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俺の氷を溶かしたムーア。

俺の氷を無理矢理引き剥がしたアトーフェ。


確かに強い。コイツらは、めちゃくちゃ強い。

でも、思ったほどじゃない。


拳を握り締めて覚悟を決める俺。

楽しそうに笑うアトーフェ。

始まるのは第二ラウンド。

溶け始める氷に映るのは、どちらの立ち姿か。



─────────────────────────



「ムーア!逃げたやつを追え!」


「アトーフェ様、了解しました」


アトーフェの言葉にムーアと親衛隊二人が反応する。

逃げたやつ。それはクリフ。

彼は荷物を持ったまま逃げていた。しかし、簡単には逃げられない。

当然、追いかける人物が現れる。


「その程度のスピードであれば、追いつけます」


「くっ」


ムーアが言葉を放ち走り出す。

クリフも歯を食いしばりながら走る、走る。

しかし、それでも遅い。

ムーアも魔術師だが流石は歴戦の戦士。クリフよりも数段速い。


どうする?

俺はアトーフェを目の前にして悩んでいた。

クリフの援護をするか?

いや、アトーフェから目を離せば予見眼が使えなくなる。

そうなれば魔王の攻撃を捌き切るのは不可能だ。

それは出来ない。

でも、クリフを野放しにすれば必ず彼はムーアに倒される。


どうする、どうする?


俺は歯を食いしばりながら思考を回す。

回して、回して、経験を辿る。


冒険、ヒュドラ。嬉しい経験、苦い経験。俺は全てをフル活用する。

経験を辿って、覚悟を決める。その結果、俺の頭に過ぎったのは…


「俺たちの、負け?」


本当は分かっていたんだ。

俺の氷から逃れられた時点で盤面は詰んでいた。

ムーアの実力を見誤った俺。その代償は、敗北となって俺たちに返ってくる。


絶望の空気に舞うムーアの詠唱短縮。土の槍を作った老戦士がクリフを視界に捉える。


「まずは、一人」


ムーアの言葉が戦場に響く。

どうすることも出来ない。

エリスが居たら勝てたのかな?そんな諦めと後悔が俺の頭に過ぎる。


しかし、俺は勘違いしていたんだ。


俺と戦える仲間はエリスだけ。そんな事実。

ストーンキャノンに合わせられられないのは事実。でも、それでも。


俺は、一人じゃなかったんだ。


ガン!!!


戦場に響いたのは甲高い金属音。

ムーアとクリフの間に立っていたのは、俺と同じ髪色の頼りになる剣士。


「ここらで、父親の威厳を見せとかねぇとな」


クリフとムーアの間に立っていた人物の名は『パウロ・グレイラット』

ムーアの土の槍を剣先で防ぎ、クリフを守る姿がそこにはあった。

パウロは、俺の父親は、勝利の火を絶やさないでくれた。


「速い。しかし、一人ならばどうとでもなります」


ムーアは一瞬仰け反り怯む動作を見せた。

しかし、本当に一瞬。


すぐさま隣に居た二人の親衛隊に顎で合図をする。


剣士は俺が止める。

お前らは逃げたやつを追え。そんな合図。


しかし、奴らは勘違いしている。

厄介なのはパウロじゃない。


本当に厄介なのは、俺を師匠と慕う最硬の神子。


ドン!ドン!


