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「確かに。持統天皇の頃から千三百年続いてる伝統だが、供物とかも、誰も使ってない素焼きの焼き物を使って新品を備えていて、可能な事なら毎日新しいお宮に住んでほしい。……だがそうもいかんだろ」
「破産しちゃう」
「で、二十年っていう期間だが、今だと税金を収めているが昔は米だったろ? それで米の備蓄の上限が二十年って決まっていたらしい。今の感覚だと、二十年税金を貯めてその金で当たらしいお宮を作る感じだ。これについて色んな論争があったらしいが、伊勢神宮の神主さんが学者でもあり、論文を書いて大体この説で収まったとか」
「なるほど……」
ミコペディアの話を聞きつつ、私たちは鳥居に向かう。
グレーの石造りの鳥居の左右には、石灯籠があり、私たちは一礼してくぐる。
左右を木立に囲まれた砂利の道を進んでいくと、とても清涼な気持ちになった。
もう一つの鳥居をくぐり、右手に神楽殿、五丈殿――雨よけ、境界を守る四至神があり、さらに奥へ行くと古殿地に着く。
古殿地は新御敷地とも言う。
というのも、しめ縄で囲まれた砂利の土地は、例の二十年に一度御正宮を移すための場所で、もともとはここに御正殿があったので遷宮のあと六か月は古殿地と呼ばれる。
けれど遷宮から六か月を過ぎれば、次の御正殿が建つ場所として新御敷地と呼ばれるようになる。
ちなみに左側には塀に囲まれた中に茅葺き、木製の御正宮――豊受大神宮があり、次の遷宮になればこの建物が解体されて、右側の古殿地にご神体ごとお引っ越しするらしい。
「あそこにポツンと小さなお社みたいなのがあるだろ」
尊さんは砂利地の奥を示す。
「あ、はい」
「あれが以前この場所に、御正宮が建っていた場所と言われてるそうだ」
「へー! バミリ大事」
「まぁな、バミリ大事だな」
尊さんは私の言葉を聞いてクスクス笑う。
それに参加したのは弥生さんだ。
「バミリ大事よ~。コンサートでも前半はオケのコンサートだけど、後半でピアノ協奏曲が入ると、途中からグランドピアノを移動させないとならないじゃない。その時にリハーサルと同じ位置で椅子がセットされてないと、本当に収まりが悪くて弾けたもんじゃないの」
いわずもがな、バミリとは舞台などで出演者や機材などの立ち位置、設置場所を間違えないように、床にテープを貼っておく奴を言う。
……まぁ、それと一緒にしちゃうのはちょっと罰当たりだけど。
左手にある豊受大神宮は、鳥居をくぐって排所で参拝はできるけれど、普通の神社と同じように御正宮を直接拝む事はできない。
その代わり〝せんぐう館〟に実物大のレプリカがあるとか。
「あー……、細かい事なんだが……」
尊さんはそこまで言い、腕組みをして少し黙る。
「なんですか? ミコペディア頼りにしてるんですから、全部言ってくださいよ」
ツンツンとつつくと、彼は溜め息をついて言う。
「まぁ、金運上昇とか商売繁盛とか、そういうのは別の所でやったほうがベターなのかな、と。神社も適材適所というか。……伊勢神宮は天皇陛下が参拝されて、国民の幸せを祈ってくださる場所だ。そこで俺らが私利私欲に満ちた願掛けをするか……、という話で。……んまー、細かい事を言って悪いんだが」
「いえいえ、教えてもらえて嬉しいです。確かにそうですよね。じゃあ日頃の感謝と、世界平和を祈っておきます」
「ははっ、俺もそうしとく。……で、参拝のおさらいな。まず、揖。最初の軽いお辞儀。そのあと賽銭を入れて二拝。拝は九十度ぐらいの深いお辞儀だ。それで祈願。そのあと二拝二拍手一拝。……で、また揖。それで正中……御本殿の真ん中側の足を先に引いて退場」
「わぁー……、ちょっとリハーサルします」
私は尊さんにレクチャーを受け、お参りのリハーサルをする。
その様子を見守ってくれていた百合さん、ちえりさん達と共に、御正宮にお参りをした。
鳥居の中は写真撮影禁止で、緊張しながらのお参りだったけれど、なんとかミッションクリアした。
そのあと一旦引き返し、亀石を横目に池を渡ると、右手に大土乃御祖神を祀った別宮・土宮がある。
こちらは市街地の西にある、宮川の氾濫に困った昔の人々が祀った神様だ。
左手にある別宮・風宮は、級長津彦命、級長戸辺命を祀っている。
級長津彦命は伊弉諾尊と伊弉冉尊の間に生まれた風の神らしい。
そして級長戸辺命と同一の神とされたり、兄弟だったり、夫婦とも言われたり、色々だ。
こうやって二柱を合祀している神社も多くあるらしい。
名前の〝し〟は〝風〟、〝な〟は〝長い〟を意味していて、歴史で習った元寇を退けた神風を吹かせた神様だとか。
他にも航海の安全を守る神様、読み方から風邪を治す神様としても祀られている。
臣桜
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上野文
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コメント
1件
ああ、このエピソード、すごく好きですよ。遷宮の話から始まって、実際に参拝する流れが美しい。二十年前の貯蔵経済で遷宮周期を説明するところとか、ミコペディアの知識が自然に料理されてて「そういう仕組みか」と腑に落ちました。それと尊さんの「伊勢神宮で私利私欲の願い事はどうか」という一言にはっとさせられましたね。神様と人間の距離感、神社の適材適所という考え方に、この作品らしい誠実な世界観を感じました。