【プロローグ】
この世界は魔法の強さで全てが決まる。あらゆる場面でこの強さが決定権を左右する。弱いものは淘汰され、強いものが全て決められる。だがそんな偏った世界を改革しようとする英雄がいる。
この物語はその英雄の軌跡を描いたものである。
春。それは始まりの季節と呼ばれる色々な人にとって特別な日。ある人は学校に入学をしたり、ある人は後輩が出来たりある人は新しい環境で生きていくことになる春。そして今、【黒宮龍牙】は【国立魔法戦闘技術学院】通称国立魔法学院の校舎の前に佇んでいた。今日が入学式であることをすっかり忘れて遅刻ギリギリで学校に着いた所だった。
「あっぶねぇ〜もう少しで遅刻するとこだったなぁ」とお気楽に独り言。だが内心は相当焦っている。流石に初日から遅刻して登場出来るほど龍牙は肝は据わってなかった。
「ん〜と、確か体育館で入学式をしてからクラス発表してクラスに移動だっけか、急がねぇとな。」そうして龍牙は体育館へ急いで向かうのだった。
【体育館】
シーンと静まり返っている空間。後5分後に控えている入学式への緊張か、はたまた周りが知らぬ者たちばかりか、皆の顔は険しく誰も口は開かない。時計の秒針がいやにこの空間にうるさい程響く。まだかまだかと皆待ちわびていた。だがその空間に異物が混入する。
キィーと金切り声の様な音を立てて開くドア。そしてその入ってきた人物は先生でも無くこの後演説をするであろう理事長でも無くあろうことか入学する生徒だった。少しボサボサな白い髪に綺麗な赤い瞳。背格好は平均的で立ち振る舞いはどこか少年味を感じる。悪く言えば忙しそうな同級生が1人入ってきた。
「えっと、俺の席何処だ、これ」席表は入学が決定した時に配られた書類に書いてあったがそれを龍牙が見てるはずもなく一向に自分が座る席が分からない。
「ここだよ、ここ」そんな龍牙に席を教えてくれる女の子。見た目は清楚だがどこか力強さを感じさせる見た目。髪はロングの黒髪、黒い瞳と相まってザ日本人って感じの見た目。要らない情報だが胸はたわわである。
「お、ありがとよ、よく分かったなぁ、俺の席が」
そう言いながらその少女の隣の席に座る。
「いやだって、入学式が始まる5分前になって席が空いてるのってここしか無かったし、多分ここかなぁって」と少し微笑みながら説明してくれる女の子。可愛いな、この子
「改めて、席を教えてくれてありがと。・・・・・・えっと名前、なんていうの?」
「私の名前は紫門鈴音。あなたの名前は?」
「俺の名前は黒宮龍牙。趣味はダラダラ、好きなことはダラダラだ!基本ダラダラするのが好きかな!」と包み隠さず自分を出す俺。それとは対照的に鈴音は当たり障りのない自己紹介をし、お互いの自己紹介を交わす。
「へ、へぇ〜なんていうか素敵だね!」とこれまた当たり障りの無い返答。だがこれは多分引いてる?それとも呆れているのか。取り敢えず第一印象はダメダメかもなこりゃ。ってか紫門って名字ってことは
「もしかして紫門さんって紫の家の人?」
「あ、やっぱり分かっちゃう?分かりやすいもんね〜そう、私紫の家系なの」
魔法を扱うもの達の中には特に扱いに秀でたもの達が居る。そして扱う属性によって色で分けられているのだ。赤、青、黄色、紫、緑に分けられる。そして名字に色が入ってものは全員と言っていいほど強い。魔法の扱いが上手いのだ。
「へぇ〜すげぇな、見魔でハッキリと紫色が出てる。相当強いね、紫門さんって、」
「そんなことないよぉ、後私のことは鈴音って呼んで。あんまり名字で呼ばれるの好きじゃないんだ。私より紫色が強い入学者なんているだろうし私そこまで実戦向きな動き出来ないんだよね。逆に私の魔力を見魔で見える方が凄いよ、だって私普段隠蔽してるし。」見魔。それは基本的な魔眼で、相手の魔法力や扱い、色など。見れる魔眼だ。大体の人が使えるが使い手によっては量しか見えなかったりもする。隠蔽されてたり色を隠していたりする人のを見破るには相当な腕が必要。
「ん!分かった!鈴音!でもよ、鈴音より紫色が強い人あんましいないんだけどさ、もしかして紫の宗家の人間だったりするのか?」あんまし、こういうのはズカズカ入っては行けないんだろうけど答えてくれるかな。そんな不安と共に放った質問だったが何一つとして嫌な顔をせず
「うん。宗家の人間だよ。属性を扱うのだけは上手かったの。私。」紫は主に毒などを操る家系。毒の濃度だったり生成出来る毒の種類、危険度によって強さが決まる。
「宗家の人間を呼び捨てなんて少し恐れ多い気がしてきた。」「そんなことないよぉ、宗家の人間と言っても入学当初は皆と同じスタートラインに立ってるわけだし気軽に呼んで」「そうか。なら気にせず呼び捨てで呼ぶことにするよ。それでさ、これまた質問なんだけどどこまで使える?」この質問はタブー中のタブーでもある。自分の手札を明かすようなものだからだ。だが彼女は「私は細菌汚染魔法とかまでかな。ってかそれが一番得意かな〜」「まじか、細菌汚染魔法とか毒魔法の中で1番難しい魔法じゃんか、それをその歳で習得してるって凄いな。」「えへへ、ありがとう。龍牙君」
そしてそうこうしてるうちにチャイムが鳴る。
そして数瞬後に理事長が壇上へと突如として現れる。正確には出現した。なんだ今の。全然現れたのに気付けなかった。何らかの魔法か?