握り拳が二人の親衛隊の顔面を捉える。

素手とは思えない、圧倒的な威力と爆音。

その後にゆっくりと声を出す一人の男。


「流石は師匠ですな。不死魔王の右腕を破壊するとは」


「ザノバ……」


俺はアトーフェを一人で止めた。

氷で全員を足止めした。でも、それでもダメだった。


エリスに頼りきっていた俺はダメダメだった。


でも、そんな俺を仲間は助けてくれる。


一人じゃないって証明してくれる。


「ルディ!こっちは任せろ!」


パウロの言葉。指示を出すように彼が剣先を向ける。

その先に居るのは、もちろん。

最強の不死魔王。


「もう、オレにストーンキャノンは通じないぞ!?オレは賢いからな!」


「そうでしょうね」


不死魔王 アトーフェラトーフェの自信。

見せてしまったストーンキャノン。ストーンキャノンは速いが直線的。

恐らく、奴の言う通りもう当てることは不可能だろう。


しかし、それで良い。


最初の目的を思い出せ。

俺たちの目的は勝つことじゃない。


クリフを転移遺跡まで逃すこと。


ストーンキャノンの警戒で動きを止めたアトーフェ。

パウロたちに動きを止められたムーアと親衛隊。


そう、もうこの時点で俺たちは勝っていたんだ。


「ルーデウス!必ずペルギウスを、援軍を連れてくる!」


クリフの言葉。

それと同時、彼の足が遺跡の茶色い石に乗る。


そう、クリフは転移遺跡に到着していた。


「もう俺は攻撃しません。攻めではなく守る。攻撃を受け切ってペルギウス様を待ちます」


「ペルギウスだと!?なぜ、奴が来る!?」


会話が戦場に響き、クリフが遺跡の階段に足をかける。

困惑を見せるアトーフェ。俺は、この反応を見て確信していた。


もう、奴らにクリフを倒す手段はない。

ナナホシを確実に助けられる。


こんな確信。しかし、それは違った。

アトーフェの指示で動いていた人物が居たんだ。


アトーフェの困惑は、馬鹿故に忘れていただけ。


その証拠に、ムーアは落ち着きながら、ゆっくりと。


安心するかのようにクリフから目を離していた。


ドン!


音の位置はクリフの腹。

階段を降りようとした彼の腹にめり込む拳。

メキメキと音を立てて、くの字に曲がるクリフの身体。


それを見下ろしていたのは、遺跡の中から出てきた三人の親衛隊。


「は?」


安堵が一瞬にして絶望と困惑へと裏返る。

黒鎧を着る親衛隊。奴らのしていたことは明白だった。


「アトーフェ様!遺跡の調査が終了しました!」


「遺跡の調査。あ、そういえばそうだったな!よし、今殴った男を逃さないようにしておけ!」


魔王の言葉を聞いて、ため息を溢すムーア。

その光景を見た俺の額は冷や汗で埋まる。


そうだ。なんで考え付かなかったんだ。

当たり前のこと。初めて転移遺跡を見たら調査させるのが普通。


いくらアトーフェでも、それぐらいのことはする。


くそっ。俺は楽観視していた。

遺跡に辿り着けば勝てる、そう思っていた。


でも違った。その証拠に親衛隊は黒鎧を纏い、クリフを取り囲んでいた。


一種の人質。もう逃げることは叶わない。


相手は魔王。そして、そんな敵を倒すしかなくなった戦況。

側から見れば絶望的だろう。


しかし、俺の心情は絶望とは程遠かった。


「もう、俺は一人じゃない」


最初は一人ぼっちだと思っていた。

エリスの居ない俺。そんな俺には自信がなかった。


でも、俺は気付かされた。

俺は一人じゃないって。

助けてくれる、勝たせてくれる仲間が居るって。


パウロ、エリナリーゼ、ザノバ、クリフ。


そんな人が居るからこそ戦える。

皆と、大切な人と共に戦い、そんな人たちを守るのは…


…俺だ。


「はははっ!これで、もうオレと戦うしかなくなったな!」


「そうですね」


「なんだ?随分と落ち着いてるな!」


「……」


俺は黙って深呼吸をする。

一つ、二つ。

大きく胸に酸素を入れて、吐く。


そして鼓舞するように。

エリスの面影を見つめるように、この言葉を吐き出していく。


「すごいエリスを守るのは、俺だ」


この呟き。近くで聞いていたパウロが笑う。

絶望と希望が交差する戦場。

そんな戦場で、さぁ勝とう。

幸せの日々。シルフィ、ノルン、アイシャ。そしてエリス。


また、元気に恋人繋ぎが出来るように。


実力と決意、勝つか負けるか。俺たちに残る選択肢は、それだけだ。



─────────────────────────



ガン!


