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背中に激痛が走る。ムーアの剣が俺の背中を切り裂く。
フラフラとする足取り。
そんな俺にアトーフェとムーア、二人が同時に踏み込んでくる。
完全な二対一。俺は、ムーアの策略に嵌った。
「くっ!」
俺は思考を回した。
判断を誤るな。傷が痛くても思考を止めるな。
諦めずに回す思考。その瞬間、ムーアの生成した土の壁の奥から一人の男の声が聞こえてくる。
「ルディ!悪い!すぐに行く!!!」
ガン!と壁を削る音と共に聞こえる、大きな声。
声の主はパウロ。彼は剣を壁に叩きつけてこちらに向かおうと努力していた。
どんどん苦しくなる戦況。でも、それでも俺は諦めない。
愛する人、エリスのように最後まで戦うと。
俺は決意を固める。
「貴様に勝って、必ずオレの配下にしてやる!」
「アトーフェ様、電撃と岩の警戒を怠らぬようにお願いします」
ムーアとアトーフェ、二人同時の踏み込み。
奴らが狙うのは接近戦での短期戦。
パウロが来る前に倒す。
それが奴らの狙い。
そして、その狙いを加速するように、俺の弱点が戦場に露呈する。
ドン!
「どうした!?途端に反応が鈍くなったな!」
アトーフェの右拳が俺の左肩に向かってくる。
先ほどまでは避けられた拳。
しかし、今回は、いとも簡単に食らってしまう。
バゴッ!
「ぐがっ」
俺は左肩にプロテクトのような土魔術を纏わせ、直撃を回避していた。
しかし、アトーフェの拳はそれを貫通する威力。俺の左肩に激痛が走る。
俺の弱点は予見眼。
予言眼は見た物の動きしか捉えられない。
二人同時の相手は出来ない。
ここに来て露呈するのは最悪の弱点。
改めて思う、俺は弱い。
でも、だからこそ。弱いからこそ俺は思考を止めない。
「もう疲れたか!?このままだと、オレが勝ってしまうぞ!」
アトーフェの叫びが俺の耳を揺らす。
予見眼の弱点は複数を同時に相手出来ないこと。
しかし、それは間違い。
複数を同時に見ることが出来れば、予見眼は復活する。
「距離を取る」
俺は新たな手札を切る。
土でも雷でもない手札。
その手札とは風。
威力のある突風で奴らから距離を取る。
「何か、来る?」
ムーアの呟きと同時、俺の掌に集まる風。
ヒュドラの時のような失敗はしない。もう不発にはしない。
決心する心。俺は、奴らを睨みつけた。
バン!
「くっ、風か!?」
アトーフェの言葉と同時。俺の右手から放たれる突風。
大きく範囲の広い風。初見では、まず回避不能な技。
ドン!!!
「距離を、取られる」
ムーア言葉と同時。ドン!!!と大きな音が戦場に鳴り響く。
その瞬間、後方に飛ぶムーアとアトーフェ。
遠くなる二人の敵。
近距離から遠距離へシフトする戦況。そうなれば、俺の予見眼は復活する。
(よし、ムーアとアトーフェ。二人とも一緒に、同時に予見眼で見ることが出来る)
予見眼に映る二人の存在。
俺の反応が先ほどと同じレベルに戻る。
「距離を取る風魔術。本当に手札が多い」
ムーアの言葉、褒める老戦士。しかし、彼の言葉は感嘆の声じゃない。驚きの声じゃない。
まるで当たり前とでも言うような、落ち着いた声色だった。
俺にとってまだまだ不利な戦場。
次の瞬間、俺の予見眼に映るのはムーアの詠唱短縮。
技は氷の刃。アイシクルエッジ。
「私にも、魔術はあります」
ムーアの掌に集まる冷たい魔術。
俺は、それをじっと見つめていた。
ただ集中して見つめる。
もう、背中の痛みは感じない。痛くない。
治ったわけじゃない。しかし感じない。俺は、それほど戦闘に集中していた。
だから反応出来る。
この術を出せる。
「乱魔(ディスタブマジック)」
ゆっくりと落ち着いた声色。
その立ち姿は誰もが認める強者の姿。
そんな強者の言葉と同時、弾け飛ぶムーアの魔術。
「乱魔だと!?」
アトーフェの驚きと同時、初めて渋い顔を見せるムーア。
乱れる戦場。この瞬間、決戦は短期とは呼べなくなった。
バン!!!
