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「間違っても殺すなよ!あの小娘は上物だ!上手く捕まえたものには更に報酬を上乗せする!」
「「「うぉおおおっ!!」」」
バルモス号令の下傭兵達は武器を手に一斉に雄叫びを挙げた。相手はただの小娘一人。構えから多少は出来るようだが、所詮は一人。数で押し包めば捕らえることも可能。うまく行けばお零れも頂戴できるとあって士気も高かった。
「下衆ですね」
レイミは静かに刀を納刀して中腰になる。
「なんだ、今更命乞いか!?」
その構えを知らない傭兵達は更にレイミに迫る。傭兵と言えどシェルドハーフェン周辺しか知らない彼らは、レイミの構えを、居合を知らないのだ。
挑発に耳を貸さず、レイミは身体に力を込めて自身の体内にある魔力を練り上げる。
「氷華……一閃っ!」
言葉と共に引き抜かれた刀を水平に振るうと、凍てつく氷の刃が出現し、先頭に居た五人を纏めて切り裂き、凍り付かせた。
「うぉっ!?なんだ!?」
「まさか、魔法か!?」
「魔石を持ってやがるぞ!」
突然の事態に傭兵達は身を引き、レイミと距離を保つ。先頭に居た五人は胴体を真横に斬られ、斬り口は凍り付いていた。
そして、怯んだ傭兵達を見逃すレイミではなかった。空かさず駆けて、一気に距離を詰めていく。
「逃がしませんっ!」
氷の魔力を纏わせた刃を上段から振り降ろし、受け止めようとした傭兵の剣諸とも凍り付かせたのだ。
「おいっ!こいつはやばいぞ!」
「弓を!矢で仕留めろ!」
再び距離を取りながら弓を持つ傭兵達に指示を飛ばすと彼等は躊躇無く矢を射る。
「小癪な真似をしないでください!」
レイミは駆けながら飛んでくる矢を見極め、自らに当たりそうなものだけを刀で弾き飛ばしながら弓を持つ傭兵達に迫る。
「うぉっ!?速い!?」
直ぐ様納刀して。
「氷華……一閃っ!」
超至近距離で居合による氷の刃を飛ばし、弓を持つ傭兵五人の上半身と下半身を両断する。
その様を見た残る傭兵達は恐れ戦いた。
「こいつはヤバイぞ!」
「話が違うじゃねぇか!」
「逃げろぉ!」
一部は逃げ出そうとするが。
「逃がすものですか!壁よ!」
レイミが右手を向けると、傭兵達の周囲に氷の壁が出現して逃亡を防ぐ。
「なんだこれはぁ!?」
「氷の壁!?」
「余所見ですか!!」
動揺する傭兵達に正面から飛び込んだレイミは、縦横無尽に刃を振るいながら駆け回る。
武器で受け止めても身体が凍り付くレイミを相手に傭兵達はなす術もなく打ち倒されていく。
「情けない、この程度ですか!」
更に十人程を討ち果たしたレイミは、あまりの不甲斐なさに怒りを覚える。
「待て!俺達は金で雇われただけなんだ!降参するから、助けてくれ!」
「あんたに恨みなんか無い!頼むっ!」
突如始まった命乞い、これはレイミの逆鱗に触れるに充分なものだった。
「相手の命を狙い、相手が強くて降参するなど、認められるとでも!?あなた方に誇りはないのですか!?」
「死んだら終わりじゃねぇか!」
「良くもぬけぬけと!余りにも身勝手!あなた方など、斬るに値しない!!」
その瞬間レイミの内包する莫大な魔力が溢れて、周囲を威圧し燃えるような赤い髪が鮮やかな蒼に変わり、瞳が青い光を宿す。
そのまま両手を傭兵達に向ける。
「凍てつけぇっっ!!!」
一瞬だった。一瞬にして生き残った十人弱の傭兵は凍り付き、周囲の大地すら氷で覆われた。
「……ふぅ」
息を吐いたレイミの髪の色は元に戻り、瞳に宿した光も消える。
「ひぃいいいっ!!こっ、こいつは化け物かぁ!?」
隠れて様子を見ていたバルモスは腰を抜かして座り込んでしまう。
「失礼な、普通の十四歳の女の子です」
そう答えながらレイミはゆっくりとバルモスに近寄る。
