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信武に抱かれて日和美が連れ込まれた先は、どうやら寝室のようだった。
モノトーンを基調とした広い部屋には、まるでそこの主のように大きなキングサイズのベッドがあって。
ヘッドボード側の壁面に、枝葉を伸ばした大樹の根元で犬が楽しそうに走っている絵柄のアートパネルが飾られていた。
ベッド横へ置かれた半円型のサイドテーブルには木製の折り畳み式フォトフレームが置かれていて、片側にふわふわの茶色い毛玉が写っているのが見えたから、恐らくルティシアの写真が入れられているのだろう。
そのフォトフレームはV字型に開いて二枚の写真が向かい合わせで入れられるようになっていたのだけれど、信武に抱かれた日和美からは、もう一方に入った写真は死角になっていて見えなかった。
ベッドへ寝そべって右手側にスライドドア全面が鏡張りになったウォークインクローゼット、左手側がバルコニーへと続く大きな掃き出し窓になっていて。
カーテンの閉まっていない室内には、ほぼ真円に近い月の光が差し込んで、薄らぼんやりと明るかった。
まるでホテルの一室のようなスタイリッシュな雰囲気に気圧されて居たら、不意に身体が柔らかなスプリングの上へ降ろされて。
ひんやりとしたシーツの感触に、一気に頭がクリアになった日和美だ。
「あ、あのっ」
ベッドへ降ろされるなり自分の顔のすぐ両サイドに腕をついた姿勢で、当然のように信武が上へ伸し掛かってくるから、日和美はソワソワと視線を彷徨わせながらすぐ眼前に迫る彼を見上げずにはいられない。
「んー?」
なのに日和美の戸惑いなんてどこ吹く風。
信武は何ら悪びれた様子もなく日和美の上へ影を落としてくる。
信武に、馬乗りになられた状態の日和美は何故こんなことになっているのか分からなくて。
懸命に彼の胸元へ両手を突っ張って信武を押し戻した。
「な、んで……こんなことになってるんですかっ」
そうしながら何とかそう不満を述べたら、信武が「何を今更」と、日和美の片手を捉えて自分の口元へもっていく。
「日和美が言ったんだろ? 俺の彼女は自分なのにって」
掴まれた指先にチュッとキスを落とされて、日和美は信武の柔らかな唇の感触に思わずビクッと身体を震わせた。
「俺は茉莉奈を寝室へ入れたことは一度もねぇし、あいつ相手にこんなこともしねぇ」
口付けを落とされて、驚きの余りギュッと握りしめた日和美の指と指の間へ温かな舌を這わせると、信武が鋭い視線で日和美を見下ろしてくる。
「やっ、信武さっ、それ、くすぐった……ぃ」
くすぐったいと気持ちいいは紙一重。
ゾクゾクと背中を這い上ってくるこの感覚が、どちらに傾くか、実際微妙なところなのだ。
――もし後者になったら困る!
