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「むりむりむり、晴陽さん無理だって!」
「大丈夫だから!ほら行こうよ!」
私達はもう一人のメンバーさんの待機する空き教室の前でこのやり取りをもうすでに二、三分はつづけているだろう。晴陽さんの勢いに負けてついここまでついてきてしまったことを今更後悔する。そんなこともお構いなしに晴陽さんは隙ができた瞬間に思いっきりドアを押し開けた。
「晴陽。落ち着けって。全部聞こえてたよ。」
どんな陽キャな女の子が待ち受けているのかと怯えていた私は一瞬脳が停止してしまったかのようなショックを覚えた。もう一人のメンバーさんは背の高い男性だった。
「晴陽さん…。無理だって!なおのこと無理だって!男の人怖いって!聞いてないって!」
「まあまあまあまあまあ、ほらほら大丈夫だから!ね、湊くん!」
高身長イケメンは話題を振られて一瞬たじろいだような素振りを見せてからやれやれと言った表情をみせる。
「ハルの言う通り危険な人じゃないですよー。」
「そうそう!こいつ人畜無害だから!」
「おい。言い方ってもんがあるでしょうが。」
ハル。晴陽さんのことなのだろう。このイケメンにはハルと呼ばれているのか。なぜだか胸のあたりがちくりと痛い。この男性と晴陽さんを見ていると、晴陽さんがやはり自分とは違う世界の人であることが再確認されているようだ。
「まあともかく。小鳥遊湊です。よろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いします。彼方紫雨です。」
改めて横に立つと身長が高いことがよりわかる。女子高出身の私からすれば男子というのはそれだけで身長が高いのに湊さんは多分その中でも身長が高いのだろう。顔も多分結構かっこいい。そしてなんとなく接しやすい雰囲気をまとっている。晴陽さんの周りは皆こういう人ばかりなのだろうか?
「紫雨ちゃん!緊張することないからねー。私も湊ものんびりやってくつもりだから!」
私が来る前は湊さんと晴陽さんの二人でカフェをやるつもりだったのか。美男美女でとてもお似合いだ。ん?もしや私は邪魔なのではないだろうか?
「あのー晴陽さん…。もしかしてお二人って、つ、付き合ってますか?」
「え?私と湊が?」
二人は顔を見合わせたかと思えば大笑いした。
「ないないない。高校が一緒なだけだよ。あとまた敬語になってるし!もう紫雨ちゃんってかわいいなあ。」
か、かわいい?晴陽さんに言われると妙なむず痒さがある。
「まあ今日やることないし解散ね〜。おつかれ!」
バーンと扉を押し開けてルンルンで晴陽さんは教室を出ていってしまった。なんだか初対面の人に何も言わずに去ってしまうのは失礼のように感じて私はどうしたら良いのかわからずオドオドしてしまう。
「紫雨ちゃんだっけ?」
父以外の男の人に名前を呼ばれるのは久しぶりでビクッとする。
「そんなに身構えなくていいって〜。ていうか、晴陽とは付き合ってないからね?」
口調は優しいのに声音がなんだかよそよそしくて何を考えているのか全くわからない。
「ハルとはそんな感じじゃないし大体あんなうるさいやつ好きになんてなれないよ。なんなら紫雨ちゃんのほうがタイプかも、かわいいし。」
私はからかわれているのだろうか。本当によくわからない人だ。湊さんの顔を盗み見ると湊さんはこちらを見ていた。色素は薄くないがどこか柔らかな、春風を思わせるような優しい目。思わず目を逸らしてしまう。私は晴陽さんのときもそうだがまっすぐ目を見つめてくる人と目を合わせるのが苦手らしい。
「まあいいや、おつかれさん。また今度ねー。」