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ルイの切っ先は、微かに震えていた。
背後に感じるマイロの小さな体温が、今は何よりも重い「罪」のように感じられてならない。
「ルイ! 往生際が悪いぞ! その娘はもはや国家の『特級資産』だ。個人が隠し持てるものではない!」
扉を叩き壊さんとするローランの怒号。
彼は正しい。騎士として、法として、ルイの行いはただの略奪でしかない。
「……ふふ、聞こえたかい? 君は今や、愛する彼女を誘拐した大罪人だ。……さあルイ、この薬を使え。彼女の『叡智』が戻れば、彼女は自らの魔力でこの窮地を脱するだろう。……ただし、引き換えに君への愛は消え去るがね」
記憶を戻して「魔法使い」として彼女を逃がすか。
それとも、記憶を封じたまま二人で「商品」として捕らえられるか。
「ルイ姉……、怖い……あの人、怖いよ……」
マイロがルイの背中にしがみつき、震える声で助けを求める。
その「ルイ姉」という呼び声が、今のルイには何よりも鋭いナイフとなって胸を刺した。
……ごめん、マイロ。私は、君を幸せにしたかっただけなのに。……結局、君をまた、こんな暗い場所に追い詰めた
ルイは、決意を固めるように剣を強く握り直した。
瞳には、水色の涙ではなく、「地獄へ道連れにする」という覚悟が宿る。
「……ローラン! ベルツ! ……どちらも下がれ。……この子を渡すくらいなら、私は……」
ルイが魔法の小瓶を奪い取ろうとした、その瞬間。
「……ルイ姉。……その薬、私にください」
震えていたはずのマイロが、ルイの腕をすり抜け、真っ直ぐにベルツの前へと歩み出た。
「……マイロ? だめだ……」
「……いいえ、ルイ姉。……あなたは十分、私を守ってくれました」
マイロは、ベルツが弄ぶ紫色の小瓶を、真っ直ぐに見つめる。
その瞳には、恐怖ではなく、ルイをこの地獄から救い出すという決意が宿っていた。
「ベルツさん。……その薬を、私に」
「それを飲めば、君は……!」
「……ルイ姉。……あなたは私を救うために、闇に手を突っ込んだ」
マイロは、ルイを優しく撫でる。
その指先が、自分の首に嵌まった銀のチョーカーに触れた。
「……今度は、私の番です。……『最強の魔法使い』の見せ場を、取らないでくださいよ」
「……忘れてしまうんだ! 私のことを、……私たちの時間を!」
「……私の魂が、あなたを『ルイ姉』だと覚えているから」
マイロは迷わず、ベルツの手から薬を奪い取り、喉へ流し込んだ。