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臣桜
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上野文
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さらに奥には下御井神社がある。
こちらはお宮が木製の柵に囲まれていて、下御井鎮守神を祀ってある。
周囲はかなり木々が生い茂っていて、ちょっと恐い雰囲気がある。
今は大人数で回ってるから平気だけど、一人できたらビビったかもしれない。
囲いの中にある小さなお宮に見えるのは、井戸を覆う小屋みたいなものらしい。
下御井鎮守神は、伊勢神宮の神様が飲む御料水の守護神だそうだ。
外宮には上御井神社もあるけれど、そちらは一般に参拝する事はできない。
同じ井戸の神様だけど、〝上〟と〝下〟は文字通り上下関係にある。
上御井神社では、元旦に初めて組む、一年の邪気を払うと言われる若水を汲んでいる。
毎朝、浄衣を着た神職の方がお水を汲んで、神様にお供えしているらしい。
他にも伊勢神宮で醸造するお酒に使う水も、上御井の物を使っているとか。
メインで使っているのは〝上〟で、私たちが今いる〝下〟は〝上〟が何らかの理由で使えない時のサブ扱いだ。
「高天原――、まぁ、ざっくりと神様のいる所、にある井戸を忍穂井と言って、その水が丹後国比治の真名井――一説では、『丹後国風土記』にある奈具神社、または籠神社の奥宮にある、眞名井神社……を経て、豊受大御神が伊勢の外宮に住まいを移した時、この井戸にも高天原の水が宿った……とされてる。あとは、天岩戸と繋がってる説とか、天照大神の孫の瓊瓊杵尊が掘った説とか、色々な」
「ふーん……」
私は腕組みをして考えたあと、シュパッと挙手する。
「そもそも、天照大神とコンビを組む事が許された、豊受大御神って何者ですか? お参りが終わったあとに何ですが。外宮に住んでいいほどお気に入りなんでしょうか」
「はい、上村さんいい質問ですね」
尊さんが言い、他の皆さんは私たちのやり取りをニコニコして見ている。
「四八七年、雄略天皇の時、天照大神が天皇の夢に出て言ったらしい。『自分一人じゃ大変だから、身の回りの事をやってくれる神様呼んでね~』って」
「なんと!」
思いも寄らない天照大神の親しみやすさに、私はケラケラ笑う。
「それでもともと丹後――、京都にいた豊受大神宮……、豊受姫が呼ばれたって訳だ。那智の時に伊弉冉尊がカグツチを生んだ時に、陰部をやられて倒れたって話をしたろ。そのあとに生まれた和久産巣日っていう神の子供が、豊受姫とされてる。和久産巣日は五穀や蚕、桑の神で、豊受姫も食物や穀物の神だ。……まぁ、和久産巣日は『日本書紀』ではカグツチの子供とされてるけど」
「へぇ~……。じゃあ、尊さんと町田さんみたいなものですね。一人暮らしじゃ色々大変なミコトと、そのお世話をする町田さん。納得しました」
それを聞いて、周りにいた皆さんが噴きだした。
彼も思わず笑い、付け足す。
「羽衣伝説ってあるだろ」
「ああ、あの水浴びしてたら服を泥棒された奴ですね」
「そうそう。『丹後国風土記』では、その羽衣をとられた天女が豊受姫ともされてる」
「へぇー……。何て言うか……、不幸体質のヒロインみたいな神様ですね」
「そうとも言えるな。大企業の社長の家政婦をやって、美貌のあまり男に執着されるとかな……」
そうやって考えると、めっちゃ親近感が湧いた。
「その羽衣伝説も丹後型では天に帰れなくなった天女が老夫婦の子供になって、酒造りで大繁盛して富をもたらすも、自分の子供じゃないと追い出されて、結果的に豊受姫という神の形で地上に留まるパターン。これは山間部の伝承では、天女の父親が求婚してくる男に難題を出す、七夕伝説に繋がる場合もある。……近江型では、天に帰れなくなって男と結婚し子供を産むが、羽衣を見つけて天に帰るパターン。子供を置いてく説もあるし、一緒に連れてく説もある」
「どのパターンでも苦労者ですねぇ……」
話しながら私たちは来た道を戻り、緩くカーブする石段を登って別宮・多賀宮へ向かった。
コメント
1件
え〜っと、このエピソードめっちゃ面白かったよ!😊✨ 神社巡りしながら神話の話がスッと入ってくるのがすごく良いな〜って思った!特に天照大神が「ひとりじゃ大変だからお世話してよ〜」って夢に出てきたエピソード、想像したら可愛すぎて笑っちゃった!( *´艸`) しかも豊受姫があんなに苦労人な神様だったなんて知らなかったよ…。主人公の「尊さんと町田さんみたいなものですね」って例えが秀逸で、神話が急に身近に感じられた!✨ 毎回そうだけど、知識を押し付ける感じが全然なくて、ほんと心地よく読める作品だな〜🌸