そんな父の、『そろそろ──』の意味がわかったのは、それから間もなくのことだった。
なんとなく身体の違和感を覚えて、病院へ行ってみると、案の定の結果が伝えられて、もしかしてあの夜の……と、こっそりと思ったら、耳たぶが仄かに熱を持つのを感じた。
同時に、お父さんが去り際に言った”吉報”の本意もようやく知れて、病院からの帰り道で思わず顔がほころんでしまった。
「お父さんたら、もう……」
呟いて、お腹にそっと手を当てがう。
「だけど一番の報告は、やっぱり貴仁さんにしないと。お父さんは、もう少し待っていてね」
そう独りごちて、もう一度お腹をさすると、彼に幸せな知らせを告げるため、家路を急いだ。
妊娠の報告をすると──、
彼は一瞬目を丸く見開いて、それから「……本当にか」と、驚きを隠せないまま口にした。
笑顔で頷いて見せる私に、
「本当に……」
彼が、もう一度同じようにもくり返す。
「そうか……よかった。本当に……」
心からの慈しみが感じられる、三度目の『本当に』が口に出され、腕の中にそっと抱えられる。
「……私は、幸せだな。愛する君がいて、愛しい子どもにまで恵まれるなど」
耳元で語られる言葉が、胸にしっとりと沁み入っていく。
「……はい、私も、幸せです。あなたとの子どもが生まれるなんて」
かつて感じていた、(きっとこの人との元に生まれた子は、幸せだろうな)という思いが、まざまざと浮かぶ。
「ありがとう、彩花……」
私のお腹に柔らかに触れた彼の手に、自らの手の平を重ね合わせると、優しげな温もりがじんと伝わるのを感じた──。
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