テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ねえ、左の爪の装飾手伝ってもらってもいい?」
休憩時間に美香さんが携帯の液晶画面を見ながら、私に手招きした。
仕事場の材料は白鳥さんに許可書を出せば、一回でどれだけ使おうと一律の金額で使える。
なので一か月に一回ぐらいの頻度でネイルを変える人もいる。
美香さんはそんな人で、他のネイリストがブログに載せているネイルを見ながら右手を装飾していっている。
「そういえば、辻さんってば酷いんだよね」
「辻さんって、ヘアサロンの?」
美香さんの隣に座って、液晶画面のネイルを見る。
梅雨の季節にあわせたのか青で統一したデコレーションで、美香さんにしては少し地味だった。
「そう。辻さんが私のネイル見て、『男にご飯作ったことなさそう』って笑うの。酷くない?」
「でも美香さんは本当ですよね。実家で家事しないって」
「本当はそうでも、実際を知らないのに決めつけるの失礼じゃない? 華怜も相手に料理できないって思われたら腹が立たない?」
言っていることが無茶苦茶だなって思いつつも私も自分のネイルを見た。
私もブルーで統一したショートネイルだ。ジェルネイルだから艶が際立っているものの、パールやストーンは中指と親指で控えめだと思っている。
けど、このネイルを見て彼は、私は料理ができないと思っているなら些か不愉快かもしれない。
「腹が立つかもしれない」
「でしょ?」
「美香さんは辻さんになんて言い返したんですか?」
別に私は言われたわけでもないのに、聞いてしまった。
「私の手料理、食べてみない?って誘ってみたの」
クスクス笑いながら、ネイルドライヤーに指を入れてランプを眺める。
「なんだ。ただの駆け引きじゃないですか」
「駆け引きを知らない生活をしている華怜には興味ないか。でも、――舐めて評価してくる相手に、一泡吹かせたくない?」
美香さんは相手が好きで駆け引きをするより自分のプライドの方が大事なのか、先日までベタ褒めだった辻さんに対し、負かせたいとまで思っているようだ。
でも。
ふと私も磨かれた自分の爪を見て気づいた。
彼が料理を進んでしているのは、もしかして私が料理しないと思っているのかも。
夜は不自然なほど家で食べないし、考えられる。
ネイルにお金をかけて家事をしない女――。
そこまで思われてしまうのってどうなのだろうか。
一応共同生活しているのだから、私だってできることは主張してみるのもいいかもしれない。
そもそも出勤時間が朝がゆっくりなのに対し、夜が遅いから夜ご飯が作れないと思われているかも。
ちゃんと朝、下準備してるのに。
「因みに美香さん、辻さんに何を作ってあげる予定なんですか?」
「それ。男ってお洒落な料理より、茶色い和食の方が評価しがちって」
「……へえ」
煮物とか醤油ベースの料理ってことかな。
「和食で茶色って言ったら、華怜なら何?」
「私は肉じゃがと煮物とか、かな」
「あー、肉じゃがはおかずじゃねえっていう男を黙らせるために魚ね。分かる」
やっぱ料理って面倒よね、オムライスでいいじゃん、オムライス。と美香さんは結局オムライスのレシピを探し始めた。
オムライスの方が、卵の焼き加減にこだわりや相違がみられそう。
でも、そっか。
やはり私も何か作ってみせよう。
明日の朝ご飯は、私が和食なメニューを作ったら彼はどんな反応をするのか気になる。
大げさに褒めるのか、味を厳しく評価してくるのか、悔しそうにするのか驚くのか。
気づけば私も普段目分量で作ってるくせに肉じゃがのレシピを確認していた。
*
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
砂原 紗藍
#再会