二箇所で甲高い金属音が同時に鳴る。


俺とアトーフェ。

パウロ達とムーア&親衛隊。


二つの戦い。

しかし、俺の耳と目には一つの情報しか入っていなかった。


(ムーアはパウロに任せる。俺がするべき仕事は、こっちだ)


全神経を向けるべき相手、不死魔王アトーフェ。

俺は予見眼を開き見つめる。

奴は俺のストーンキャノンを右腕に食らった。

欠損するほどの怪我。しかし、流石は不死魔王。

その程度の怪我は綺麗に治っている。


しかし、そんな不死魔王でも不可能なことがある。

それは剣。奴が右手に持っていた剣は後方に飛び、魔王の右手には握られていない。


戦況は悪いが明らかに魔王は弱体化している。

俺は戦況を整え、剣を持つ手に力を込める。

摺り足で土の剣を構えて、じんわりと、じんわりと距離を詰める。


汗が顎を伝い乾いた地に落ちる。

その合図と同時、アトーフェが踏み込んだ。


バン!


「勝つのはオレだ!!!」


アトーフェの踏み込み。しかし、先ほどとはまるで違った。

足元から砂埃が上がるほど鋭く、そして速く、サイドステップをしながらジグザグに距離を詰めてくる。


「ストーンキャノンの警戒」


俺の言葉を聞いてニヤけるアトーフェ。

もう俺の技は通用しないと、そう言いたいのだろう。


学習したアトーフェ。しかし、学習したのは魔王だけじゃない。

闘気の纏えない俺。雑魚で弱い俺。そんな俺でも学習することは出来る。


ブン!ブン!ブン!


「流石に避けてくるか!しかし、さっきの攻撃は賢いオレには通用しないぞ!」


「……」


俺は短い戦いの中で奴の動きを学んでいた。

そして、それに加えて魔王は剣がないことで弱体化している。

大きな二つの理由、そのおかげで俺はアトーフェの三連撃を避けることに成功していた。

先ほどよりも見える拳。

見える、見える。

弱い俺でもアトーフェの動きが分かる。


アトーフェの言葉。

俺の攻撃が通用しないという言葉。


この言葉を聞いた俺は、予見眼を開いたまま、小さく笑った。


俺の学習はアトーフェの攻撃を避けることじゃない。

捌き切ることじゃない。


ストーンキャノンは囮。

俺には、明確な勝ち筋がある。


グチャッ


「なんだ!泥か!?」


アトーフェが左足を踏み込んだ瞬間、地面が液状化する。

そこに左足を取られたアトーフェ。

その正体は俺の得意な泥沼。アトーフェの動きに慣れてきたことによる余裕。

そんな余裕を、俺はアトーフェの足止めへと変換する。


「流石に魔術の生成は速いな。だが!この程度ではオレは止まらんぞ!」


魔王の言っていることは正論。

泥沼は便利だが、殺傷能力はない。


そして、足止め出来るのも一瞬。

泥沼に嵌るアトーフェ。そんな奴に撃てる技。それは多くても一つだけだ。


「貴様は強い。だが!この泥は単なる時間稼ぎに過ぎなかったな!」


左足を一瞬で泥から引き抜いて、俺を睨み付けるアトーフェ。

奴は、この瞬間も小刻みに頭を振っている。

ストーンキャノンは当たらない。しかし『あれ』なら当たる。


魔王の頭から消えた謁見での出来事。

闘気を無視出来る、俺とロキシーの技。


「エレクトリック」


掌に小さな電撃を作り、魔王の腹に近付ける。

小さな光に魔王の顔が照らされる。


痺れて、止める。

俺は小さく呟いた。


「俺の、勝ちだ」


魔王と俺のタイマン。

その結末は俺の勝利。


俺は確信する。

アトーフェとエレクトリックの距離は残り数ミリ。


俺は勝った。

そう思っていた。


バン!!!


「ぐふっ」


……は?

