勝デク⚠
2人共遊園地に来ています
地雷、苦手な人は見るの中断してください
ワンクッション
「甘い午後、半分こ」
休日の遊園地。
チケットを握りしめた手が少し汗ばんでいた。
「うわぁ……かっちゃん、すごい人だね!」
「うるせぇ、ガキみてぇな声出すな。」
出久は笑って誤魔化しながらも、
(だって、かっちゃんと来るなんて初めてなんだもん……)
と、心の中でつぶやいていた。
ジェットコースター、観覧車、輪投げ。
笑ったり、叫んだり、怒鳴られたり。
どの瞬間も全部、出久にとっては夢みたいだった。
けれど――
園内の甘い香りにふと足を止めたとき、
胸の奥が、少しだけざわめいた。
「……クレープだ。」
「は? あんな甘ったるいもん、いらねぇ。」
「い、いや、そうなんだけど……」
出久はメニューの写真を見つめた。
いちごとチョコが巻かれたクレープ。
ふと、小さい頃に読んだ恋愛雑誌のページを思い出す。
「好きな人とクレープを半分こするのって、恋の証なんだって。」
(……それ、ずっと憧れてたんだ。)
「なにボサッとしてんだ、出久。」
「っ!! な、なんでもないよっ!」
爆豪が訝しげな顔で出久を見ている。
出久は耳まで真っ赤になりながら、クレープを注文した。
「かっちゃん、ほら、ひとくちどう?」
「いらねぇっつったろ。」
「……じゃあ、半分、食べよ?」
爆豪の動きが止まる。
出久も息を呑んでいた。
(言っちゃった……!)
「……は?」
「ほ、ほら! 半分こって、なんか楽しそうじゃない?」
「お前なぁ……」
爆豪はため息をつきながら、クレープを受け取った。
そして無言で、端を一口かじる。
その瞬間、出久の顔が一気に赤くなった。
(あ、あああ、これ……僕がずっと憧れてた“恋”の瞬間だ……!)
手のひらが熱い。
鼓動が耳にまで響く。
クレープの甘い香りが、爆豪の匂いと混ざって、
世界がゆっくりと揺れている気がした。
「……なに赤くなってんだよ。」
「っ……べ、べつに!」
「チョコ、口についてんぞ。」
爆豪が指で軽く拭う。
その一瞬、視線が合った。
心臓が、跳ねた。
「……お前、マジで甘ぇな。」
「……かっちゃんだって。」
ふたりとも、笑いながら目を逸らした。
風が吹いて、紙ナプキンがひらりと舞う。
手の中のクレープはもう半分。
でも、出久の胸の中では――
今日という日がずっと終わらなければいいのに、と思っていた。
おわりです