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ゆずき
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#オフィスラブ
泉屋乃苺
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大木がスッポンドリンクを一気飲みして倒れた翌朝。
僕達バスケットボール部は激しい朝練をこなしていた。顧問であり監督でもある緑川先生のもとで。彼は今時珍しい超スパルタ式の練習方法で、それは校内――私立|我妻《あづま》国際高校――だけにとどまらず、他の学校でも周知の事実となっていた。
で、今日さっそく目を付けられたのは大木だった。
「おい、大木! ヤル気あんのか! ちゃんと集中しろ!」
まあ、怒られるのも当然だ。
相手がマンツーマンディフェンスをしてくるケースを想定しての練習中だというのに、大木は上の空。ニヤニヤしながらボーッと突っ立ってるだけだった。
「えへ。えへへへ」
(あー……絶対に昨日の『アレ』が原因だよな)
なんせ大木の奴、朝からずーっとはしゃいでたもんなあ。『ついに俺にも彼女ができるぜ!!』とか言いながら。
でもさ、練習に集中しろってば。気持ち悪いってば。ニヤニヤするなってば。お前は一体、どんだけ女子に飢えてるんだよ。まあ、気持ちが分からないでもないけどさ。僕も似たようなものだし。
とりあえず。後でしっかり釘を刺しておくとしよう。面倒くさいけど。
そして僕はチラリと明里を見やった。ノートパソコンを持参し、練習風景を動画として撮っているようだ。
実はコイツ、分析がめちゃくちゃ得意なのだ。中学校時代のエピソードなんだけど、こんなことがあった。
* * *
『ねえ大輔? 最近シュートの成功率下がってない?』
『う、うん。正直下がってる……』
あの頃の明里はマネージャーでもなんでもない、ただの帰宅部だった。だけど、毎日のように練習を見に来ていた。僕にイチャつくために。抱きついてきたり、キスを迫ってきたり、チョメチョメしようとか誘ってきたり。
平静を装いはしていたけど、その度に、僕の鼓動は激しくなっていた。明里に聞こえるのではないかと心配する程に。
しかし、こういうのを溺愛って言うのかな? だとすれば、僕も自分の気持ちに正直になるべきだったのかも。仮にそうしてたら、今頃、僕と明里は――。
て、ちょっと脱線しちゃった。話を戻すことにしよう。
『あのね、昔の大輔はゴールと正対してシュートを打ってたんだけど、最近やけに体を斜めにしてシュートの態勢に入ることが多くなってるの。そのせいだと思う。成功率が下がってるのは』
その後、もっと細かな理由を説明してくれたんだけど、正直驚いた。明里が僕のシュートの成功率が下がっていることに気付いた理由を知って。
そのキッカケは背番号だったらしい。明里の側から見て、今まではっきりと見えていた僕の背番号が、最近になって急に見えづらくなっていると感じたのだという。
つまり、僕はディフェンダーを意識するあまり、急ぎすぎて、焦りすぎて、ゴールと正対する前にシュートを放っていたのだ。
ただでさえ、スリーポイントシュートの成功率は他のシュートと比べてずっと成功率が低いというのに。
しかし、それに気付かせてもらってから、僕のシュートの成功率は元に戻るどころか飛躍的にアップしたのだった。
* * *
と、まあ。そんなことがあったんだ。
明里は分析力に長けており、なおかつ鋭い観察眼を持っている。
なので、今では明里はすっかり分析班として重宝されている。マネージャーなら他にも二人いるから、明里がそちらに重きを置いても別段困るようなこともないし。
とりあえず。せっかく動画を撮ってくれてるんだ。後でそれを見せてもらうことにしよう。
* * *
「ふう、朝から疲れた」
朝練が終わったので教室に向かう準備を終えてから一度体育館に戻ったところ、やけにニヤニヤしながらノートパソコンを見ている明里が目に入った。
「明里、さっそく分析でもしてる……え?」
「ん? どうしたの大輔?」
明里がニヤけながら見ていたのは、練習を終えて汗でびしょ濡れになったTシャツを脱いだ半裸姿の僕だった。
「おま……これ、どうするつもりなの?」
「どうするって、決まってるじゃん。画像に変換してから引き延ばしてポスターにするの。むしろ、それ以外に使い道あると思う?」
