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そんなある日、使用人に「貴方様ご自身を描かれるのはどうでしょう」と提案されました。
皆さんの言う黄金色の瞳の私を。
皆さんの前に居る時のそっと微笑む、淑女の鏡と謳われる私を。
使用人は言いました。
「西華様をそのまま写したかのようで、とても美しいです」
王族は言いました。
「今まで見てきたものより美しい」
国民は言いました。
「何と表現すれば良いのか分からないけど、言えるのは、美しい。その一言だけだ」
その絵を最後に、私は絵を描かなくなりました。
あんなに美しくない絵を私はもう描きたくなかったから、絵を描いていても、心が満たされなくなったから。理由はそんなところでしょうか。
そんなふうに過ごしていると、後に、百年戦争、一世紀戦争と呼ばれる戦争が起きました。
戦争が始まったせいで、私は体調を崩しました。
「西華、体調はどうだ?」
別荘の一室にある部屋のベッドに寝込んでいると奥様がやって来ました。
「絵、描き換えなきゃ」
奥様の言葉もこの頃の私の耳には届いていませんでした。
重い体を引きずるようにして、アトリエに足を運びました。
アトリエに着くと、少し前に、使用人から提案されて描いた絵、あの絵を、書き換え始めました。
皆さんの言う黄金色の瞳では無く、くすんだ黄色の瞳に。
そっと美しく微笑み表情を、貼り付けたような笑顔に。
「これが、一番私らしい」
そうして描き換えた絵を見ると、今の私を一番表現できていると思えました。