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それは病でありながら、
生きている者には一切の兆しを見せぬ沈黙の災厄である。
人々はそれを宝石病と呼ぶ。
発病者は、生きている間、痛みも異変も感じない。
魔力の流れも、肉体の機能も、すべて正常のまま保たれる。
だが──
死の瞬間。
魂が肉体を離れようとするその刹那、
肉は結晶へと変わり、血は光を宿し、骨すらも宝石へと固定される。
まるで死そのものを封じ込めるかのように。
こうして遺体は完全な宝石となり、
もはや魔法理論上「肉体」として認識されなくなる。
そのため、
蘇生魔法。
完全蘇生魔法。
いかなる生命干渉魔法をもってしても、
宝石化した存在を生者へ戻すことは不可能である。
彼らは死に、同時に物質となるのだ。
宝石となった遺体は、一つとして同じ姿を持たない。
魔力量の量、種族、魂の性質によって、
内部には複雑な模様が生まれ、光は幾重にも屈折する。
深海のような青。
炎を閉じ込めたような紅。
星屑のような白銀。
あまりにも美しく、あまりにも残酷なその姿ゆえ、
宝石病は皮肉を込めてこう呼ばれている。
**──「世界一美しい病」**と。
この病の恐ろしさは、早期発見が完全に不可能である点にある。
生前に確認できる症状は存在せず、
魔法診断、呪術検査、魂波測定のいずれにも異常は現れない。
死を迎えた瞬間にのみ、結果として発覚する。
さらに不可解なのは、その宝石の流通である。
稀に、闇市や一部の宝石商にて、
極めて高価な「正体不明の魔力宝石」が売られていることがある。
専門家の鑑定により、
それらが宝石病による遺体であると判明した例も存在する。
だが出所は不明。
誰が回収し、誰が売りさばいているのかは、
今なお一切記録に残っていない。
発病の原因。
宝石化の理論。
魂と結晶化の関係。
そのすべては、未解明である。
ただ一つだけ、確定している事実がある。
過去に存在したすべての魔神は、例外なく宝石病だった。
そしてそれゆえに、
現存する魔神もまた、すでに宝石病を宿している存在であると考えられている。
魔神化こそが、
宝石病発病の唯一確認された条件なのである。
なぜ魔神がこの病を宿すのか。
それが呪いなのか、代償なのか、進化なのかは誰にもわからない。