「ルディ!」
爆音、出所はムーアの作った土の壁から。
土を壊してやってきたパウロとザノバ。
パウロは全速力で走り、俺を敵から隠すように立つ。
その後ろから走ってくるザノバとエリナリーゼ。
短期決戦。そんな決戦は俺の勝ちだ。
「ルディ、ムーアを行かせちまった。本当に悪い」
「いえ、このぐらいなんともありませんよ」
俺は、治癒魔術を使いながらパウロと会話をする。
ムーアの強さ、アトーフェの強さ。
二人の敵、とんでもなく強い敵。
しかし、そんな敵を相手にしても、俺たちは負けていない。
ムーアの意表を突いた行動は流石だったが、それはあくまで『意表』もう俺たちには通用しない。
それを象徴するように黙り込むムーア。
アトーフェも静かだが、どちらかというと何も考えていないような、あっけらかんとした顔だ。
クリフが人質に囚われているんだ。油断は出来ない。しかし確実に追い詰めているはずだ。
静かな戦場、嵐の前の静けさ。更なる激戦が始まる。俺は、そう思ってた。
緊張が高まり、戦場が静まる。
刹那、聞こえてくる、たった一人の声。
「遅いと思ったが、貴様が邪魔をしていたとはな。アトーフェラトーフェ・ライバック」
この声は転移魔法陣の遺跡から。
その姿を見て一際大きく驚いたのは、不死魔王。
「ぺ、ペルギウスゥゥゥゥゥゥ!」
「相変わらずうるさいな」
そこに居たのは『ペルギウス・ドーラ』
俺たちの切り札が、援護が、そこには居た。
そこからは神速の如き速さで戦況が変わった。
ペルギウスが『前龍門』と『後龍門』を出す。
そして、彼が『一断』と唱える。
その瞬間、両断されるアトーフェ。
アトーフェとムーア。
奴らは、少なからず俺を警戒していたのだろう。
治癒魔術を施した俺。少なくともムーアは、万全な俺に視線を向けていた。
俺を警戒する敵。
しかし、助けに来たのは甲龍王。俺に注意を向けてしまって勝てる相手ではない。
不死魔王といえど、それは変わらない。
「憶えていろよぉぉぉ!ペルギウスゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
細切れになるアトーフェと親衛隊。
俺は、俺たちは、勝つことが出来た。
でも、それは俺の力じゃない。
勝てたのは、ペルギウスのおかげだった。
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帰り道、そして空中城塞で俺はパウロたちと話した。
「ルディ、ムーアとアトーフェと同時に戦って互角とはな。すごいけど、あんまり無理すんじゃねぇぞ?」
「師匠は、やはりとてつもなく強いですな。魔術の精度も威力も一級品です」
褒めてくれるパウロたち。みんなが生きて笑顔で終えられた戦い。
いや、みんなじゃない。一人、俺の表情だけは、みんなと違った。
「そう、ですね。ありがとうございます」
俺は青い顔で小さく笑う。元気のない顔で小さく笑う。
そんな行動。
理由は単純だった。
「俺は、龍神には勝てない」
いつか俺を、俺たちを殺しにくる龍神。
俺は不死魔王なんかに苦戦した。そんな俺は絶対に勝てない。
努力したから分かる、自らの『限界』。
俺は思い知った。
「俺は、エリスを守るためなら、なんだってする」
『何でも』この言葉に偽りなし。
限界を知ることによる『自信』の欠如。俺は後悔することになるんだ。
運命は変わった。あとは迎えるだけ。
俺と『最強』その結末。
今なら分かる。俺は間違えた。
間違えた俺。そんな俺は、俺は…
…幸せを、自ら手放してしまうんだ。