テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あれから数日が経ったが、カラスバはやはり家に帰ってこなかった。どうやら異次元ミアレの調査と並行して別の仕事が入ってしまい、手が空かないのだという。
『……別の仕事、かぁ……』
部屋は荒れ放題だった。
掃除を放っておいた机の上にはインスタントラーメンの空容器が転がり、埃が薄く積もっている。
シオンはぼんやりとスマホの画面を見つめ、指を動かさずにただ眺めていた。
アチャモ、リザードン、エムリットたちが心配そうに彼女の周りを囲み、時折小さな鳴き声を上げる。
そして何か決したように指を動かす
〖カラスバさん!今日は帰ってこれそうですか?〗
すぐに返信が来た。
【堪忍にな、ちょっと異次元ミアレについてもう少しで分かりそうなんや!!】
〖そうなんですね! わかりました👍🏻✨〗
【いつもありがとさん、シオン。色々落ち着いたらお前が行きたい言いよったとこ行こな】
〖わーい!! カラスバさん大好き🥹🩵〗
メッセージでは明るく振る舞っているのに、瞳には不安と怒りと悲しみが混じっていた。
『……このメッセージも本心なのかな』
ボソッと呟き、机に突っ伏す。
でもすぐに何か思い立ったように立ち上がり、近くのコートを羽織った。
〖チャモ?〗
『ダメ、こんなの私らしくない。直接聞いてみないと分かんないよね』
アチャモの頭を優しく撫で、『ごめん、すぐ戻るからそこに居てね』とリザードンたちに言い残し、シオンは家を出た。
辺りはすっかり暗くなり、ミアレの夜景が煌びやかに広がっていた。
『本当に浮気してたらどうしよっか〜、それを弱みに一生尻に敷いてやろうか!』
〖チャモモッ!〗
もちろん、心の底では信じている。
あのカラスバさんが浮気なんてするはずがない。4年前も女性の影など一切なかった。
顔がいいし、地位もあるから、つけ狙う浅はかな女たちはいたけど…でも、すべて突っぱねていた。
私でさえ、4ヶ月辛抱強く待って、やっと話せたくらいだ。
だから、女の「お」の字もない人だ。だから、絶対に浮気なんてしない。
ましてや、女の人に触れることなど──
『……してたら、絶対許してやんない』
ボソッと呟いたその目は、光を失い、不安に揺れていた。
アザミに聞いたら、カラスバは事務所にいなかったという。どこかへ出かけているらしい。
『(夜のミアレ散策ついでに、カラスバさん見つかればいいけど……)』
自分もGPSをつけておけばよかった、とつくづく思う。そうすれば、こんな不安もなかったのに…
そう思いながら、路地裏に少し入った瞬間だった。
「ちょっとアンタ」
『私ですか?』
「そうに決まってるでしょ」
前から声をかけられ、頭を上げると背の高い派手な女性が三人こちらを睨んで立っていた。
赤いリップに濃いメイク。
ここら辺はそういう店が多いから、きっとそういう仕事の人たちだ。
そう思っているとリーダー格の女がシオンの腕を掴み、路地裏の奥へ引きずり込む。
「アンタ、カラスバさんの何」
その言葉に、シオンはすぐに察した。
『(……ああ、これは嫉妬ってやつか)』
いつもの笑みを浮かべ、猫撫で声を作る。
『何って〜、分かってるんじゃないですかぁ?』
「はっ、アンタいい性格してんね。けど、内心焦ってんじゃない?」
『それはお姉さんもじゃないですか?わざわざお仲間連れて来るなんて』
クスクス笑うシオンの肩の上で、アチャモが小さく唸る。
その様子に女はイラついたように笑みを引き攣らせ、次の瞬間シオンの手を強く掴み、「こっち来なよ」とさらに奥へ歩く。
見えてきたのは、綺麗な高層ビル。
『あの〜……私急いでて〜』
「あ、きたきた」
『いっ……ちょっとなんです……か………』
女に強く引っ張られ、ビルの入口から現れたのは──綺麗な女性と腕を組んだカラスバだった。
その瞬間、ドクッ……と心臓が大きく跳ねる。
「横にいる人、ツバキさんって言うんだけど、カラスバさんの元カノだったらしいよ〜」
『(元カノ?どういうこと?元カノって事は私が出会う前とか?それとも出会った時に会ってたり……?なんにせよ、カラスバさんからそんな話聞いたことない)』
カラスバたちをじっと見つめながら、嫌な想像が頭の中を埋め尽くす。
それに女は嬉しそうに口角を上げる。
「最近また会いだしたみたいでさ、昨日も送って貰ってたよ〜?」
『(最近…?私が風邪で倒れてる時は来てくれなかった癖に、電話すらしてくれなかったくせに)』
なんで、なんであの女の所に行ってるの?
