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一つ、深呼吸をして、英厳が話し始めると同時に、私もそっと目を閉じて過去を振り返り始めました。
私は、気が付いたら此処、地球の現在のフランス共和国、当時の国名で言うならば、フランク王国に生まれていました。
西暦486年位の時に生まれたと思います。
ですが、私にはその頃の記憶が有りません。正確に言うと、漠然とした記憶は有るんです。貴族が楽しそうに笑う姿、沢山の絵画、石像、覚えているのはたったそれだけです。
覚えていない理由として挙げられるのは、当時の私の海馬がまだ未発達の状態で生まれたせいというものと、その時にはフランク王国の化身が不在で、私自身が仕える存在が居らず不安定だったせいというもの。その二つぐらいでしょうか。
正直生きていてそんなに不便に思ったりすることはなかったので、どちらでも良いのですがね。
しっかりと記憶が有るのは、984年以降ですね。
その頃から、私は絵を描くのが好きでした。
多くの絵を描き、沢山の美しい物を観てきました。
その時ぐらいですね、奥様が生まれたのは。私の真似をしたり、後ろをちょこちょこ付いて来ていて可愛らしかったのです。
そんなふうに美しい物を私は見続けていました。美しい物は、いつ見ても“美しい”と思えました。
ですが、ある時から、今まで美しかった物が“美しい”と思えなくなりました。
黄金色に輝く宝石も、霞んだ色にしか見えませんでした。
使用人も、国民も、王族も、皆さんが言う私の黄金色の瞳は、私にとっては、ただのくすんだ黄色にしか見えませんでした。
「どうして、こんなにも、美しくないのですか」
絵を幾ら描いても、描いても、私自身が満足できる美しさには到底及びませんでした。
油絵で、水彩画で、切り絵で、多くの技法を使ってみても、美しくはなりませんでした。
たぶんですけど、私の目が肥えたのと、普段見る美しい物に飽きたんでしょうね。
そんな私が描いた絵を皆さんは「綺麗だ」と、「美しい」と口を揃えて言いました。