テラーノベル
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ドォォォン!!
激しい衝撃と共に、頑丈なはずの玄関の扉が悲鳴を上げた。
平和な朝の静寂は、無慈悲なブーツの足音と、金属が擦れる不吉な音によって切り裂かれる。
「……ルイ! 隠れていないで出てこい。お前がその『商品』を横領し、軍を裏切った証拠は挙がっている!」
ルイの身体が、一瞬で処刑を待つ罪人のように強張る。
覗き窓の向こうにいたのは、かつて騎士団で背中を預け合った戦友、ローランだった。
…昔、共に戦った仲間だった。
からこそ、裏切られたような気がしてしまう。
「……ルイ。お前が救ったのは『愛』じゃない。ただの『略奪』だ。今すぐその女を引き渡せば、お前の命だけは……!」
外からの怒号。ルイは震える手で剣の柄を握りしめ、背後にいるマイロを庇うように立ちはだかった。
だが、絶望は外からだけではなかった。
「……やあ、ルイ。相変わらず、物騒な『お友達』に好かれているね」
いつの間にか裏口から音もなく侵入していたのは、中性的な美貌に嘲笑を浮かべた闇医者、ベルツだった。
「ベルツ……! なぜ、ここに……っ」
「君を助けに来たのさ。……ルイ、ついに完成したよ。「彼女のすべての叡智を編み合わせてつくられた、『アブセンティア』という人類史上最強の魔法」を解く薬が」
ルイの瞳が、驚愕と恐怖で激しく揺れた。
「……記憶を、戻せる?」
「……ただし、彼女がすべてを思い出せば、彼女は二度と君を『ルイ姉』とは呼ばないだろうけどね。……さあ、どうする? 騎士様に突き出して二人で死ぬか、彼女に憎まれて生き残るか」
外からは扉を蹴破ろうとするローランの暴力。
内からは「記憶」という名の残酷な真実を突きつけるベルツの誘惑。
マイロが、震える手でルイの服の裾をギュッと握りしめた。
「ルイ、姉……? 外の人は、誰……? あの人が持っているのは、何……?」
ルイは、マイロの問いに答えることができない。
救いたかった。幸せにしたかった。
けれど、自分が手を伸ばせば伸ばすほど、マイロをより深い地獄へ引きずり込んでいく。
「……マイロ。……ごめん。……本当に、ごめん」
ルイは剣を抜き放ち、扉とベルツ、その両方に切っ先を向けた。
守るべきものは一つ。けれど、その守り方すら、もうルイには分からなくなっていた。
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