嘘だと言って。
カラスバさんは一途で素敵な男性でしょ?
それこそ、小さい頃に好きだった絵本で見た王子様みたいな……
そう思いつつ、視線をカラスバたちへ戻した瞬間だった。
ツバキが車に乗る前に、二人の距離が縮まり──唇が触れ合うのが見えた。
『は……』
その瞬間、シオンの頭の中がサーッ……と冷めていく。
ダメ、見てられない。耐えられない。
逃げるように後ろを向き、早足で来た道を戻るシオン。
しかし、少し歩いたところで再び女に手を掴まれた。
「ねぇ、さっきの威勢はどうしたわけ?」
「もーやめてあげなよー! 泣きそうじゃん〜!!」
『………』
〖ヂャヴゥ……ヂャッ!!〗
女たちの言葉に何も言い返さずただ下を向くシオンを見かねたアチャモが飛びかかり頭を突つく。
「いっ!? なによこいつ!!」
〖ヂャッ!?〗
『……っ!? あっ、アチャモ!!』
アチャモを掴み、投げようとした瞬間、我に返ったシオンが慌てて受け止める。
〖ヂャヴゥゥ…ッ〗
『アチャモ大丈夫だから……! ごめんね、痛かったよね……』
怒るアチャモの頭を優しく撫でた後、女たちを睨む。
そんなシオンの鋭い目付きに、少し恐怖を覚え女たちは身構える。
『貴方達って、せっかく綺麗なのに性格はすごく不細工なのね』
「なっ!? それはアンタもでしょ!! このブス!!」
───バチンッ!!
頰がヒリヒリと痛む。痛い。
でも、これでおあいこ。
「はっ!やっぱ餓鬼ね、ちょっと撫でてやっただけで───」
──ガッ!!……ガシャンッ!!
「!?ちょっ!?ア、アンタ何してんの!?」
『何って正当防衛だけど。私先に殴られたから』
クスクス笑うシオンを、女たちは驚いたように見つめる。
そしてすぐに、倒れたまま呆然とする女の胸倉を掴み、自分の方へ引き寄せ、拳を振り上げる。
『………』
「ちょっ、アンタこんな事して許されるとでも思っ───」
───ガッ。
︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎
家に帰ってきたシオンを出迎えたリザードンとペンドラーが悲鳴に近い鳴き声を上げる。
〖ギャウッ!──クルッ!?〗
〖ギャピピーッ!?〗
『えへへ……色々やりすぎちゃった』
左頰は赤く腫れ、顔や腕にできた引っ掻き傷が痛々しい。
アチャモは「止められませんでした、すみません」とばかりに顔を下に向ける。
いつもなら、あんな女三人くらい簡単にやり合えるのに
『(……やっぱなんか弱くなってる?)』
すぐに息が切れるのも、こんなに痛手を負うのも…
私は造られた人間なのに
そう思いながら、フラフラした足取りで寝室へ向かいベッドにダイブする。
〖チャモ……〗
『……なんか、色々疲れちゃった……』
頭の中には、先程見たカラスバの光景が鮮明に残っている
私と会わずにあの女とうつつを抜かしていたのだろうか
いや、まぁ、あーいう組織の人が愛人を持つなんて普通のことだ
だけど、カラスバさんは違うと信じていた。
カラスバさんを置いていった私を3年もずっと待ち続けてくれた、優しくてすごく一途な人だと思っていたから。
『私、カラスバさんに飽きられるような事したのかな……』
〖チャモ……〗
心配するアチャモの頭を撫で、ゆっくり瞳を閉じた。
コメント
2件
シオンちゃん!?カラスバさん!?浮気してたらもうピーーしてピーーだ!