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それは涼が二十歳を迎えてから目に見えて酷くなった。
夜になると特に、穏やかな創は豹変する。
親に結婚の話を持ちかけられて参っている事も理由の一つ。そして准に自分の気持ちを伝えられない苛立ち、准の気持ちが自分に向かない苛立ちをぶちまける。それが物で済むならいいが、段々と明確な狂気を帯びていった。
「痛……っ!!」
耳を劈く音が聞こえた瞬間、涼の足元に割れた陶器の破片が散らばった。今日も彼の愚痴を真面目に聴いていたつもりだったのだが、どうやらおさまらなかったらしい。コップが飛んできた。
「ご……ごめん、成哉。俺……!」
「だ、大丈夫です。……片付けるので、危ないからこっちに来ないでください」
言いながら額に手を当てると、生温い液体がベッタリついていた。
切れてる……。
床に赤い雫が落ちるのを無視しながら、破片を片付ける。
痛い。痛くてたまらないのは切れた部分か、ぽっかり空いたこの胸の穴か……涼は分からなかった。
少しすれば泣きそうな顔で謝ってくる彼を、本気で責めることができない。
手当てしようと立ち上がり、ガーゼと包帯を使い切ったことを思い出す。丁度いいので外へ出ることにした。
准さんが大事だからこそ、自分の気持ちを押し殺してるんだ。創さんも苦しんでる。で、その憂さ晴らしが俺にくる。
家を出て彼から離れると心の底から安堵した。
けど、後ろめたい。どんなに酷く扱われても、彼は本当の自分を知っている唯一の人物。東京にいる唯一の味方だから。
「寒……っ」
実はその頃、准さんに会いに行こうか迷っていた。創さんは自分と彼が会うことを快く思ってないようだから、内密に。彼の真意を確かめたかった。
従兄弟で幼なじみで、今は同じ会社に勤めてるらしい。取り沙汰噂されることもない、品行方正を絵にかいたような人だという。
創さんの強すぎる愛情……。よっぽど鈍感な人間じゃなければ、さすがに気付いてるんじゃないだろうか、と皮肉っぽく考えた。
あわよくば、実は相思相愛でしたとか言って、めでたくくっついてくれないかと。……でも。
変な気分だ。釈然としない。それが果たして、彼の……彼らの為になるんだろうか?
自分は今の准さんを知らない。創さんから耳にたこができるほど、彼の人間性については聞かされていたが、あくまで人伝だ。実際に会ってみないとそれは分からない。
十五年前に自分に星を見せてくれた。
木間塚准。彼は、どういう人物なんだろう。