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あの後、意識が切れたその場所からほんのちょっと離れた場所に寝転がってた俺を言売が見つけてくれた。
その近くの道の上に両親の頭部が潰れた遺体も転がっており、気味が悪いと感じたのか一旦言売の実家に避難し過ごすこととなった。
言売の家の居心地は悪くなかった。
今考えたら少人数で暮らすならあの家の広さで十分だ。
俺の家のところと違い周囲に家も沢山あって人も沢山歩いていた。
ものうるささはあったが、特にこれといったストレスは感じていなかったと思う。
近所の人だって言売の人徳のおかげでそこまで悪い印象を向けたりしなかった。
しかしそれから数日…。
「ねぇねぇ、あそこの土橋さんちの子…自分の両親を殺したんですってよ…」町民A
部屋でくつろいでいると外から声が聞こえてくる。
それも、ちょうど暑い時期に差し掛かるので網戸にしていたからはっきりと聞こえてしまう。
「ええ…てかどうやって…」町民B
「両親の頭を…なんていうの?…そう、鈍器で…それで身寄りもなくここに来たらしいの…」町民A
「なんでそんなことを…」町民B
「分からない…でも噂で聞いたのよ…怖いわよね…」町民A
情報は人を跨ぐ度、勝手な憶測が飛び交い本当に正しい情報の形が少しずつ歪んでいく…。
今回は俺の知る中で呆れる程の典型的なものだ。
当時の俺はあまり意味を理解できていなかったが今思えば両親が殺されたと同等に胸糞悪い思い出だった。
「なんで言売さんはその子を匿ってるの…」町民B
「やっぱり兄弟だからじゃないかしらね…そんな子少年院にでも預ければいいのに…」町民A
今思い出したがその時は言売のことをお兄ちゃんと呼んでいたっけ。
たまにお父さんとお母さんに兄弟が欲しいと呟いていた。
「ちっ…ちょっと行ってくる、芦兆はここで待ってな」言売
言売はそう言って玄関を出て声のする方へそそくさと歩いていく。
「こんにちはぁ」言売
言売のその時の感情とは裏腹に挨拶は穏やかだったのを今でもはっきり覚えている。
「あら土橋さん、こんにちはぁ」町民A
そして噂していたのも無かったかのように平然と挨拶を返事しているその人のこともなぜか覚えている。
「それで、家の者がどうしたんですか」言売
「ああ…いや…土橋さんに兄弟がいるなんて初めて知ったなーって…」町民A
「あの子は弟じゃないです、俺から見て甥っ子なんですよ」言売
「あっ………そうだったの!初耳ぃ…あはは…」町民B
「それで、誰があの子の親を殺しただって?」言売
「さっ…さぁ!誰かしらねぇ…えぇ…」町民A
「実際に見た訳でもねぇのに本気で子供が自分の親を殺したと信じるんかい」言売
「だ…だって、皆そう言うから…」町民A
「じゃあそいつら全員呼んでこい…お前ら含めて全員ぶん殴って確認してやるからよ」言売
「土橋さんってそういう人だったの…残念だわ…」町民B
「俺はよぉ、言いたいことがあるなら直接俺に言ってみろって言ってんだよ、俺だって兄貴殺されて嫌な気分なのに変な噂聞かされて黙ってる方がイカれてるだろうが」言売
「………」町民A・B
「その噂話してるやついたら直接土橋に文句言いに来いと伝えておけよ」言売
言売がマジギレしているところを見るのは今のところこの時が最初で最後だ。
その後、誰も家に来ることなく町内では言売のワルな素性の噂が広がっていた。
言売は大いに呆れ、この町自体を見限り、俺の両親の家に戻ろうかと言い出し帰ってきたのだ。
実は裏で死体回収、死亡手続き、火葬、葬式を進めていた。
変な噂が飛び交い、まだ小さい俺に変なことを吹き込むことがないよう俺に秘密で行われていたのだ。
これも今思うと、親ではあるからちゃんと弔いたかったという気持ちでいっぱいである。
この家に戻ってきてからは言売はお兄ちゃんというより第二のお父さんのような存在になっていた。
俺は言売の実家の話の件で人間を信じない方がいい、人間と関わらない方がいいと学んでしまったから学校にも行かず就職もしようとは思えなかった。
代わりに言売が出稼ぎに行ってくれる。
しかし時が経つにつれ、やはり罪悪感というものは出てくる。
さすがに働かなきゃ…言売もずっと生きてるわけでもない…しかし相談しようにも嫌な思い出が踏み出した一歩を押し戻す。
