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エネアが三層の中層に足を踏み入れると、これまでとは異なる冷たさが肌にまとわりついた。薄暗い霧が漂い、視界を遮る。辺りは不気味に静かで、温泉の温かさとは全く違う冷たさを感じる。


「ここ、何か嫌な感じがする…」


そう呟きながら慎重に歩を進めるエネアだったが、突然、目の前に影が現れた。その影のシルエットを見た瞬間、彼女の体は強張った。そこに立っていたのは、かつて彼女を苦しめ、心に深い傷を刻んだ存在――彼女の父親だった。


「エネア…見つけたぞ。見かけないうちに更に母親に似て来たな…。さあ、帰るんだ」


低く響く声に、エネアは動けなくなった。記憶の中で封じ込めたはずのトラウマが一気に蘇り、彼女の心を蝕んでいく。父の母親への執念を思い出した。幼い頃からエネアを束縛し、何もかもを支配しようとした。母が死んだ後も愛され続けて安心していた時、父はエネアを無理矢理…犯そうとして来たのだ。

その圧力から逃れるために彼女は冒険者となり、自由を手に入れたはずだった。しかし今、再びその手が彼女を捉えようとしていた。


「やっと見つけたんだ、エネア。お前は家に帰って、私の言う通りに生きればいい。それが一番安全なんだ。こんな危険な場所で何をしている?」


父の言葉は、かつての支配と束縛を思い起こさせるもので、エネアの心に恐怖が広がっていく。自由に生きたいという願いを彼は一切理解しなかった。そして今も、それを理解する気配はない。

今でもエネアには、垢抜けて母親のようにならないといけないという意識が植え付けられているほどだ。

エネアはそれだけ苦しませられて来た。


「…嫌だ…帰りたくない…」


震える声でエネアは答えたが、父親の圧倒的な威圧感に対抗することができなかった。彼女の足は鉛のように重く、体が言うことを聞かない。再び父の支配下に戻ってしまうのかという恐怖が、彼女の胸を締め付けた。

嫌だ。気持ち悪い…。私は貴方の娘なんかじゃない!貴方の所に戻るくらいなら…。

「エネア、逆らうな。私の言うことに従えば、お前は幸せになれる。なあ?お前が愛されるにはあいつのようになり続けるしかない。」

「…。嫌…!や、やめて…。と、父様…。」

また…この人に…!

そう言って父がエネアに近づこうとしたその瞬間、突然、暗闇の中から声が響いた。


「彼女には彼女の意思がある。あなたがその意思を無視することは許されないぞ。」


その声は、エネアがよく知る魔族たちのものだった。暗闇の中から二人の魔族が姿を現し、彼女の前に立ちはだかった。彼らは鋭い眼差しでエネアの父親を見据え、その存在に対して一歩も引かない態度を示していた。


「お前たちは何者だ?愛する娘との会話なのだぞ?人間に干渉するな。なぁ?エネア…。」と、父親は苛立った声を上げた。

そして同意を求めるように、他の意見を聞く気がない様に、エネアに問いかけた。

「…。」

エネアは真っ青な状態で震え続けただけで、返事ができないことに気がつくと父親は魔物のような表情でエネア達を罵倒し始めた。。


だが、魔族たちは動じることなく、父親の前に立ちはだかった。強気そうな魔族が、冷静な声で言った。


「彼女は俺たちを救い、俺たちを尊重してくれた。私たちは彼女を守るためにここにいる。どんな理由であれ、彼女を無理やり連れ戻すことは許されない」


エネアはその言葉に涙が浮かびそうになった。彼女が心の中で恐れていた父の支配に対して、こんなにも力強く守ってくれる存在がいることに、驚きと感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。


「お前たちが何を言おうが、私は彼女を連れ戻す!彼女は私の娘だ。私の意志に従うべきなんだ!」


エネアの父は激昂し、魔族たちを威圧しようとした。しかし、その威圧は彼らには通じなかった。魔族たちは静かに、だが強くエネアを守り続けた。


「エネアが帰りたくないと言っているんですよ?ならば、彼女を無理やり連れ戻すことはできないでしょう。彼女の人生は、彼女のものですよ。あなたが勝手に決めてはいけません。」と、弱きそうな魔族が毅然とした態度で言った。


父はその言葉にしばらく沈黙したが、次第に苛立ちをあらわにした。


「彼女は子供だ!自分の未来など分かっていない!」


その言葉に、エネアは震えていた手を握りしめた。そして、深く息を吸い込むと、震える声で自分の意思をはっきりと告げた。


「私は…帰らない。もうあなたの言いなりにはならない。私は、自分の力で、自分の人生を歩むんだ」


その言葉は、今までの自分自身への挑戦でもあった。過去のトラウマを乗り越え、勇気を持って自分の意志を示す瞬間だった。エネアは、父の支配に縛られていた自分を解放するために、立ち上がった。


「エネア…駄目だ…。また面倒またやるからな。な? 」


父は彼女の変わった姿に一瞬驚いたが、それでも強引に彼女を連れ戻そうとする意志を捨てなかった。しかし、その瞬間、魔族たちがエネアを包み込むように前に進み出た。


「彼女はもうあなたのものではない。これ以上近づけば、我々が許さないでしょう。 」


その言葉に、父親はとうとう押し黙った。魔族たちの強い意志と、エネアの決意を前に、彼も無理に連れ戻すことはできないと悟ったのだろう。苛立ちと屈辱を感じつつも、父は最後にエネアを冷たい目で見つめた。


「…ははは…!後悔するなよ、エネア」


そう言い残し、彼は霧の中へと消えていった。


エネアはその場に立ち尽くし、しばらく静かに呼吸を整えていた。恐怖はまだ完全に消えてはいなかったが、今は彼女自身が選んだ道を歩む力強さを感じていた。


「ありがとう、2人とも…。あなたたちがいなかったら、きっと…私はまた過去に戻っていたかもしれない」


魔族たちはエネアの言葉に優しく微笑み、弱気そうな魔族が穏やかに言った。


「エネア、あなたはもう一人ではないです。僕たちはあなたを守り、あなたの選んだ道を支える。あなたの自由と意志を尊重する、それが僕たちの使命です」


エネアはその言葉に胸が温かくなり、再び歩き出した。彼女はもう過去の恐怖に縛られることはない。


「正面から手を貸したら怖がられてないか…?大丈夫か?」

「ありがとうって言われた…。 」

弱きそうな魔族は、エネアからのお礼に歓喜しつつも、弱ったエネアを魔族の村で療養してくれたのだった。

「…。俺らのこと怖くないか?」

「うん。どんなに触れても怖くないよ」

寝ぼけたエネアに満面の笑みで手を握られて、

一瞬で落ちかけたのだった。

「…!…何だか鼓動が早くなって、体が熱いのだが何かしたか?」



「…?なにそれ?」

エナアも強気な魔族も気がついていなかったが、それを見ていた弱気な魔族は心でツッこんでいたのだった。


いや、それ恋だよ…?


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