「お前、ホント学習能力ねぇな」
どこかぼぉーっとした日和美を視界にとらえたまま、ククッと押し殺したような声音で信武が笑うから。
日和美はわけも分からないまま「ふぇっ?」と間の抜けた声を上げて。信武に、「まさか気付いてねぇの?」と微笑まじりに見下ろされた。
それと同時、信武がショーツに手を掛けてくるから。
「やっ、ダメっ」
下方へ伸ばされたままの信武の腕を押さえていた手に力を込めて、下着を下ろされないよう頑張った日和美だったのだけれど。
信武はそれさえお見通しみたいにいとも簡単にスルリと日和美の足から下着を抜き取ってしまう。
小さな布地が肌を離れる際、トロリと股布と秘所との間に微かに糸が繋がったのを感じた日和美は、羞恥心でモジモジと太ももをすり合わせた。
「なぁ日和美。感じてんの、俺にバレるの、イヤ?」
今自分からはぎ取ったばかりの下着を手にしたままの信武から、挑むような視線を伴ってそう問い掛けられた日和美は、わざわざそんなことを聞いてくる信武のことが憎らしくなってキッと彼を睨みつける。
「か、感じてなんかっ」
「下着がこんなに濡れてんのに?」
別にクロッチ部を見せつけられたわけではないし、どの辺りがどう濡れていると言われたわけでもない。
だけど、恐らく秘部に触れていた箇所がぐっしょりと濡れているであろうショーツを手放さないままに告げられた言葉は、日和美を追い詰めた。
服やストッキングやブラジャーなんかは日和美から脱がせるなり即座にベッド下へ落としたくせに。
信武がショーツに関してのみそうしなかったのが、日和美にはとても意地悪に思えた。
「信武さんはすっごくすっごく意地悪です!」
もう脱ぐものなんて何もない。
一糸まとわぬ姿だと言うのも手伝って、日和美はこれ以上酷いことはされないはずだと油断し切っていた。
なのに――。
「日和美、すっぽんぽんになっちまったからって気ぃ抜き過ぎじゃね?」
その通りだったのでグッと言葉に詰まった日和美だ。
「だ、だって……その通りじゃないですかっ。し、信武さんはもう十分満足でしょう? 私だけ丸裸にして自分だけ服着てるし。あ、貴方だけ恥ずかしい思いをしてないとか……物凄く不公平ですっ!」
その言葉に深い意味なんてなかった。
言うなれば売り言葉に買い言葉。
自分だけ裸で、信武はしっかりと服を着込んでいる現状が、たまらなく恥ずかしいと思ったからそう言ってしまっただけ。
なのに。
「あー、そっか。日和美ちゃんはそんなに俺の裸が見たかったのか。気付かなくて悪かったな」
目を細めてククッと笑う信武はとても嬉しそうで、日和美はその笑顔に何故だかゾクリとさせられる。
きっと信武は服を脱ぐことなんて何とも思っていない。
案の定、わざとらしいくらい首元まできっちり締めたままだったネクタイをグイッと緩めると、何のためらいもなく首元から擦り抜いてしまった。
「俺さぁ、感じてる日和美を見るのも、恥ずかしそうにしてるお前を虐めんのも、楽しくてたまらねぇんだわ。だから――」
言うなり、信武は抜き取ったばかりのネクタイを、当然の流れみたいに日和美の手首にクルクルッと巻き付けて、あっと言いう間に日和美の両手をひとまとめに戒めてしまう。
そうして、まるでその先を握っているのは自分なのだと思い知らせたいみたいにネクタイの端をギュウッと引き上げて、日和美をバンザイさせる。
「これ、やだっ! 信武さんっ!」
「あ。ちなみにこれは日和美が裸になってからのさん付けペナルティーの一個目だから」
今までは見せずにすんでいたわきの下まで無防備にさらす格好となってしまったことに、日和美は急所を狙われた小動物みたいにフルフルと震えた。
ひとつ目ということは、何度かやらかしていると宣言されたみたいで、気が気じゃない日和美だ。
不安に揺れる瞳で信武を見上げたら、まるで日和美の気持ちを汲んだみたいにニヤリと笑った信武に、「ちなみに今現在日和美は裸ペナルティー三まで溜まってっから」と恐ろしいことを告げてくる。
「嘘ッ」
身体をよじりながら思わずつぶやいたら、「いや、マジ」とクスクス笑われて。むき出しのわきをペロリと舐められた。
そのことに「いや!」と日和美が抗議の声を上げたのと、「あー、くそっ! パイプベッドにしときゃ良かったぜ」と信武が不穏なことをつぶやいたのとがほぼ同時で。
日和美は信じられない気持ちで眼前の信武を見上げた。
もし今寝そべっているベッドがパイプベッドだったら……信武は手にしているネクタイの先をベッドの柵にでも結びつける気だったのだろうか?