そう思った日和美は、懸命に手を引こうとしたのだけれど、信武にガッシリと握られていて逃げさせてもらえない。
「なぁ、俺、さっき言ったよな? お前も俺のこと、呼び捨てにすればいいって」
手を放してもらえないまま。
信武がじっと挑むみたいに日和美を見下ろしてくるから……。
日和美はダメだと思うのにそんな彼から目を逸らせない。
「そ、んなのっ、何の切っ掛けもないのにいきなりは無理ですっ」
それでも懸命に何とか反論出来たのは我ながら偉いと思った日和美だ。
なのに――。
「ふぅーん。切っ掛け、ねぇ。――だったら……俺がそれを与えてやろう」
「ふぇっ!?」
言うなりニヤリと笑った信武に、日和美は嫌な予感しかしない。
「お前が俺のこと、〝信武〟って呼べるようになれるためのゲームをしようか」
「ゲーム……?」
それはきっとトランプとかボードゲームとか……そういう類いのものではないと、信武の表情を見れば分かる。
「今からお前が俺のことを〝さん付け〟するたび、ペナルティを課してやるよ」
「えっ!?」
ゲームと言うからには、日和美にだって何か利点がないといけないはずだ。
「で、でもっ! それだと私には何のメリットもない気がします!」
それで、一生懸命そう反論したのだけれど――。
「はぁ? あんだろ、メリット」
絶対にないと思うのに、信武がそう言い切るから。
日和美は思わず彼をじっと見つめた。
「俺のことを呼び捨て出来るようになりゃあ、お前が俺の従姉に引け目を感じる度合いが減る」
「そ、れは……」
確かにそうなのだけれど――。
こういうのは時間をかけて少しずつ習得していくもので、強制されて出来るようになることではないと思う。
なのに、日和美がそう反論するより先に、信武から
「じゃあ、今からスタートな? お前が俺を〝さん付け〟するたびにお前の服、一枚ずつもらうから……。ま、せいぜい頑張れ」
と宣言されてしまって。
ククッと楽しそうに喉を鳴らす信武を見て、日和美はこの場合の「もらう」は「脱がせる」と同義だと確信する。
(わ、私の今日の服装っ)
やるつもりは微塵もない癖に、思わず自分が今何を着ているのか顧みずにはいられなかった日和美だ。
今日の日和美は、デニムジャケットの下に赤ボーダーのロングTシャツ。下にはハイウェストの白いタイトスカートを合わせている。
スカートから覗いた両足は、一見生足みたいに見えるけれどもちろん人様のお宅を訪問するのが分かっていて素足と言うわけにはいかないので、ストッキングを履いていて。
下着は白のスリップと、上下お揃いの淡いピンクのブラジャーとショーツ。
冬ならもっともこもこに着込んでいるのに、初夏に差し掛かる頃ということで、何とも心許ない着枚数だ。
夜だからとデニムジャケットを着てきて良かったと思いながら、(バカ日和美! なに信武さんに流されて掛けてるの!)と慌てて思い直す。
「ちょっ、待ってください、信武さんっ。わ、私、まだやるなんて一言もっ」
「はい、ペナルティ一~」
色々思いを巡らせた後、懸命に反論しようと試みたら、ニヤリと意地悪く笑った信武に、デニムジャケットをはぎとられてしまった。
***
結局口を開くたびにいつもの癖。
つい〝信武さん〟と呼び掛けてしまうから。
今や日和美を隠すのはブラジャーとショーツのみになってしまった。
あまりの恥ずかしさに涙目になりながら信武を睨みつけてみたけれど、今の信武にはそれさえご褒美らしい。
「ストッキングを脱がせた時にも思ったけどさ。恥ずかしがるお前を見んの、すげぇクるな」
言って、わざとらしく。
大きく盛り上がった己の股間を、スラックス越しに二度、三度……。いやらしく撫で上げた信武の血管の浮いた手を見てしまった日和美は、その駄々洩れな色気にあわあわと唇を戦慄かせた。
「や、あのっ、私っ。まだ全然心の準備が出来てなくてっ。……だからっ、そのっ! も、もうちょっと待って欲しいの。……お願い、信……」
危うくまた「信武さん」と呼びかけそうになって、日和美は慌てて口をつぐんだ。
「なぁ、それ、今更じゃね? 俺が一カ月近くお預け食わされてんの、お前だって知ってんだろ」
確かにその通り。
信武のことを好きになったことを認めた日。
日和美は月のものに見舞われてこれ幸いと夜のお勤めを放棄した。
あれからひと月あまり。
「――さすがにもう待てねぇよ」
生理が終わった頃、日和美にとっては幸いと言うべきか。
今度は信武が忙しくなってアパートに戻って来られなくなった。それはもちろん日和美のせいではなかったけれど、彼が忙しくなる前のチャンスをつぶしたのは紛れもなく自分だったから。
日和美はグッと言葉に詰まって――。
「で、でも信武さん! 私っ」
そのくせ苦しまぎれに何か言おうとしたのがマズかった。
またしても信武さん、と呼び掛けてしまった日和美は、信武にククッと喉を鳴らされた。
「上と下、どっちが先?」
今までは信武がどれをはぎ取るか勝手に決めて、否応なく身ぐるみを剥がしてきたくせに。
どちらを脱いでも恥ずかしいというこの段になって!
