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イーバーンの前に現れた巨大な砲塔のついた武器。
その砲塔の清廉さは、常人ならば、その場にいるだけで魂を汚染され、精神に異常を来たすであろう。
「死ね、テロリスト!」
解き放たれたイーバーンの砲撃が、空気の壁を吹き散らして一路、シャドーに迫った。
ライナーは少し遠くから警護をしていたアンダージャスティスの面々全身に悪寒が駆け抜けたのは、イーバーンから光が放たれそうになった時だ。
『まずい、このままではライナーが死んでしまう!』
試合とは異なる、明確な殺気。
「マスター!」
「ぐえッ」
アンダージャスティスの誰かが叫び、ライナーの身体を突き飛ばすように抱きかかえて、一息に十メートルは飛び退いた。直後に、響き渡る轟音が屋上を叩いた。
「ゴホッ、クソ、僕は表立って目立ちたくないのに」
突然のタックルに、息が詰まって咳き込むライナーであったが、その光景を目の当たりにして事情を察した。
自分たちがいた場所が、抉り取られている。建物の屋上の一区画がごっそりとなくなっていたのだ。
この攻撃に、歴戦の猛者であるライナーはまったく動揺しない。
「この罪は重いぞ」
「もっと仲間を読んでも良いぞ! ライナー・ホワイトッ!! その仲間ごとこの私が粉砕してくる!!」
イーバーンの砲撃の威力は見れば分かる。アンダージャスティスメンバーが助けなければ、まずもって助からなかっただろう。
しかし、アンダージャスティスの王として振る舞うからには情けない姿は見せない。
「貴様程度にこれ以上の戦力は要らん」
ライナーが苛立たしげに、剣を構えた。
ライナーが睨み付ける先にはイーバーンがいる。
「ナメるなよ、現地人の猿風情が!!」
「すぐにあの世へ送ってやる」
高速移動によって背後から迫る青い砲撃をライナーは迎撃する。
ぶつかり合う霊子と魔力の刃。
激しい火花を散らして、標的から逸れた霊子の弾丸は虚空の彼方に飛んで行く。
音速を遥かに超え、異世界の夜を切り裂く青い光。
地に落ちる星のように、一直線にアンダージャスティスの面々に向かって駆けてくる。
幾度目かの激突。
剣と矢が触れ合うたびに、周囲には爆弾が破裂したような衝撃が奔っている。アンダージャスティスのメンバーはライナーに庇われながら身を低くしているのが精一杯だ。
「ふん、まだ生きているか」
イーバーンは舌打ちをして、十合目となる激突をやり過ごした。
ライナーだけであれば、この状況でも生還は容易い。しかし、問題はアンダージャスティスの存在だ。それに他の観客がこれほど近くにいたのでは、ライナーではなく観客を狙われかねない。そして次の日にはテロリストに殺された被害者の名前の羅列が増えるのだ。
「落ちろッ!!」
ライナーは、全力の魔力放出でブーストした剣戟を、地面に叩き込んだ。
その勢いで、イーバーンに接敵する。
イーバーンは攻撃を繰り返すたびに、精度と速度が鈍っているのを見て取って、十二分に引き付けてから、最高の一刀を繰り出した。
案の定、イーバーンの弓は限界に達していた。
打ち砕かれた弓矢は、床面を砕いて建物を貫通し、その下で爆発した。
「終わりだ!」
ライナーは、崩れ行く建物から飛び降り、追撃に走る。
「終わり? 一度、霊子兵装を壊した程度で驕るなよ。大気に霊子がある以上、いくらでも作り直せる!!」
イバーンは飛んでくるライナーに向けて、再構成した霊子兵装で迎撃した。五つの砲塔から霊子の砲弾が放たれて爆発する。
「効かんな」
「そうか、随分と顔色は悪そうだが。ならば更に数十発受けても構わんな!!」
イーバーンから砲弾が放たれる。
観客たちは一般聖兵の避難誘導によって安全な場所まで案内されていた。そもそも自分たちの存在を探知した結界のほか、市街地戦を考慮に入れた隠蔽魔術までが施設されている。この王都事態が星十字騎士団のテリトリーなのだがら当然だが。
イーバーンの進撃は止まらない。
ライナーの警備に当たっていたアンダージャスティスのメンバーは数十人。たった一人の敵を相手にするにはあまりにも過度な物量であるが――――破面滅却師にとっては鎧袖一触。塵芥でしかない。
アンダージャスティスのメンバーは英雄の血によって戦力が高いのが常ではあるが、それでもイーバーン坡止められなかった。
白亜の制服の空気の宙を舞い、かなりの強度を持った黒いスーツが弾丸で穴を開けられ、霊子の奔流に押し潰される。
ひたすらに銃撃。仮面をつけた男による無尽蔵な砲撃は、前後左右の敵を殲滅する。
強い者は無双できるものだが、これほど相手にならないのも珍しい。
「下がれ、お前たちでは相手にならない」
「はい、ライナー様」
放たれる弾丸を避けることなくその肉体で受け止める。
超圧縮されたスーツは、鎧を必要としないほどに硬く、霊子の砲撃を攻撃を防いでいる。表面に傷がつくことはあるが、そんなものは引っ掻き傷程度にしかならない。
それだけ頑強なスーツならば、確かに鎧を着ても意味がない。それは、ただ動きを妨げるだけであろう。
しかし、それでも。
自ら攻撃に当たっていくような行動には、誰もが眩暈を覚える。
まして、笑みを浮かべるなど。
「さぁ、我が闇で眠れ」
明確な戦力差がありながら彼は明確な言葉を発した。
ライナーは、百を超える弾丸をなぎ倒して進み続ける。
この先に待つ殲滅者を目指して。