「待て!待て待て待ってくれ!!儲け話があるんだ!お嬢さんの実力があれば、直ぐに大金を稼げるぞ!」
「興味はありませんね」
「なら…そうだ!エルダス・ファミリーに紹介する!その実力なら、大金で召し抱えてくれるし幹部も間違いない!」
「それも興味はありません。貴方は些かやり過ぎた。でも、丁度良いのです。貴方の死を以て『オータムリゾート』の、リースさんの恐ろしさを裏社会に轟かせる。その為にも、貴方には死んでいただきます」
ゆっくりと刀を振り上げたレイミ。
「待てぇ!待ってくれぇ!命だけはっ……!あっっ……!」
無慈悲に振り降ろされた刃はバルモスを真っ二つにして更に遺体を凍り付かせた。クリューゲの下で暗躍したバルモスは無惨な死を遂げたのである。
翌日、『オータムリゾート』本店執務室
皆様ごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。昨日の戦いはハッキリと申しまして不完全燃焼です。私の剣術や魔法がこの世界の人間相手に通用することは分かりましたが、私を満足させるものではありませんでした。最後は使いたくなかった広域魔法で纏めて始末してしまいましたし。
ただ、リースさんはご機嫌です。今も机に座って笑っています。そんなに足を広げたらパンツが丸見えですよ。
「いやいや、充分な戦果だよ。期待以上さ、レイミ。ちゃんと写真にも撮らせてある。おつかれさん!」
「写真を撮影したのですか?何のために?」
いつの間にそんなことを。
「明日になれば分かるさ。とにかくご苦労だったね、レイミ。なにか御褒美をあげたいんだけど」
「では、数日の休暇をください。帝国各地を見て回ります」
近代になりつつある帝国の現状は興味深いので、是非ともゆっくりと観察したい。
「なら一ヶ月の休暇をやるよ。それでゆっくりと羽根を伸ばしてこい。あっ、ちゃんと定期的に連絡してくれよ?」
「分かっていますよ。それでは、有り難く休暇を頂戴します」
今にして思えば、この休暇で街を離れなければ大好きなお姉さまともっと早く再会できたのです。神ならぬ身である私がそんな運命を知るよしもないのですが。
運命とは意地悪なものですよ、本当に。異世界に生まれ変わっても私を苛めてくれるんですから。
~シェルドハーフェン郊外 教会 会議室~
カテリナです。先ほど『オータムリゾート』から使者が来てバルモスを討ち取ったとの報告を受け会議室に幹部を集めて情報を共有したところです。
「バルモスが死んだか。まあ、今まで悪さしてきたんだ。報いを受けたな」
「残念だよ、魚の餌にしてやりたかったんだけどねぇ」
「止めろよ、魚に気の毒だ」
「ははっ、そりゃそうだ!」
ベルモンドとエレノアの反応は淡白なものです。
「無念ではありますが、今は討ち果たしたことを喜びましょう。お嬢様にはまだお伝えしていないのですか?」
「お嬢は地下室でオモチャ遊びをしてるんだよ、旦那。ルイの奴が傍についてる」
「左様ですか、ならば邪魔をしてはいけませんな」
セレスティンの疑問にベルモンドが答えています。全く、また新しいオモチャを用意するなんて。
シャーリィの猟奇的な面は出来るだけ抑えたいのが本音なのですが。
「ああ、あれかい?シャーリィちゃんが可愛らしい笑顔を浮かべてたよ。あれは慣れないよ、本当に。寒気がしたね」
まあ目の前で味わったエレノアらしい感想です。
「ともあれ、バルモスは死にました。シャーリィが戻り次第今後の協議を行います。各自そのつもりで」
「後はクリューゲだな、『オータムリゾート』が何かを仕掛けるらしいが……何をする気だ?」
「それは分かりませんが、リースはこの件を最大限利用する筈です。何が起きても対応できるように備えましょう」
本命はこれからなのです。何が起きても、『暁』の利益になるよう動かなければ。
『暁』の今後を占う戦いは最終局面を迎えようとしていた。