「はあー!!?」
「それで、私の部屋に貼りまくろうかなって。そうすれば毎晩、大輔の裸を見ることができるし。いやいや、私ってば本当に天才かもね。あははっ!」
「えっと……ツッコミどころが多すぎるんですけど。とりあえず、まず。『決まってるじゃん』って言ってるけど、決まってないから。それとそれ、ただの盗撮だから。というかさ。明里の部屋って一体どうなってるの? めちゃくちゃ気になるんですけど」
「どうなってるって? もちろん大輔のポスターだらけだけど?」
あ、愛が。愛が相変わらず重すぎる……。ダンベル並みに。いや、バーベル並みに。溺愛のレベルを軽く超えちゃってるし。
「『もちろん』じゃないでしょ……」
そういえば、いつからだったっけ。明里が僕に対して隠すことなく、濁すことなく、真っ直ぐで積極的なアプローチをしてくるようになったのは。確か、小学六年生になったくらいからだったような。
その時の僕には恋愛だとか恋だとか、そういうことに全く興味がなかったからスルーしちゃってたけど。
でも――
(自分の気持ちに正直になってる明里のことが、ちょっと羨ましくなってきたよ)
そう、羨ましいんだ。臆病な僕からしたら。
そもそも、僕が明里に対して恋心を抱いたのは中学二年生の時だったし。
それが、僕の初恋だった。
遅すぎるよね。
だけど、昔から思っていた。僕は明里のこの愛の重さに耐えられるだろうかと。
だからこそ、未だにその好意に対して無関心を装うことにしているんだ。苦しいけど。まるで、海の底に深く沈められて息ができないでいるような、そんな感覚だ。
(でも、そろそろ限界かな)
たぶん、全面的に明里の愛を受け止める決心をした瞬間、僕の理性の箍は完全に外れてしまうだろう。
無関心を装い、長年ひた隠しにしてきた、明里への恋心。一度爆発してしまったら、僕は暴走するに決まっている。
「あ! そうそう。大輔にプレゼントがあるの! もうすぐお誕生日でしょ?」
「え? よく覚えてたね、僕の誕生日」
まあ、本当は僕も覚えてるんだけどね。明里の誕生日が三月三日であることは。照れくさいから言わないけど。
「当たり前じゃん! 私は大輔のお嫁さんなんだから。ということで、はい! 私からのプレゼント!」
手渡されたのは、丸められた長い紙製の何かと、折り畳まれた一枚の布だった。うん。嫌な予感しかしないんですけど。
で、開いてみたんだけど、予感的中。
「は!? な、何これ!!」
手渡されたそれらを広げてみたんだけど、長い紙製の方は明里の姿がプリントされた大きなポスターだった。そして、折り畳まれた布の方は、なんだこれ? 等身大の明里がプリントされた何かだった。
「あ、あのー、明里さん? これは一体何なんでしょうか?」
「えへへー。これで大輔は家に帰るたびに私のことを思い出してもらえるかなって。それで用意しておいたの」
うん。回答になっていない。
「そ、そうじゃなくて。まあ、ポスターは分かる。分かりたくないけど分かる。で、この布の方は何なの?」
「抱き枕カバー。大輔、最近抱き枕を買ったでしょ? それにこれを被せればあら不思議。まるで私が一緒に添い寝しているかのような抱き枕に変わっちゃうの。どう? 嬉しい?」
「……どうして僕が抱き枕を買ったことを知ってるわけ?」
僕の問いかけに、思い切り目を泳がせる明里であった。
コイツ、絶対に僕の部屋に入っただろ。母さんから受け取った合鍵を使って。
でも、さすがにこれは……。そもそもさ、なんのために僕の部屋に入ったんだよ! 怖いよ!
「……ん? 何このフォルダ?」
パソコンを開きっぱなしにしていたのでチラリと見えたんだけど、『大輔の色々』というフォルダが目に入った。
「こ、これはダメ! 絶対に、ぜーったいに開かないでね!」
うん。絶対に開かない。というか開きたくない。
怪談話よりも怖く、そして、背筋が寒くなるのが目に見えているから。
これ、本当に溺愛っていうのかな……。ただのヘンタイさんのような気がしてならないんですけど。
【続く】
コメント
1件
あー、もう明里ちゃんヤバすぎるでしょ!笑 抱き枕カバーとかポスターとか、行動が完全にストーカーだけど愛が重すぎてむしろ清々しいわ。 大輔のツッコミがマジで正論すぎて、でも逃げ切れなさそうなのがまた面白い。 「大輔の色々」フォルダは開けたらトラウマ確実だから絶対やめとけ! バスケの分析エピも入ってて、明里の有能さとヤバさのギャップにますますハマる。 続き気になる~!