(私、絶対パーツが鉄パイプになってる家具は買わないっ)
日和美が涙目でそう心に誓ったのは言うまでもない。
***
「あ、あのっ。し、のぶ……」
両手をネクタイで縛られたままの日和美に、信武が二つ目のペナルティーとして告げたのは、その不自由な手を使って信武のワイシャツのボタンを外すことだった。
「これっ、解いてくれたらもっとちゃんと出来ると思う、んだけど、な?」
ギュッと手首同士がくっつくように拘束された現状では、信武が身に着けたワイシャツのボタンをうまく外すことが出来ない。
ボタンホールにボタンをくぐらせるだけの単調な作業が、こんなに難しいなんて!と、思ってしまった日和美だ。
「残念ながらそれは出来ねぇ相談だなぁ」
「な、んでっ」
「あ? 何でって……。手枷自体がペナルティーだからに決まってんだろーが。それに――」
そこで一旦言葉を止めると、すぐ間近。
信武の胸元で答えを待つ可愛い忠犬のような日和美の頭をヨシヨシとひとしきりかき回すように撫でてから、信武が楽しそうにククッと笑った。
「お前が不自由そうに頑張ってる手つきがすげぇ可愛くて……思いの外そそられっから」
「そそっ!?」
言葉の通り、心底楽しんでいる風な信武の表情に、日和美は頬がカァッと熱くなる。
だって、だって……。四苦八苦する自分の姿にそそられるとか……。
『どんなマニアックな性癖ですか、信武さん!』と心の中で叫ばずにはいられない。
「んなわけで頑張れ」
日和美の心を置き去りに、信武がなおも上機嫌に自分の頭をワシワシと撫で続けてくるから。
「わ、私っ、犬じゃありませんっ!」
その大きな手のひらの感触が存外心地よいと思ってしまったのを隠したい一心で、日和美は思わず強めに抗議して。
言葉と同時、眼前のワイシャツをギュッと握ってしまったのは、別に何かを意図したわけじゃない。
だけどそのせいで、やけに距離感が削られた形で信武を見上げる羽目になった日和美は、一瞬だけ信武の瞳がちょっぴり寂しそうに揺れたのを見逃さなかった。
「あ。……あー。その、……悪かったな、つい……」
バツが悪そうに頭の上から信武の手が離れたのを感じた日和美は、それだけでギューッと心が締め付けられてしまう。
ついさっき、犬扱いは嫌だと文句を言ったくせに。
日和美は思わず遠ざかる信武の手を、束ねられたままの両手でバシッと捕まえて……。
「あ、あの……でもね、私っ。その、……し、のぶ、に撫でられるのはそんなに嫌いじゃないから……。えっと、……で、出来れば……その、続けて……欲しい、です」
掴んだ信武の手を自分の頭の上に無理矢理載せて、窺うように彼を見上げた。
未だに信武を呼び捨てにするのは慣れないし、そうするだけで物凄く照れ臭い。
そのうえ一度は拒絶したくせに、自ら撫でて欲しいと乞いねだるとか……。
恥ずかしすぎて顔から火が出そうになった日和美だ。
「ワ、ガママでごめんなさぃ……」
結果、謝罪まで付け加えた日和美を驚いたように見返した信武が、何かをこらえるみたいにグッと下唇を噛んだ。
「……お前のそういうトコ、ホント反則だわ」
ややして絞り出すようにそうつぶやくなり、信武は日和美を腕の中に閉じ込めて、痛いぐらいにギューッと抱き締めた。
日和美がワイシャツのボタンをモタモタしながらも半ばまで外していたせいで。