「生徒諸君。起立!」清廉な声が体育館内に響く。その声を号令に全生徒職員保護者が起立した。一切の動きに乱れは無くまるで訓練された軍隊のような動き。ただ1人を除いては。「ん?!皆動き合いすぎだろ!?」急な起立に全然追いつけなかった龍牙。これまた周りから呆れられたなと思わざるを得ない。そして壇上の理事長と目が合う。あ、やっべぇ、目付けられたかなぁ、と内心思いつつ理事長を観てみる。理事長の容姿は一言で言うならロリだった。赤っぽい色のセミロングの髪型に灰色がかった瞳。綺麗というより可愛らしい見た目をしていた。だがそれは見た目だけだった。見魔で見てみると何も映らない。そう、龍牙の見魔ですら底が見えない程魔法力が凄いのだ。
これが魔法学院の理事長か、恐ろしいな、と感慨にふけっていた龍牙。だがそんなことを露知らずか理事長は淡々と事を進めていく。
「皆様、初めまして。私はこの学院の理事長を務めます水神李音です。水の家系の宗家に当たる人間で水の次期当主となるものです。まずは、当学院に入学出来たことを快く思います。筆記試験、実技試験は国内最高峰の厳しさを誇ります。その門をくぐり抜け選別されたもの達のみが入学することができます。なので入学出来たもの達はエリートです。ですがエリートの中にも落ちこぼれは存在します。生まれ持った才能のみで勝ち上がってきた人達、努力を怠らずどうにか勝ち上がって来たもの達。あるいは、才能はありながらそれでも上を目指し努力をし最強を目指すもの達。色々いるでしょう。それもまたふるいにかけなければなりません。」言葉が少しずつ激しい表現のものに変わっていく。心無しか表情も怖い。
「さて、前置きはこのくらいで。皆様は入学した際にクラスは発表されましたか?多分皆様されてませんよね?それは別にこちらの不具合とか伝え損ねたのではありません。今ここでクラスが決まるのです。」ん?不穏な空気が流れ始めたな。何を言っている?この理事長は。
「皆様にはこれからこの体育館内で戦って貰います。戦いたい人でも近くの人でも勝てそうな人でも構いません。とにかくどなたかと戦って勝利してください。その結果によってクラスを分けます。採点基準は置いておいて、クラスはAクラス、Bクラス、Cクラス、で分けられますので御承知下さい。では5分間あげますので、相手を探してください。」なんてことだ。急に戦えと。それも相手も自分で決めなくてはならず、また他者を蹴落として自分は這い上がっていかなければならない。なんと理不尽か。若干の憤りを感じつつ質問を投げてみる。「不躾ですが質問があります。理事長先生。」「はい?どうしましたか?」「そのさ、相手を選ぶのって教職員とかはありなのかな?例えば理事長とかさ、」少しにやつきながら挑発してみる。反応は分かりきっているがな。「えぇ、構いません。ですが指1本触れられないと思いますよ。」やっぱりな。確かに力の差が大きいのは明白だ。「だと思います。ただの確認です。なら」と俺が向かっていった方向は理事長に挑発した時に1番睨みつけてきた先生だ。「んじゃいっちょやりましょうや、先生っ!」挑まれた先生は凄い形相で「貴様、理事長にあんな口をきいて尚俺様にまで歯向かうのかっ!どれだけ頭がぱーなのかが見て取れるわ!いいだろう。叩きのめしてやる!」「そうこなくっちゃ〜!」売り言葉に買い言葉。こうして前代未聞であろう生徒と先生の勝負が始まる。
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