あの日の出来事から五年の歳月が経った。私は中学三年生となっていた。その頃の私は進学校に通っており、成績が良いことだけが取り柄だった。たくさん友人がいたわけでもなく、ただ勉強が人よりできる、というような人間だった。
そんな友人の少ない私にも、親友と呼べる男がいた。親友の名は高橋という。高橋は私が中学に入学してから仲良くなり、いつも一緒に勉強したり、テストの点を競い合ったり、時にはお互いの夢を語り合ったりと、私のような人間にはもったいないほどの親友だった。はずだったのだ。
事件は期末試験後に起こった。
とても些細な理由だった。側から見れば、なんでそんなことでと思うだろうが、あの時の私からしたら決して(些細な事)で片付けられるものではなかった。
中学三年生ともなると、期末試験一つの点数で志望校の合格率が左右される。私も狙っている高校があったため、非常にピリピリしていたのは覚えている。
期末テスト返却後、各々の反応を見てわたしは楽しんでいた。
「うわあー、俺この前より点数下がったー!」「やったー!前より点数上がってる!」
それぞれ反応はいろいろだ。そんな時、高橋が私のそばにやってきた。
「よ!お前、テストどうだった?」
私はぼちぼちだと答えると、高橋にテストの点数でを見せた。すると高橋は、
「うわっ!お前この点数であの高校狙ってんの?お前絶対無理だよ、あの高校かなりレベル高いんだぜ?この点数じゃあ絶対受かんねえって!なんなら、放課後俺と復習会やる?俺今回の成績よかったからさ、な?一緒に勉強しようぜ!」
高橋はとにかくそんな事を捲し立ててきた覚えがある。言うだけ言って自分の席に戻って行った。おそらく本人は何の気もなしに言ったんだと思うが、彼の言う通り志望校への合格が危うかった私に取って、彼への殺意を生み出すには十分だった。
私は彼を殺害する事を決意した。
しかし、殺害したとしても遺体を処理する場所が必要だ。だが私には遺体を処理するのに都合の良い場所を知っている。
そうあの井戸だ。
放課後、高橋を復習会を自分の家でしようと話を持ちかけ、私の家へ連れて行った。怪しまれないためにも本当に復習会を行った。その後、私は高橋にこう持ちかけた。
「高橋、俺の家の庭にはとても珍しいものがあるんだ。見ていくかい?」と。
「お!本当か!是非見せてくれ!」と食いついてきた。
私は彼を庭へ連れて行き、井戸を見せた。
高橋は「これがその井戸か。へえー、何か不思議でもあるのか?」
私はこの井戸の事を彼に語ってあげた。
高橋は「井戸に落とした物が勝手に消える井戸?まさかそんなことあるわけないだろ〜」
「まさかと思うだろ高橋。だがすぐに俺の話を信じることになるぜ」
「どういうことだよ」
と言いかけた高橋の首を、私は締めた。
「お、おい!な…なぜ…だ…」
「今からお前が消えるからだよ!!」
次第に高橋は動かなくなった。私は迷うことなく井戸に高橋の遺体を投げ捨てた。親友を殺した事に対して私は不思議と罪悪感は抱かなかった。
次の日、井戸を覗き込むと高橋の死体は消えていた。
学校では高橋が昨日から行方不明だと伝えられた。最後に会った私にも警察から話を聞かれたが、家で勉強会をして別れてからは知らないと答えると案外簡単に返された。
人を殺しても井戸に死体を捨てれば消えてしまう。こんな便利な井戸があるのだから、いくら人を殺しても井戸に捨てれば何も無かった事になる。
もうこの辺りから、私は殺人に対してなんの思いも抱かなくなっていた。
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