言売は任せとけとは言うものの、それで罪悪感は消える訳じゃない。
例の夢以外の悪夢も度々見るようになって、いつなんどきも生きてる心地がしなかった。
生きてていいって思えなかった。
そう思っていた矢先、この月二人という女が現れた。
最初は失礼なんじゃないかと思えるぐらい自由人だと見ていた。
でも…なんでだろう。
不思議と嫌じゃない。
今まで俺に求められて来なかったから、求められることが気持ちの良いことだと錯覚してしまっているせいかもしれない。
自由は自由でも、時に人間らしく、時に儚い一面も月二夜という女がすることになぜか心惹かれていく。
誰かの言ういつもの「灰色の世界に彩られていく」感覚だった。
それでもまだ怖い、これまでの生きてさえいられた状態から変わっていくのに恐怖はまだ残っている。
でも大人になる、ならなきゃいけない。
それは分かっている。
しかしもう少しだけ、君の気持ちに応えられない俺を許してくれ。
「あっぢぃぃぃ…」芦兆
今日は一段と暑い、もう少しで7月に入る時期にしては暑すぎる。
そんな日もあるか。
畑の側にある木の木陰で休むことにする。
「水持ってくれば良かった…」芦兆
この木は言売曰く、お父さんとお母さんが結婚の記念に植えた木だそうだ。
たしか…ヒイラギ…?
赤いつぶつぶの実をつくるが念の為食べていない。
参りに行くための墓は徒歩だと地味に遠いので、俺は代わりにこの木をお父さんとお母さんの墓だと思い込むことにしている。
この木の世話はしていない。
お天道を浴び雨風を受け、季節ごとに違う顔を見せながら、それでも俺たちをずっと見守ってくれている。
素直に言ってしまうと、お父さんとお母さんにまた会いたいとは思っていない。
俺のこんな情けない姿を見てがっかりされたくない(私情)。
暑いと疲れやすいのかすぐ眠くなる。
ヒイラギの木にもたれかかる、かなり成長しているからビクともしない。
この頃(3年ぐらい前から)はこうすることでこの世で生きてていいという気持ちを安定させている。
「芦兆さーん」月二夜
「おう…どした…」芦兆
「今日暑いし、ぐったりしてたからお水持ってきた」月二夜
「さんきゅ…」芦兆
俺の家の水筒じゃない、きっと月二夜がここに来る時持ってきたものだろう、綺麗な青色の水筒だ。
「無理しないで、疲れたらお家で休も?」月二夜
「そうだな…そうするか…」芦兆
ごめん、ヒイラギ、月二夜が俺に求める間は君を頼ることは少なくなってくかも。
使ったことの無い水筒だからなのか、いつも外では飲み食いしないからなのか、ただの氷水が倍も美味しく感じられる。
まだ頭がぼーっとする、今立ち上がったら立ちくらみがしそうで動けない。
木にもたれかかりながら水筒を開けて、水を飲み、蓋を閉める、その動作を何回か繰り返す。
「芦兆さん、大丈夫?」月二夜
そろそろやばい。
木陰で氷水を飲んでだいぶ涼んだはずなのに、意識がパッとしない。
今日は畑仕事張り切りすぎたかな…眠い…。
「肩…貸して…家戻る」芦兆
フラフラな右腕腕を伸ばすと月二夜は黙ってすぐさま俺の右腕を肩にまわし持ち上げてくれた。
暑いはずなのに月二夜の肩は心地よくいい匂いがする。
視界もぼやけ朦朧とする中、おぼつかない足を必死に進めていく。
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月白
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耀聖(ようせい)
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コメント
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第11話、読み終えました……芦兆くんの過去がじわじわと胸に来ますね。言売さんが噂話にキレた場面、本当にいいシーンでした。あんなふうに守ってくれる人がいたからこそ、今の芦兆くんがあるんだなって。そして月二夜さんの「水持ってきた」のひと言が、なんだかすごく沁みました。暑い日の木陰で、誰かが気にかけてくれることのありがたさ……あの空気感が丁寧に描かれていて、好きです。