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現世(うつしよ)に向かう者、幽世(かくりよ)に残る者、各々が簡単に別れの挨拶を済ませた後、神殿を出て丘の中腹迄戻ってきた一行の中から善悪の声が響いた。
「あれ? いないのでござる…… ここで待ってろって言って置いたのに、ちっ、ウィルの奴め! 本当に使えないのでござる!」
周囲をキョロキョロと見回していたコユキが、少し下の方の土溜りの山から、モゾモゾと蠢きながら姿を現したキャサリンに気が付くのであった。
全身土塗れ(まみれ)になっているだけでなく、魔核のせいかもしれないが少しやつれて何やら焦っているように見えた。
「キャシィー! 一体どうしたと言うのん! そんな姿になって!」
「こ、コユキっ! マッドスライド! 土砂崩れが起こったのよ! アタシは自分のスキル、クリームマスターでギリギリ避けて、今皆を何とか掘り起こした所なんだけど、だけど、だけど! ウィル、ウィルが! 逃げってって言ったのに…… 親友との約束だって! ヨシオに任された魔核を守るってぇ! 集めた魔核を守るように覆いかぶさって、まだっ、まだっ、見つかっていないのよぉ! どうしようっコユ――――」
「アフラ・マズダ! アンラ・マンユ! フルチャージでござる!」
カアァッ!
キャスリンの言葉が終わるのを待たずに叫んだ善悪の声に答えて、眩い光を放って全魔力を、自らの主である因業坊主(いんごうぼうず)に送り出す素直な二振りの念珠に宿った十四柱の大徳達。
全身を濃密な魔力でビカビカさせた善悪は土溜りへ向けて、無我夢中の攻撃を加えるのであった。
「うらぁっ! 喰らえぇっ! 爆ぜろっ! うらうらうらうらうらうららぁっ!」
「ヨ、ヨシオっ!」
今まで見た事無い程の善悪渾身のラッシュを見たキャシィは、何やら感動したっぽい涙を湛えながら彼の本名を呟くのであった。
何度か土の山に打撃を与えていた善悪は、アメリカの聖戦士、お互いに呼び合っている(?)親友が、自らの呼びかけに答えて取る物も取らずに駆けつけた証であろう、スカイブルーのパジャマの背中を見つけると、最も信頼しているであろうコユキの足元に向けて力強く投げ放ち大きな声で雄叫びを上げたのである。
「うらあぁっ!!」
ゴロゴロゴロゴロ、クタァ……
「ウ、ウィルゥゥーッ!」
慌てて駆け寄ろうとするキャスリンを制したコユキは、ウイリアム・スミスの腹と胸に向けて両の掌を勢いよく叩きつけるのであった。
バチッコーンっ!
「グハッ! グババババアァッ! はぁはぁはぁ、こ、ここは? グランマは? フラワーガーデンは?」
どうやら死の淵を覗いていたようである、盛大に土っぽい物を気管から吐き出して目を覚ました、彼の帰還を喜ぶのはコユキとキャシィだけでは無かった、誰よりも嬉しそうな声を上げたのは掘り出した善悪、その人であったのだ。
「ウィル、無事で良かったでござるよ…… ちみに若(も)しもの事が有ったら、そんな風に想像してしまったら、居てもたってもいられなくて自分の限界を越えて、もう、もう、無我夢中で動いてしまったのでござる…… 乱暴な救出方法を許して欲しいのでござる…… 親友、同盟者よ……」
言いながらも、多分恥ずかしいのだろう、善悪はウィリアム・スミスの方を一切見ることなく、黙々と彼が身を挺して守った、大量の魔核を自分のリュックに詰め続ける作業を続けるのであった、奥ゆかしいなっ。
照れ臭そうにしながら全ての魔核を拾い集め終えた善悪に向けて、復活したばかりのウィルが駆け寄ろうとした時、掌を広げて見せた善悪が言った。
「ウィル、ちみと抱擁を交わしたいのは山々でござるが…… ちみの尊厳を守る為に止めて置くのでござるよ…… なぜなら、ちみの体を覆っているのは、土塊(つちくれ)では無くカウダング、牛糞だからでござる!」
ピタリと動きを止めたウィルの隣で、キャスリンが自分の体の匂いをクンカクンカした後で言った。
「私もだわ、コユキ! 直ぐ帰って洗わなくちゃっ! ゴメンね? 貴女に対して余所余所(よそよそ)しくなってしまうけれど……」
コユキは笑顔を浮かべて言った。
「大丈夫よ、キャシィ、貴女とアタシの間じゃないの、今は早く自国に戻って体を清めて欲しい…… それだけがアタシの望みよ! 全く誰がこんなに酷い事を! それだけが許せないだけよ…… 他の国の皆も早く帰って奇麗にしてね? ほら、早く早くぅ!」
優しい。
キャシィとウィルだけでなく、その他の国から駆けつけてくれた面々も、自国に繋がるクラックへと歩き始め、今回の共闘はコユキと善悪の分別によってサッパリと終りを告げるのであった。
「んじゃ、帰ろっか善悪?」
「うむ、ナイスでござったコユキ殿! 本当空気読むよねぇ~! でござるっ!」