コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
バルモスの死から三日後、それらを一切知らないクリューゲは再びエルダスから呼び出され、エルダス・ファミリーの本拠地たる十六番街のとある喫茶店を訪れていた。
「ボス、クリューゲただいま参りました。如何なさいました?」
クリューゲが問いかけると、明らかに不機嫌そうなエルダスは怒りを抑えるように口を開く。
「お前、計画は順調だって話だったな?クリューゲ」
「はっ、バルモスを中心に部下を動員しております。『暁』なる新参者が思いの外強情でしたので、些か強引な手を使わざるを得ませんでしたが、間も無く朗報をお届けできるかと」
自信満々に答えるクリューゲを見ながら、エルダスは盛大な溜め息を吐いた。
「で、バルモスの奴からは知らせがあったのか?」
「いえ、まだです。今少しお待ち下さい」
「てめえ、何も知らねぇらしいな?」
「と言いますと?」
そう返したクリューゲにエルダスは苛立ちながらテーブルに新聞である帝国日報を叩きつけた。
「こいつを読んでみろ!!ばか野郎が!!あれだけ手を出すなと言っただろうが!!」
「これは!?」
新聞の表紙には『無惨!!エルダス・ファミリーはここまで堕ちた』と大きく書かれ、エルダス・ファミリーが『オータムリゾート』に手を出して三十人がたった一人に返り討ちに有ったこと。
更に新参者相手に百人以上の犠牲者を出して追い払われたことが報じられていたのだ。
「何ですかこれは!?」
「聞きてぇのはこっちだばか野郎が!!『オータムリゾート』に手を出したぁ!?てめえ、何を考えてやがる!?」
「それはっ!事実無根です!これはバルモスによる独断っ!」
「あの馬鹿がてめえの指示無しに動くわけが無ぇだろうが!!『オータムリゾート』からは事情を説明しろと呼び出しを食らってるんだぞ!?」
新聞には無惨に破れた三十人の傭兵とバルモスの死体の写真まで掲載されており、エルダス・ファミリーの弱体化を大々的に報じた内容となっていた。
これによりエルダスのメンツは丸潰れとなったのである。
「そんなっ!!馬鹿なっ!!」
「バカはてめぇだ!ばか野郎!よりによって『オータムリゾート』に手を出しやがって!強盗までやったらしいな!?ご丁重に新聞に書かれてるぞ!!」
「っ!これは間違いなく『オータムリゾート』の策略です!騙されてはいけません!」
「今更言い訳か!?俺が新聞だけを鵜呑みにするようなバカに見えるか!?てめえを呼び出す前に裏を取ってんだよ!!」
「ーっ!ボス!私は!」
「てめえには呆れたぜ!頭が切れるから使ってやれば、この体たらくだ!」
「ーっ!」
一頻り怒鳴ったエルダスは葉巻を吹かして落ち着く。
「……はぁ。てめえをここで怒鳴り散らしても解決はしねぇな。俺は『オータムリゾート』に詫びを入れなきゃならねぇ。だがそれまでに時間はある」
「ボス…?」
「せめてもの慈悲だ。てめえには最後のチャンスをやる。一週間以内に港湾の利権を抑えろ。わかってると思うが、今度は面倒を起こさずに確実にだ。それが出来ねぇならてめえの首を土産に詫びる。分かったか!?」
「はっ!」
クリューゲはそれを聞き慌てて店を後にする。最早完全に追い詰められた彼に冷静な判断はできなかった。何よりも一週間と言う期限があらゆる行動を制限したのだ。
彼は直ちに自分が動員できる総員を呼び出した。しかし、既に彼を見限った傘下の構成員は大半が召集に応じず、ここでも人望の無さが露見したのである。
「どいつもこいつも、私の指示通りに動かない無能共が!」
彼の召集に応じたのは僅か十人前後。更に新聞の報道を見た傭兵達も募集に応じず、クリューゲが雇えたのは情報に疎い街のゴロツキ十人ばかりだった。
「これでは、何の策も打てないではないか!」
『暁』は構成員の外出を一切禁じて要塞化された農園に立て籠り手は出せない。その状況が益々クリューゲを追い詰めていった。
~シェルドハーフェン郊外 『暁』本拠地~
うっす、ルイスだ。シャーリィの奴の怪我も順調に回復してる。薬草の効果が出てるな。売るだけじゃなくてもしもに備えて準備しておくって話になった。まあ、その辺りはロウさんが上手くやるだろうな。で、今シャーリィは車椅子で動いてるわけだが……なんだこれ。
「「……。」」
お互いに無表情なシャーリィとアスカが見つめ合ってる。何て言うか怖い絵面だな、これ。もう十分近くになる。本当になにしてんだろうな?声をかけるのも何か悪いような気がしてきたぞ。
「……アスカ、貴女も奪われたのですね?」
ようやくシャーリィが口を開いたが、奪われた?
「……。」
アスカはなにも言わず頷くだけだった。
「この世界は意地悪です。ささやかな幸せを理不尽に奪い取るクソッタレです」
シャーリィの口癖だな。
「なので、奪われないようにしなければなりません。大切なものを守れるように。仇なす相手を確実に葬れるように。私では至りませんが、その力を鍛えることが出来ます。アスカ、どうしますか?」
「……やる。みんな殺された?だから、アスカも殺す」
初めて聞いた声は幼いものだったが、中身は何か悲しいな。
「よろしい、ならば明日から訓練に参加すると良いでしょう。貴女はもう私の大切なもの、つまり身内です。できる限りのことはしますよ、アスカ」
「……ありがとう、シャーリィ。アスカ、ちゃんと強くなる」
「はい。強くなってクソッタレな世界を強く生きていきましょうね」
何だろうな、シャーリィに拾われたのが幸運なのか不幸なのか。でも獣人は滅茶苦茶強くなるって話だから、うちとしたらそれで良いのか。
「ルイ、アスカも明日から訓練に参加します。種族の差別は許しません。全員に徹底させてください」
「分かってるよ。まずは基礎からだな?」
「見ての通りアスカは小さいので、加減を間違えないように」
「その辺は大丈夫だろう?」
「シスターはスパルタですよ」
「そうだった、ちゃん見とくわ」
シゴきがエグいんだよなぁ、シスター。毎日身体中が痛むまで止めないし。強くなれてる自覚はあるけど。
「アスカ、貴女の出番はまだ先です。明日から頑張りましょうね。私も回復したら参加しますから」
「……待ってる」
「良い娘です。さあ、今日はお部屋でもう休みなさい。明日は早いですよ」
「……分かった、おやすみ、シャーリィ、ルイス」
「はい、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
アスカの奴が部屋を出ていく。明日から大変だな。
「同情でもしたか?」
「似たような境遇ですからね。でも、瞳には力がありました。だから、抗う力をつけるお手伝いをしようとしているだけですよ」
「そんなもんか。獣人は強くなるって言うし、良い拾い物したな」
「東方では怪我の功名と言うらしいですよ。確かに怪我をしてエルダス・ファミリーと揉めていますが、アスカがうちに来てくれましたから」
「怪我の功名ねぇ。これからどうするんだ?バルモスは死んだし。お前を撃ったバカは地下室。ベルさんの話だと黒幕はクリューゲって幹部だろ」
「今回は全部シスターに任せていますよ。私は口を挟むつもりはありませんから、報告を待つだけです」
そうは言うがなぁ、やけに大人しいシャーリィになにかヤバイものを感じるのは俺だけかね?絶対にヤバイこと考えてるよな、こいつ。
いつにも増して静かで大人しい恋人に、言い知れぬ不気味さと不安を感じるルイスであった。