「・・・・あ、あの」
玉井真一が困った顔で下を向いた。
「どうしたの?」
「突然、こんな事をして申し訳ありませんでした」
「こんな事」
「こんな事、です」
そう言うと玉井真一は真昼の髪の毛を手のひらで撫で付けて整え、ブラウスのボタンを裾から一個、二個と留めた。ブラジャーの着け心地が悪かったのでその辺りは真昼が自分で直した。
「良いのよ、気にしないで」
「ごめんなさい」
「嬉しかった」
「そうですか、いきなりすみませんでした」
「そんな顔しないで」
それは悪戯をして見つかった仔犬のような面持ちだった。しばらくの沈黙の後、玉井真一は真剣な目で真昼の手を両手で握った。
「ど、どうしたの」
「真昼さん」
「はい」
「もう一度言います。結婚して下さい」
「えーーーとーーー、私、四歳も年上よ」
「人間は三歳から四歳年上、年下に惹かれるそうです」
「それ、どこ情報なの」
「YouTubeです」
「ご家族の方に反対されるんじゃないかな」
「どうしてですか」
「離婚歴あり、バツイチだし」
「僕の母は他界してもういません」
「ご、ご愁傷さまです」
「ありがとうございます」
「お父さまはどうかなーー反対するんじゃないかなーー」
「父は離婚歴あり、三回離婚しています」
「そ、それはすごいわね」
「死別も含みます」
「そ、そう」
これはプロポーズなのだろうか。玉井真一の表情は至って真面目だった。
「ありがとう」
「え、駄目なんですか・・・!?」
「如何してそうなるの、最後まで聞いて」
静かな車内に玉井真一の唾を飲み込む音が響いた。
「は、はい」
「年上だけど良いの?」
「はい!」
「私の方が先におばあちゃんになっちゃうわよ」
「平均年齢的に男性が若いと同じ頃にお墓に入れると思います!」
「・・・・それ、どこ情報なの」
「YouTubeです」
「いきなりお墓の話なの」
「同じお墓に入って下さい」
真昼の両手を握る手のひらが熱い。
「結婚してください」
「はい」
その時の玉井真一の表情は真夏のひまわりのように明るく朗らかで優しかった。
「ありがとう」
それは真昼の心に深く刻み続けられた。
「ど、如何して泣くんですか!」
これ程までに心から求められた事があっただろうか。真昼の頬に嬉し涙が伝った。
「泣いてないわ」
「泣いてます」
「嬉しいの、ありがとう」
すると玉井真一の頬にも涙が伝った。
「玉井さんだって泣いてるじゃない」
「はい」
「素直なのね」
「嬉しいです、大切にします」
そう言うと玉井真一は真昼を抱き寄せて髪の毛に顔を埋めた。
そこで玉井真一が熱い吐息で囁いた。
「真昼さん、良いでしょうか」
「なにが」
「このまま真昼さんを帰したくありません」
「え」
「この近くだとラブホテルしかないんですが、真昼さんとさっきの続きがしたい」
「続き、ですか」
「ーーーあっ、いきなり失礼ですよね!すみません!」
真昼はその手を握った。
「このままだと私の車が置いてきぼりだから近くの駐車場まで連れて行って」
「い、良いんですか」
「スーパーの駐車場で待ち合わせなんて、雰囲気もなにもないけれどそれでも良いかな」
「も、勿論です!」
「玉井さん、すごくやる気満々ね」
「や、る気」
やる気満々の玉井真一が運転する車の赤いテールランプを目で追いながら真昼は苦笑した。
(ーーーなんだか可笑しい)
24時間営業の大型スーパー、駐車場の暗がりで真昼は玉井真一の車に乗り換えた。その時の二人の動きはギクシャクとぎこちなく、お互いの顔を見て吹き出してしまった。特に真昼は笑いのツボに入ってしまったらしく戸惑う玉井真一の顔を指差して笑い転げた。
「た、たま、玉井さん、変な顔してる!」
「そんなに笑わないで下さい」
「だって、やる気満々すぎ!そんな真剣な顔、初めて!」
「もうーーー止めて下さい」
「私、こんなに笑ったのは久しぶり!」
「そうですか、僕は微妙です。勃たないかもしれません」
「ご、ごめん!」
真昼は笑いを堪えながら軽く口付けた。
「ーーー大丈夫です勃ちます」
「早いわね」
「はい」
後方発進するアラーム音。
ピピピピピ
真昼の心臓は跳ね上がった。セックスなんてもう何年もしていない。
(ーーーーえっと)
どう動けば良かったのか、いつどのタイミングで服を脱げば良いのか脳内でシュミレーションしたが思考回路が追い付かなかった。部屋の扉が閉まりパンプスを脱いだ途端、なにをどうすれば良かったかなど考える暇もなくベッドの上に押し付けられていた。
(ーーーあ)
それは普段の玉井真一の印象からは程遠く激しいものだった。
「真昼さん、ずっとこうしたかった」
唇が深く重なり舌が口腔内を所狭しと這い回った。声を漏らす間も無く行為は続き、恥ずかしさも悩ましさも全て絡め取られた。
(すごい、こんなに求められた事なんて一度もなかった)
真昼が玉井真一のネクタイを外しワイシャツのボタンを外した。初めて見る彼の胸はやや華奢で吸い付くような質感だった。
「ーーーあっ」
舌で胸の辺りを舐めると玉井真一は苦しげな声で反応した。
「胸は苦手?」
「だ、大丈夫みたいです」
「気持ちいい?」
「ちょっとくすぐったいです」
真昼は彼の胸板に口付けしながら自分のブラウスのボタンを外した。顕になる真昼の豊かな胸に玉井真一はかぶり付き吸い付いて舐め上げた。
「ーーーあっ」
二人は求め合い、昂る波の中で結ばれた。
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