俺の疑問。瞬間、俺の背中に激痛が走る。

「ぐふっ」という情けない声。そんな声の主は俺。

短い文字と大きな疑問。最悪の謎が俺の頭を支配する。


俺は苦悶の表情と共に吐血していた。

背中がじんわりと痛む。

気付いた時、俺の背中は『剣』で切り裂かれていた。

魔王は剣を持っていない。

そうなれば必然、奴しかいない。


「やはり、最大の敵はあなたでしたか」


老戦士の呟き。背後から聞こえてくる小さな声。

俺を後ろから見つめていたのは、老戦士 ムーアだった。



─────────────────────────



クリフが捕まり、ルーデウスがアトーフェと一対一を決意した時、ムーアは考えていた。


その考えは一貫していた。

パウロのザノバを目前にしているにも関わらず、眼中に入れるのは全くの別人。


「ルーデウス殿をどう止めるか」


タイマンに集中するルーデウスとは真逆の考え。

視野を最大まで広げて、戦場を見つめる。


その結果、老戦士はこう考えていた。


アトーフェ様と戦っているルーデウス・グレイラットこそが一番厄介。


この場でアトーフェを除いた最強はルーデウス。

そうなれば、パウロとザノバは後回しで良い。こんな思考を巡らせる。


しかし、パウロとザノバも決して甘い相手じゃない。

簡単には行かせてもらえない。


「ルディは本当に俺の自慢の息子だな」


「師匠の氷、魔術は、いつ見ても美しいですな」


甘くない相手を目前にするムーア。

そんな相手。普通ならばアトーフェへの援軍は諦めるだろう。

ザノバとパウロ、二人と戦うことを決意するだろう。


しかし、ムーアは普通ではない。

ムーアは歴戦の老戦士。彼の目と脳には戦況を分析する力が備わっている。


「どちらとも物理攻撃」


全ての流派を使えてテクニックはあるが、火力の乏しいパウロ。

火力も耐久もあるが、スピードには乏しいザノバ。


この能力をムーアは見間違えない。


「さぁて、どう来るか……って!おい!何処に行く!?」


「先に倒すべきは、あなた達ではない」


ムーアは意表を突く行動を取る。

唐突にパウロ達に背中を向けたのだ。

そして走り出す。行き場所は決まっている。


「先に倒すべきは、最強の魔術師」


走り出すムーア、意表を突いた動き。それ故に戦闘経験の浅いザノバは付いていけない。


しかし、パウロは別。

背中を向けた相手は格好の獲物。


「お前の相手は俺だ!ルディの所には行かせねぇよ!」


バン!


パウロは剣神流の構えを取り、ムーアを追いかけた。

最速の踏み込みから流れるような剣撃。

その結果は『直撃』だった。


「速いが流石に追いつけるな。悪手だったんじゃねぇか?」


直撃したパウロの攻撃。完璧に入った剣神流の攻撃。

手応えを感じて勝ちを見据えるパウロ。

しかし、彼は忘れていることがある。

ムーアに対して忘れていることがある。


ムーアはアトーフェ親衛隊の隊長。そう『不死魔族』


この事実がパウロの頭の中には無かった。


「このぐらいの攻撃なら止まりません」


ムーアは走りながら詠唱短縮をしていた。

土の壁を作る詠唱短縮。


その魔術の発動はパウロに切り裂かれてから。

倒したと思ったパウロの油断を誘い、建てられる。


「アースウォール」


ムーアを見つめていたはずのパウロ。彼の視界を大きな土の壁が覆う。

パウロは全ての流派が使える。しかし、制度は上級。

剣神流の上級では、ムーアは貫けなかった。


土の壁を作りパウロから逃れたムーア。

そうなれば必然、倒す相手は決まっている。


バン!


ムーアの踏み込み、切り裂かれた背中をそのまま移すように。

自らも背後を取る。


「やはり、最大の敵はあなたでしたか」


ルーデウスの背後を取るムーア。

背中から流血するルーデウス。


吐血したルーデウスの眼前に迫るのは二人の敵。


ムーア&アトーフェ。

絶望の最終ラウンドが、今、始まりを迎える。





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