嬉し気に目を眇めた信武が、「お前に選ばせてやるよ」と言ってきた。
ギュッと唇を噛んだ日和美が、「……ぅぇ……」と消え入りそうな声でつぶやいたら、「まぁ普通はそうなるよな」としたり顔をした信武に、背中の下へ手を入れられてしまう。
「あ、あのっ! でも私の胸っ……」
日和美は胸がないわけではないが、肉付き的にはCカップあるかないか。ややボリュームに欠けることがそこそこにコンプレックスなのだ。
実際ブラを外してあおむけに寝そべると本当に何もなくなってしまうことを知っていたから。
見られる前に、せめてそのことを弁明しようと必死になったのだけれど、間に合わなかった。
日和美のそわつく心を置き去りに、いとも簡単にホックが外されてしまう。
(きゃーっ! 信武さん!! 何でそんなに手際がいいのですかっ! 手練れですか!)
心の中で盛大に悲鳴を上げた日和美は、慌てて両手で押さえてブラを死守しようとしたのだけれど。
薄桃色の布地は熟練工信武によって、それよりもわずかに早く、ベッド下へ落とされていた。
やん、見えちゃう!と焦った日和美は、手ブラジャーの要領で胸を覆い隠したのだけれど。
「往生際悪すぎだろ」
と信武に笑われてしまった。
きっと信武なら、力づくで胸の上に乗っかっている無粋な手を取り払うことは造作もないはずなのに、どうやらそうするつもりはないらしい。
「ほら、手、どけろ」
「やだっ。だって私の胸、ちっさいもんっ」
懸命に見せたくないと抗議する日和美に、「大きさとか関係ねぇだろ」と即座に返してきた信武は、あくまでも日和美自身の意思でそこを明け渡させたいみたいだ。
だが、ただ待つつもりもないようで。
胸を覆い隠した日和美の手を、指の付け根から先端に向けて、指と指の間を狙って何度も何度も執拗に舌を這わせて責め立ててくる。
それはまるでその下でツンと立ち上がった乳首ごと愛撫されているような錯覚を日和美に与えて。
「や、んっ」
それだけでもしんどいのに、下の方へ伸ばされた手で、クロッチ越し、敏感な肉芽をスリリ……と撫でるようにやんわりと押しつぶされたからたまらない。
日和美は、ビクッと身体を跳ねさせて目の端に生理的な涙をにじませた。
「それ、ヤっ……!」
日和美は思わず胸から手を放して、下へ触れる信武の手を必死で押さえて抗議の声を上げる。
「ひゃんっ」
だが、まるでそれを待っていたみたいに無防備にさらされた薄い色付きの先端をぱくりと咥えられて、日和美は「あぁんっ」と小さく喘いだ。
自身で陰核に触れることが怖い処女の日和美にとって、一人エッチの際に触れる最大の性感帯は胸の突起にほかならない。
そこを、温かく湿った口で責め立てられて、感じないはずがないではないか。
「……信、武さんっ、ダメっ」
必死に抵抗しながらイヤイヤする日和美の乳首をチュッと音を立てて上方へ吸い上げるようにして解放すると、信武がスッと獰猛な目つきに変わる。
「また言ったな」
その声に、潤んだ目でぼんやり見詰めた信武の顔のすぐ手前。
信武の唾液に濡れ光った胸の先端が、ほんのり鬱血して赤く色づいていて、やたら艶色めいて見えた。