期せずして信武のむき出しの胸元に頬を押し当てられる形になった日和美は、自分が裸なことを今更のように自覚して死にそうに恥ずかしくなる。
ちょっとでも息を吸い込もうものなら洗濯石鹸の香りがほんのりと混ざる信武の体臭に、脳みそがノックアウトされてしまいそうで、日和美は呼吸さえままならない。
「なぁ日和美。俺、もう我慢出来そうにねぇわ。自分から言い出しといて何だけど……。ペナルティー全部無視で先に進めさせてもらっていい?」
耳元で切ないくらいに掠れた声音で問い掛けられた日和美は、酸欠でぼんやりと考えがまとまらないまま、コクッとうなずいた。
***
日和美の下腹部に信武の手が伸びてきて、薄い茂みの先でツンと可愛らしく存在を主張している肉芽にそっと触れる。
「ふ、ぁっ……!」
それだけで身体中に電気が走ったみたいで、日和美は眉根を寄せて全身に力を入れた。
そんな日和美の様子なんてお構いなし。
信武が親指の腹で敏感な突起を押しつぶしたり転がしたりしながら、後方へ伸ばした人差し指で、ゆるゆると谷間たどるように執拗に動かすから。
とっくの昔に潤っていた蜜壺が、その刺激に応えるみたいにさらに追加でぬめりを溢れさせて信武の指を濡らした。
そこが滑れば 滑るほど、信武の指の動きがどんどん大胆になって。
ややして、緊張し続けることに疲れた日和美がふっと気を抜いた瞬間、信武の指先がツプッとぬかるみを掻き分けて日和美の蜜口に差し込まれた。
「い、ぁっ……!」
日和美は、突然の違和感に眉をひそめて、息を詰めるつもりなんてなかったのに、ひゅっと呼吸を乱してしまう。
「あんっ、……それ、やだっ。……し、のぶっ」
息も絶え絶え。日和美が信武の名前を呼びながら必死にイヤイヤと首を振ったのが見えていないはずはないのに、信武は指を進めるのをやめてくれない。
自分の指より明らかに太くて武骨な信武の人差し指が、隘路をこじ開けるようにしてさらに奥へと進んでくるのを、日和美は涙を零して懸命に耐えた。
「日和美……」
行動とは裏腹。
至極優しい声音で呼び掛けられた日和美が、涙に滲んだ視界で信武を捉えたら、スリリ……と胸の突起を擦られて。
不意打ちに身体がびくびくと跳ねてしまう。
さっきも触れられたソコは、痛いくらいにピンと勃ち上がって敏感になっていて――。
ほんのちょっとの刺激にも過剰なくらい反応してしまう。
両手首を戒められたまま、胸へ伸ばされた信武の手を掴んだら、「外して欲しいか?」と問い掛けられた。
一瞬、それが何を意味しているのか分からなかった日和美だけれど、すぐにネクタイのことを言っているんだと気がついて。
コクコクとうなずいて、「私……信、武……にギュッてしたいの……」としどろもどろに告白したら、乳房をいじめるのをやめた信武が、すぐさま両手を解放してくれた。
「今から俺、お前に痛い思いをさせちまうと思う。なるべくそうならねぇよう努力はするつもりだけど……正直俺も限界だ。……丁寧にほぐしてやれるほど気持ちにゆとりがねぇーってぇのが実情だって、理解して欲しい」
膣内を掻き回していた指が内壁を擦りながら突如抜かれて、思わず「ひゃん」と悲鳴を上げてしまった日和美だ。
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