笑みを浮かべ西華は椅子を指さした。
「長い話になるからな。覚悟しとけよ」
西華は焦ること無く優雅に言葉を返す。
「まだまだ夜は長いですから、そう焦らなくても良いですよ」
決意を決めて、俺は言葉を吐き出した。西華まで巻き込んだんだ。此処で逃げるなんて絶対に無い。
「俺の過去を話そう」
そっと椅子に腰掛ける。俺に続いて、西華も、化身達も座った。
一つ、深呼吸をして、俺は話し始めた。