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「おい…もしや匂いを嗅いでないよな?」

「嗅いでる、いい匂いだよ」

「やめろって!おまえと違って汗臭いからっ」

「えー、大丈夫」


リアムが僕の肩を押して離れようとすればするほど、僕はリアムの頭を抱きしめた手に力を込める。傍から見るとイチャついてるようにしか見えない状況に楽しくなって、僕は声を出して笑った。つられてリアムも笑い出し、どちらからともなく顔を寄せてキスをしようとしたその時、扉を叩く音がした。

僕とリアムは動きを止めて顔を見合わせる。


「なんだ?」

「宿の人が軽食を持ってきてくれたんじゃない?」

「あ、そうか。頼んでいたな。間の悪い…」

「そんなこと言わない。僕が出るよ」

「いや、フィーは座ってて。俺が出る」

「わかった。ありがとう」


リアムが僕の頬を撫でて席を立つ。そして扉の前で「誰だ」と聞いた。


「俺だ、クルトだ。リアムだろ?開けてくれ」

「…何用だ」

「先ほどおまえとフィルを見かけた。少し話がしたい」

「俺は話すことはないが?」

「少しでいい。ダメか」

「ダメ…」

「リアムっ」


僕はリアムの腕に飛びついた。

リアムは王城を出た身だ。今クルト王子と会わなければ、もう二度と会う機会は訪れないかもしれない。たった二人の兄弟なんだ。少しでも仲良くなれるのなら、なってほしい。

懇願するようにリアムを見つめていると、リアムが苦笑して僕の頬を軽くつまんだ。


「俺達に何もしないと誓えるか」

「誓う。何もしない」

「わかった、入れ」


リアムが取手を掴んで引く。

内側に開いた扉の向こう側に、クルト王子が一人で立っている。


「一人か。付き人は?」

「いない。部屋を抜けてきた」

「おい、おまえに何かあれば俺が疑われるじゃないか」

「何かするのか」

「いや、しないけど」

「ならば大丈夫だ。フィル、体調が悪そうだな」

「勝手にフィーに話しかけるな」

「心の狭いことだな、リアム」

「はあ?」


せっかく会えたのに、喧嘩をしそうな二人に呆れて僕は溜息をつく。

僕はリアムの腕を強く引き、小さく首を振った。


「リアム、落ち着いて。クルト王子、お久しぶりです。僕は元気ですよ」

「そうは見えぬ。発熱してるのではないか?」


僕の肩がピクンと跳ねた。

見てわかるほど、僕の顔色は悪いの?確かに少し身体が熱い気がするけど、気分は悪くない。

もう一度大丈夫だと言おうと口を開く前に、リアムがクルト王子に賛同した。


「兄上もそう思うか?先ほどからフィーに触れるたびに熱いと思ってたんだ。フィー、やはりベッドのある部屋に変えてもらおう」

「大丈夫だって。休むならラシェットさんの城に着いてから休ませてもらうから」

「本当に?大丈夫なんだな?」

「うん」


僕は深く頷いて、クルト王子に顔を向けた。


「僕達はラシェットさんの城へ向かってる途中なんです。クルト王子はなぜここへ?」


クルト王子が中に入り、後ろで扉が閉まる。

「奥へ」とクルト王子が部屋の中央に進み、僕とリアムもそれに続いた。


「俺もおまえの伯父君の城へ向かっていたのだ。ここで会えたのは奇遇だな」


僕達の方へ振り返りながら、クルト王子が口を開く。

リアムが僕の肩を抱き寄せて「伯父上に何用か」と聞く。


「ラシェットに用があるのではなく、おまえに用がある。おまえの住んでる場所がわからないから、呼び出してもらおうと思っていた。だがここで会えたから、ラシェットの城へは行かぬ」

「俺に?なに…」

「今から話す内容は、上層部の者しか知らぬ話だ。大っぴらに話すなよ」

「だからなに?」

「父上が病に伏している。医師が言うには、もう先は長くはないとのことだ。よって俺が即位することになった」

「へぇ、そうか。兄上なら大丈夫だろ。バイロンのために頑張ってくれよ」


リアムがまるで他人事のように言う。

ちょっと待って。今重大なことを聞いたけど?王が病って、リアムは会いに行かなくていいの?

僕はリアムのシャツを引っ張って見上げる。

リアムが首を曲げて僕の顔を覗き込んだ。


「ん?なんだ?」

「父上に会わなくていいの?」

「俺は王族を抜けている。王に面会できる立場ではないし、会わなくてもいい」

「そんなっ。もし会えるなら会った方がいいよ」

「父上が俺に会いたくないだろう。そうだろ?兄上」

「ああ。父上は、城を出たおまえを許していない」

「だってさ」

「リアム…」


僕は悲しくなった。大切な人がいなくなった後に後悔しても遅いんだよ。バイロン王は素直になれないだけで、きっとリアムに会いたいと思ってるよ。だって愛した人の息子でしょ?

鼻の奥がツンと痛くなる。するとリアムが僕の鼻をつまんで優しい目で見てきた。


「また泣きそうになってる。俺は大丈夫だぞ、おまえがいるからな」

「…うん」


スズっと鼻を鳴らした僕の頬を、リアムが愛おしそうに撫でた。

その時、隣で咳払いが聞こえて、僕とリアムは同時に横を向く。

クルト王子が、片眉を上げて溜息をついた。


「俺の存在を忘れるな。リアム、わざわざ父上に会うために来なくてもいいが、三ヶ月後に俺の即位式がある。それには参加をしてほしい。フィルも一緒に来てくれないか?」

「えっ、いいの?」


リアムが口を開くよりも早く、僕が驚きの声をあげた。

いいの?イヴァル出身の僕が参加しても。

僕の疑問がわかったのか、クルト王子が深く頷く。


「ああ、ぜひ来てほしい。フィルはリアムと結婚した。まあ…こういうことを口にするのは気恥ずかしいが、俺達は家族だろう?」

「え…家族…ええ…」

「なんだ、不満か?」


僕は慌てて首を振った。

違う、嬉しすぎて驚いたんだ。僕は家族を失ったけど、また新しい家族が増えていく。嬉しい、すごく嬉しくて幸せだ。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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