テラーノベル
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ーーCR
静かな部屋だった。
ベッドの上。
パラドは眠っている。
呼吸は安定している。
だが目を覚ます気配はない。
飛彩はモニター代わりの解析画面を見ていた。
貴利矢が険しい顔で尋ねる。
「どうだ」
飛彩は画面から目を離さない。
「消滅の危険はないだろう」
その言葉に。
貴利矢が大きく息を吐いた。
「よかった……」
大我も腕を組んだまま鼻を鳴らす。
「無茶しやがって」
そう言うが。
少しだけ安堵したようにも見えた。
飛彩が続ける。
「ただし」
空気が引き締まる。
「消耗が激しい」
貴利矢が苦笑する。
「まあ、あれだけ無茶したらな」
視線はベッドへ向く。
眠ったままのパラド。
顔色は悪い。
いつもの不敵な表情もない。
本当に限界だったのだろう。
大我が静かに言う。
「目を覚ますまで待つしかねぇな」
飛彩も頷いた。
「回復は本人の自己修復能力次第だろう」
沈黙。
そして。
貴利矢がポケットから完成したガシャットを取り出した。
白かった外装は少し変化している。
内部には。
レウコイドウイルスへの抗体データ。
パラドが命懸けで作り上げた成果が記録されていた。
貴利矢はそれを見つめる。
「頑張ったな」
小さく呟く。
返事はない。
だが。
眠るパラドの表情は。
ほんの少しだけ穏やかだった。
パラドが倒れてから3日。
部屋の照明はついたままだった。
机の上には空になった栄養ドリンク。
開きっぱなしの資料。
そして。
モニターいっぱいに表示された膨大なプログラム。
貴利矢が椅子にもたれた。
「あーーー」
「……意味分かんねぇ」
飛彩が無言でキーボードを叩く。
大我は腕を組んだまま画面を睨んでいた。
「分からねぇなら黙ってろ」
「いや、これ作った神がおかしいんだって」
貴利矢が頭を抱える。
画面には、ドクターマイティXXの設計データ。
そして。
その中から抜き出したゲムデウスワクチン生成プログラム。
だが。
そのままでは使えない。
対象はゲムデウスではなく。
レウコイドだからだ。
飛彩が静かに言う。
「抗体データとの適合率が低い」
「このままでは起動時に崩壊する」
大我が画面を指差した。
「こっちもだ」
「レウコイドウイルスの構造が違いすぎる」
貴利矢がため息を吐く。
「神はどうやってこんなの作ったんだよ……」
返事はない。
だが。
誰も手を止めなかった。
パラドが作った抗体。
あれだけ苦しみながら。
命を削って完成させたものだ。
無駄にするわけにはいかない。
貴利矢が呟く。
「絶対完成させるぞ」
飛彩も短く頷く。
「ああ」
大我も視線をモニターへ向けた。
「当然だ」
静かな決意。
そして。
さらに時間が過ぎる。
幾度もエラーが出た。
何度も組み直した。
その度にデータを解析し。
修正し。
また失敗した。
それでも。
誰一人として諦めなかった。
ほとんど睡眠も取らずに作業を続けていた。
そして――
ある日の深夜。
飛彩の手が止まる。
開発室が静まり返った。
モニター中央。
最後の処理が実行される。
数秒。
長い沈黙。
やがて。
表示が切り替わった。
【COMPLETE】
誰も動かない。
貴利矢が最初に瞬きをした。
「……おい」
大我も画面を見る。
飛彩は静かに確認する。
エラーなし。
適合率。
起動試験。
全項目クリア。
モニターに最終結果が表示される。
全員の視線が集中した。
最後の確認を行う。
適合率。
起動試験。
抗体データ。
治療プログラム。
一つずつ確認していく。
沈黙。
数秒。
やがて。
飛彩の手が止まった。
大我も画面を見つめる。
貴利矢も息を呑む。
そして――
飛彩が小さく呟いた。
「……成功した」
一瞬。
誰も動かない。
その言葉の意味を理解するまで、わずかな時間が必要だった。
次の瞬間。
「よっしゃああああああ!!」
貴利矢が叫んだ。
椅子から立ち上がる。
「できた!!」
大我も思わず拳を握る。
「っしゃあ……!」
飛彩の口元も、珍しく緩んでいた。
1週間。
寝る時間も惜しんで続けた研究。
何度も失敗した。
何度も組み直した。
それが。
ようやく実を結んだ。
その達成感は言葉にならなかった。
だから。
完全に勢いだった。
「――っ!」
貴利矢が振り向く。
大我も振り向く。
飛彩も顔を上げる。
そして。
パンッ!!
三人の手が同時にぶつかった。
高く。
乾いた音が開発室に響く。
一瞬の静寂。
誰も動かない。
そのまま固まる。
「……」
「……」
「……」
最初に我に返ったのは飛彩だった。
自分の手を見る。
そして。
大我を見る。
大我も同じ顔をしていた。
「あ」
完全に同時だった。
空気が止まる。
貴利矢だけが目をぱちぱちさせる。
そして。
吹き出した。
「ぶはっ!!」
飛彩が即座に手を引っ込める。
大我も何事もなかったかのように腕を組んだ。
だが。
もう遅い。
貴利矢は腹を抱えて笑っていた。
「いや待て待て待て!」
「今の見た!?」
「お前ら何やってんの!?」
「黙れ」
飛彩の即答。
「疲れてる」
大我も低く言う。
「今のはノーカウントだ」
「無理無理無理!」
貴利矢は笑いが止まらない。
「大先生と白髪先生がハイタッチした!!」
「記憶から消せ」
「消さねぇよ!」
開発室に久しぶりの笑い声が響く。
だが。
それもほんの数秒だった。
飛彩が完成したガシャットを手に取る。
表情が引き締まる。
大我も腕を組み直した。
貴利矢も笑うのをやめる。
視線の先には。
完成したガシャット。
パラドが命懸けで作った抗体。
三人で完成させた治療プログラム。
全てが詰まっている。
開発室から緊張が抜ける。
大我が息を吐いた。
「やっとか」
貴利矢は苦笑する。
「1週間だぞ……」
机に突っ伏しそうになる。
そして。
完成したガシャットを見る。
その中には。
パラドが作り上げた抗体。
そして。
三人が完成させた治療プログラム。
全てが詰め込まれていた。
しばらくして。
貴利矢がぽつりと呟く。
「……これを1から作った神って」
一拍。
「やっぱ凄かったんだな」
飛彩は何も言わない。
大我も鼻を鳴らすだけだ。
だが。
誰も否定しなかった。
あの男が残したデータがなければ。
ここまで辿り着くことはできなかったのだから。
そして。
飛彩が完成したガシャットを手に取る。
「行くぞ」
視線が向く。
永夢の治療を始める時が来た。
チトセ_kt国
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しらすのお部屋
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コメント
1件
**寺島あおいです🌷** 第22話、読み終えました。 パラドが必死で作り上げた抗体、そしてそれを受け取った3人が、寝食も忘れて完成させたプログラム…。1週間の土台があるからこそ、成功したあとの「よっしゃあ!」が本当に気持ち良くて、一緒にガッツポーズをしてしまいました(笑)。最後のハイタッチ、3人とも無自覚だったのが可爱くてツボです。あれを「記憶から消せ」って言う飛彩さん、素直じゃないけど確かに疲れてますね…。 「神が残したデータ」という言葉に、永夢の不在を感じさせながらも、技術の継承と信頼がしっかり描かれていて、胸が熱くなりました。いよいよ治療編ですね。祈るような気持ちで読み進めます。